「高い山に登らないから危なくない」は大間違い? YAMAPフル活用で安全登山を

「山で遭難した」と聞くと、多くの方が「3,000m級の高山で滑落し、断崖絶壁の山中からヘリコプターで救助される」というシーンを想像するのではないでしょうか。しかし、日本の山岳遭難の多くは中低山域で起こっています。遠征を避けて近所の身近な山に登る機会も増えている今だからこそ、備えを見直してみませんか?登山地図以外の利用法でYAMAPをフル活用して、安全に登山する方法をご紹介します。

2020.08.28

YAMAP MAGAZINE 編集部

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低山や里山にしか登らないなら、備えは必要ない?

遭難救助訓練の様子

岩手八幡平山岳ガイド遭難対策班さんの活動日記より/遭難救助訓練の様子

「山で遭難した」と聞くと、多くの方が「3,000m級の高山で滑落し、断崖絶壁の山中からヘリコプターで救助される」というシーンを想像するのではないでしょうか。

ですが、実際に日本で起きている山岳遭難事故の実態を見てみると、以下のことが分かります。

・遭難原因の4割が「道迷い」※1
・遭難事故の約80%が標高2,000m未満の中低山域で発生している ※2
・ヘリを使わない捜索でも数十万円の捜索費用が発生することがある

※1…警察庁「令和元年における山岳遭難の概況」より
※2…日本山岳・スポーツクライミング協会「第16回 山岳遭難事故調査報告書」より

「行きの道と同じ道を帰っていると思っていたのに、いつの間にか違う道に入っていた」
「ガスの中に入ってホワイトアウトした際、一本道だから大丈夫と油断して地図も確認せずに歩き、道を外れた」
「一人で里山の尾根を歩いていたとき、知らないうちに尾根から外れ、どこを見ても同じ景色の森に迷い込んだ」

これは誰にでも起こりえる道迷いのきっかけです。どんなにベテランでも、どんなに低い山でも、遭難する可能性はあります。自分だけは大丈夫という根拠のない自信は捨て、万が一の事態に備えておくことが大切なのです。YAMAPで現在地を確認しながら歩くだけでなく、YAMAPの提供する機能やサービスをフル活用して、安全に登山を楽しみましょう。

YAMAPで安全登山① 登山計画を立てよう

※2020/10/13追記
大幅アップデートにより、登山計画機能はにルートの自動入力 ・コースタイムの自動計算を実装し、更に利便性が向上しました。ぜひ一度お試しください。

記事を読む:YAMAP秋の大型アップデート!「新・登山計画」「フィールドメモ」で登山の安心・安全を強力サポート

安全登山の第一歩は、登山計画を立てることです。登山口の確認、歩くルートの確認、行動時間とそれに合わせた持ち物の選定。さらに万が一のときに駆け込める山小屋や、連絡手段、エスケープルートの有無など、周辺情報にも気を配りましょう。

基本的な登山計画の立て方については、YAMAP MAGAZINEで特集しています。以下の記事をご覧ください。

記事を読む:登山計画の立て方 | 山登り基本のキ #01

YAMAPの登山計画機能を使ってみよう

登山計画を立てるときに役立つのが、YAMAPの登山計画機能。みなさんがいつも使っているYAMAPの登山地図を確認しながら、通るルートや所要時間を入力することで、簡単に登山計画を作成することができます。

持ち物やコメント、緊急連絡先を入力することもできるので、ルートとともに設定しておきます。すべて設定したら、YAMAPへ登山計画を提出しましょう。登山計画を提出することで、もし下山ができていない場合には設定した緊急連絡先にメールを送信することができます。

そして忘れてはいけないのが、計画を家族や友人、職場などに共有しておくこと。もしあなたが遭難してしまったときに、「あれ、本当ならもう下山しているはずなのにまだ連絡がないな…」と、最初に気付いて警察に通報するのは家族(もしくは緊急連絡先に設定した方)なのです。逆に言えば、その方が気付かなければ通報が遅れ、捜索の開始が遅れてしまう可能性もあります。

YAMAPの登山計画は、メールやLINEなどで送信することができます(YAMAPを利用していない方でもOK)。登山計画を立てたら、第三者への共有もセットで行うように心がけましょう。

そのまま登山届として自治体・警察に提出できる?

