さすらいのアウトドアライター、ユーコンカワイさんが、その独特の視点と語り口で、岐阜から登る北アルプス=裏北アルプスの魅力を紹介するシリーズ「裏北アルプス旅行記」。本記事では、日本300名山の一つ、三方岩岳の山・街・人の魅力をご紹介します。名前のわりに登りやすく、世界遺産白川郷合掌造り集落も楽しめるこの地の魅力とは?
【特集】ユーコンカワイの裏北アルプス旅行記 #01/特集記事一覧はこちら
2020.08.04
ユーコンカワイ
アウトドアライター&グラフィックデザイナー
言わずと知れた世界遺産「白川郷」。裏北アルプスの中では、ある意味「大将」とも言える観光地で、そこに行くだけでも十分に楽しめてしまうだろう。
しかしあえて言いたい…白川郷だけじゃもったいないよ! と。
今回は山と街を絡めた「山旅」の魅力をご紹介しているが、白川郷の近くに非常に魅力的な山があるのを伝えておきたい。その名は「三方岩岳(さんぽういわだけ)」だ。漢字だけ見ると、何やら三方が岩に囲まれててとんでもない難所なんじゃないのか…と不安になってしまうが、難所とは程遠い超ピースフルなお山なのである。
全国的にはあまりメジャーな山ではないが、実はここ、日本300名山にも選ばれている隠れ名山だったりする。飛騨岩(岐阜県側)、越中岩(富山県側)、加賀岩(石川県側)の3つの大岩壁に囲まれていることから三方岩岳と名付けられている。かつては簡単に行ける山ではなかったが、今は「白山白川郷ホワイトロード」の開通で駐車場や登山道が整備され、誰もが気軽に登れる山となった。
登山口となる「三方岩駐車場」自体が既に標高1,445m。そこから綺麗に整備された登山道をわずか約50分歩くだけで、1,736mの山頂へと到達することができる。道も明瞭で安全なため、お子様連れでも気軽にトレッキングが楽しむことができるから、登山慣れしていないファミリーや年配の方でも安心だ。登山に時間がかからない分、白川郷を含めた周辺の観光と合わせて、充実した「山旅」ができるだろう。
白山白川郷ホワイトロードを飛騨側から30分ほど走ると「三方岩駐車場」に到達する。正直その駐車場までのドライブすらすでに気分が良く、途中には白川郷を一望できる展望台もある。駐車場は62台分の駐車スペースがあるほど広く、綺麗なトイレもあってありがたい。
登山口には登山届けポスト(用紙と記入台、案内チラシもあり)がある。いくら簡単な山とはいえ、ちゃんと登山届けを提出してから出発するようにしよう。
まず目指すのは中間地点の標識がある「分岐点」で、そこまでは約25分の道のりだ。登山道はよく整備されており、危険な箇所もなければ道迷いの心配も少ない。ある程度行ったところで駐車場を見下ろすと、何やら「天空の駐車場」って感じでマチュピチュ感? も味わえる。この時点で新緑の季節は木々の緑が眩しく、秋ともなれば見事な…というか壮絶な紅葉が出迎えてくれるだろう。山頂まで登らなくても、その紅葉を見るだけでも十分な価値はある。
登っている最中も、眼下には広々とした景色が広がる。そこはまさに「緑の海」と言ってもいい豊かな森が広がっており、このエリアの自然の豊かさを肌で感じることができる。
秋にはこの緑の海は、紅葉の海と化す。やはり新緑と秋の時期がオススメだろう。
途中様々な高山植物を愛でながら進めば、やがて「分岐点」に到達。ここにはちょっとした広さの休憩スペースがあるので、ここで一度休んで息を整えるといい。
そこから山頂までの所要時間も約25分。前半よりは多少道はなだらかとなり、木道などもありのんびりと森を楽しみながら歩ける。
やがて思わず「おお」と声が出てしまうほどの見事なダケカンバの古木が現れる。その古木は樹齢約300年とも言われ、実に神秘的な佇まい。ぜひ静かに対峙して、300年前の森に思いを馳せてほしい。
その後、特徴的な飛騨岩の姿を見ながら登っていくと山頂へと到達する。瞬間、目の前に一気に展望が開け、大迫力の白山があなたを出迎えてくれるだろう。
山頂には遮るものはなく、360度の見事な絶景が堪能できる。白山のみならず北アルプスも展望でき、天気が良ければ遠く日本海までもが見ることができる。ベンチもあるので、ぜひゆっくりとそこでの贅沢な時間を過ごしてほしい。
下山は元来た道を下っていくが、眼下に森の海を見ながら下れるので2度楽しめる。
ただ、あまりに景色が良いからってのんびりしすぎないように。駐車場のゲートが閉じてしまうため、17時までには必ず下山できるように余裕を持って行動するようにしよう。
三方岩岳周辺にはそこまで多くの日帰り入浴の場所はない。しかし、少ない中でもここでしか味わえない温泉がある。実は、なんとあの白川郷の真っ只中に温泉に入れる場所がある。そこはまさに「世界遺産を体ごと楽しむ!」といった究極の贅沢を楽しめる温泉で、名前もズバリ「白川郷の湯」という。
露天風呂からは白山連峰や合掌造り集落、眼下には庄川の流れが拝めるという、思わず合掌したくなるありがたさ。宿泊もできるので、ここに滞在してゆっくり白川郷を堪能するのも良いだろう。
もう少し静かな場所でゆっくりと温泉に入りたいって人は、白川郷から車で15分ほど南下したところにある「大白川温泉 しらみずの湯」が良いだろう。