YAMAPは長野県と提携しており、長野県での登山を計画している場合は、YAMAPを使って作成した登山計画をYAMAPに提出するだけで、そのまま長野県にも登山届を提出したことになります。改めて自分で紙やWebサービスで提出する手間を省くことができる、とても便利な機能です。

今後、長野県以外の自治体にも順次対応予定です。まだ対応していない自治体には、YAMAPで作成した登山計画を印刷して、そのまま登山口のポストに提出することもできます。

長野県内の指定された登山道を通行する場合は、登山届の提出が条例で義務付けられています。計画段階から下山まで、YAMAPひとつで完結する便利機能をぜひ使ってみてくださいね。

YAMAPで安全登山②みまもり機能で現在地を家族に共有しよう

YAMAPの「みまもり機能」は、登山中の現在地を家族や友人・YAMAPのサーバーに送信することができるサービスです。ご家族や警察からYAMAPに問い合わせがあった場合に位置情報を提供し、現在地の特定に活用します。

電波が入ることも多く、視界を遮る木々がない高山であれば、遭難しても発見されやすかったり、自分自身で救助を呼ぶこともできます。一方、電波の届かない低山で遭難したら場合、木々や藪に視界をさえぎられて、発見までに時間を要するケースもあります。このような時こそ、「みまもり機能」が遭難発見に役立つのです。

みまもり機能を使っていれば、遭難者を救うことができる?

YAMAPの「みまもり機能」をご存知ですか?

スマートフォンの電波が入るところであれば、登山開始・下山時と、登山中の位置情報を家族や友人に共有することができる機能です。

また、電波が圏外であっても、YAMAPユーザーどうしが山ですれ違ったときにお互いの位置情報を記録し、一方の人が電波の入る場所に移動した際にそのすれ違った位置の情報をYAMAPのサーバーに送信することができます。

これによって、もし遭難が発生した場合にも遭難者が登山ルートのどの位置まで進んでいたのかがわかり、捜索範囲を絞ることが可能に。いざというときの手掛かりになるのです。

つまり、「みまもり機能」を使うことは、自分自身を守るだけでなく、他の誰かの命を救うことができるかもしれない、登山者どうしの助け合いの機能なのです。周りにYAMAPを使っている人がいたら、ぜひ教えてあげてくださいね。「みまもり機能」の助け合いの輪を広げましょう。

YAMAPユーザーなら誰でも無料で使うことができます。詳しい使い方は、開発担当のYAMAPスタッフが解説している記事をご覧ください。

みまもり機能が遭難救助に役立ちました

2020年5月に発生した、岐阜県・左門岳での山岳遭難。この遭難事故は、みまもり機能の位置情報がきっかけとなり救助へとつながった初めてのケースでした。詳しくは救助されたご夫婦へのインタビューをご覧ください。

記事を読む:「山は生き物」初めて遭難にあった登山のベテラン夫婦が伝えたいこと

今年はコロナ禍の影響もあり、高山へ遠征せずに近場の山に登ろうと考えている方も多いことでしょう。しかし、ご紹介した左門岳での遭難事故のように、ベテランの方でも低山で道に迷って遭難することがあるので、どんなときも油断は禁物です。

また、このご夫婦はYAMAPを使っていることをご家族に伝えていたため、ご家族からYAMAPに連絡があり、現在地の特定に繋げることができました。こういったケースもあるので、YAMAPを使っていること・YAMAPに登録しているメールアドレス・YAMAPのユーザーIDをご家族に伝えておくと、よりスムーズな発見に繋がるかもしれません。

YAMAPで安全登山③「もしも」のために登山保険に加入しよう

愛知県防災航空隊のヘリ救助訓練

あみさんの活動日記より/愛知県防災航空隊のヘリ救助訓練

どんなに対策をしていても、天候の崩れや判断ミスなど、ふとしたことがきっかけで山岳遭難が発生してしまう可能性はじゅうぶんにあります。では、実際に遭難したときに、山岳救助にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?

たとえば民間のヘリを使って2時間捜索した場合、飛行時間・整備費・乗務員の日当などを合わせて約100〜300万円程度の費用が発生する事例があります。また、ヘリを使わなかった場合でも、捜索救助隊の日当・宿泊費・交通費・通信費などで数十万円かかることも。低山の遭難救助ではヘリが出動せずに人海戦術で捜索されることもありますが、それでもこれだけの費用がかかるのです。

どんなときにも備えを万全にして、安全で楽しい登山を

sanpo1210さんの活動日記より/遭難救助訓練の様子

登山のときに、絶対にやってはいけないことがひとつあります。それは、遭難した上で「行方不明」になること。

仮に遭難して死亡した場合でも、発見されれば保険も適用されます。しかし、発見されず行方不明になってしまった場合は「失踪者」として扱われ、7年間は死亡と認定されないのです。死亡認定されなければもちろん死亡保険も支払われませんし、7年後に保険金を受け取るためには残された家族が保険料を払い続けなければなりません。もちろん遺族年金も受け取れず、職場は解雇扱いとなり退職金を受け取ることもできないというケースもあります。

残されたご家族は遺体が見つからないだけでも辛いのに、それに加えて二重の苦しみを負うことになるのです。そんな悲しみを背負わせないためにも、「どんなことがあっても、絶対に行方不明にならない」ということを意識し、事前の備えを万全にしておきましょう。

YAMAPは、登山者の命に寄り添うインフラサービスとなるべく、日夜さまざまな機能を開発しています。登山計画やみまもり機能、そして登山保険を有効に活用して、これからも安全に登山を楽しんでくださいね。

(文責:YAMAPスタッフ 大村)

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。