源泉掛け流しの湯で、開放感のある露天風呂からは美しい山並みを仰ぎ見ることができる。食事もできるので、ファミリーにはありがたい施設である。
もはや言うまでもないが、なんといってもやっぱり世界遺産「白川郷」だ。日本の原風景を色濃く感じることができる「合掌造り集落」は、今でも大小100棟余りの合掌造りが残っており、その見事な家の作りは圧巻の一言。
他の観光地に比べて何が良いかって、ちゃんと今でもそこで人々の生活が営まれてるっていう点。文化や風土をダイレクトに感じることができ、旅情がくすぐられまくるのだ。そして泊まるもよし、散策するもよし、グルメに舌鼓を打つもよし。もちろん、川を眺めながらボーッとするのもアリだ。そこにいるだけでノスタルジックな気持ちとファンタジーな気分が交差し、楽しいだけじゃなく不思議と心が穏やかになる場所。ぜひ隅々まで歩き、地元の人に触れ、自分だけのディープな場所を見つけてみてほしい。
また、自然が豊かな白川村でファミリーにイチオシなのが「トヨタ白川郷自然學校」だ。ここは宿泊もひっくるめて自然を丸ごと体感できる場所で、多くの自然体験を通して子供から大人まで楽しく、そして深く自然を学ぶことができる場所である。
季節によって様々な体験プログラムが用意されており、何度も通いたくなる要素が詰まっている。また、宿泊者は施設内の天然温泉も楽しむことができ、そのアルカリ性の温泉はお肌をすべすべにして身も心も温まると評判だ。また、白山の麓の白水湖では「ラフトボートクルーズ」なども行っており、エメラルドグリーンの湖でのちょっとした冒険を楽しむことができる。
THE観光地の白川郷なので、多くの情報が様々なメディアに載っている。なのでここではそういう情報には触れず、「地元の人が知るツウな情報」を載せていこうと思う。インタビューさせていただいたのは、前述の「トヨタ白川郷自然學校」で長年自然体験の企画・運営をしつつ、山のガイドもこなす三原ゆかりさん。白山麓の自然と人の魅力に魅せられ、年間を通じて常にこの土地で活動してるアクティブな方だ。
−この地域のどんなところが好きですか?
三原:「山が深い」ところですね。白山は本当に緑が豊かで、高山帯のお花も綺麗だし、なんだか安心する場所なんです。白山に関わっている人たちにも育ててもらいましたし、白山という山域全体が本当に大好きですね。
−個人的に好きな場所はどこですか?
三原:とにかく山の上からの見通しがいいので、よく三方岩岳付近の山の中を動き回ってます(笑)。季節によって変わりますが、特に秋は高いところに行って「紅葉がだんだん下りてきてるなー」ってのを俯瞰するのが好きですね。それはもう本当ダイナミックな光景ですよ。
白山の紅葉は9月の下旬から始まるので、大白川のロッジがある辺りや、三方岩岳の駐車場辺りだと10月の上旬が見頃です。特に三方岩岳はツツジの種類が豊富で、赤や黄色、常緑樹の緑などの色が混ざり合ってすごく綺麗。森の中に入って見ても良いし、外から見ても楽しめますよ。
−地元の人ならではのおすすめグルメなどはありますか?
三原:白山麓はとにかく水が美味しいんで「豆腐」が美味しいです。特に白山麓の食文化でもある、縄で縛って持ち運びできるほどの「固いお豆腐」がオススメですね。
白川郷にある農協さん(Aコープ)で買えるんですが、こっちの人はそこで売ってる「鶏のセセリ」もよく食べます。味噌に漬けて、キャベツと炒める岐阜のソウルフード「けいちゃん風」にして食べるのが美味しいんですよ。私は農協さんに行くといつも固豆腐とセットで買います(笑)。あとは「キクラゲ」がすごい肉厚で美味しいです。それも農協さんで買えますよ。
−山旅で来る人に一言!
三原:旅は「非日常体験」です。そういう意味で、手前味噌ですが、やはり自然にどっぷり浸れる「トヨタ白川郷自然學校」はオススメです(笑)。
うちには温泉ソムリエの資格を持った人もいるんですけど、ここの単純泉はお肌に良いだけじゃなく、自律神経や副交感神経を高める効果もあるそうです。そんな温泉に浸かって、森を歩いて、美味しい食事を食べて、元気になってまた日常に戻っていただけたらいいなと思います。
とかく白川郷だけに目が行ってしまいがちな白川村。しかし、実際に行ってみて感じたのは、これほど「自然と文化が濃い形で融合してる場所」は他には無いってこと。これは本当、山も街も総合的に旅をしてみて初めて気付けることだ。
日本の原風景が残った桃源郷。三方岩岳+白川郷+自然体験+温泉+食文化。滞在しながらここまで複合的に楽しんでこそ、このエリアの真の魅力に出会える気がする。とにかく味わうべきは、深く豊かな自然環境と、脈々と伝わって来たそこに暮らす人々の文化、そして優しさだ。
白川郷観光のもう一歩先の世界へ。白川GO! の裏側GO! で出会えるGOODな世界。季節に応じて、そんなディープな「山旅」をぜひ楽しんでみていただきたい。
原稿・撮影:ユーコンカワイ
コメント:三原 ゆかり
トップ写真:@やまちゃんさんの活動日記より
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