岐阜・飛騨高山2泊3日の山旅(1日目)|小京都、飛騨高山の街を散策

北アルプスの玄関口、飛騨高山。乗鞍岳や西穂高岳など憧れの山を前に「すぐ登りたい」と街を素通りしている登山者も多いのではないでしょうか? でもそれはもったいない! 登山前に半日だけでも高山の街を巡れば、小京都と呼ばれるこの街がきっと好きになるはずです。

今回は登山と合わせて高山の街を楽しむ2泊3日の山旅をご案内します。高山の文化に触れ、名峰西穂高岳に登り、緑豊かな五色ヶ原の森を歩く。この記事を読めば、きっとあなたの登山がより素晴らしいものになるはずです。

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2日目 ロープウェーでひとっとび。日帰りで西穂高岳へ
3日目 秘境・五色ヶ原の森を登山ガイドと歩く

2020.10.09

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

新宿8時15分発、濃飛バスで飛騨高山まで楽々アクセス

新宿の高速バスターミナル「バスタ新宿」を8時15分に出発する、濃飛バス古川・高山・平湯温泉~新宿線に乗りました。新宿と高山駅間は、約5時間半、お値段7,000円。普段は仲間と車移動が多いという美樹さんも高速バスのリーズナブルさ、乗り心地の良さに「飛騨高山ってこんなに近いんですね!」と、びっくり

ようやく涼しい風が吹き始めた9月下旬。濃飛バス・高山濃飛バスセンターで降り立ったのは、山好きのコミュニティactibaseを運営し、インスタ、Youtubeで山の魅力を発信している、千野美樹さん(@yama_to_miki)。百名山全山(現在88座!)を志す彼女は、時間があったらとにかく山のなか、稜線を歩いていたいというピークハント指向。今回の旅では、西穂高岳を目指します。

が、その前に。ただいま時間は13時45分。高速バスの利用で朝、新宿を出てもお昼には高山に着いちゃうんです。
だったら西穂高岳は明日の朝から向かうとして、せっかくだから飛騨高山の街を散策しませんか? ここ飛騨高山は、江戸時代は幕府直轄領として栄え、飛騨の小京都ともいわれる歴史ある街。そう、山も街もセットで楽しめるんです。

「いつも車で登山口に直行なので、登山目的で行って街もしっかり観光するのは初めてかも。下山後に温泉やごはんは食べに行っても、観光には時間をとれなくて…」(美樹さん)

まあまあ、そういわずに。人がおおらかでやさしい飛騨高山。半日過ごせば、きっと大好きになりますよ。

江戸時代の県庁兼警察署!? 高山陣屋へ

まずは、高山の観光名所「高山陣屋」へ。ここはじっくり見なければ、そのおもしろさは伝わりません。門をくぐって、チケット440円をお支払い。

史跡高山陣屋。江戸幕府は、森林資源が豊富な飛騨を直轄領として役所を設置。幕府から派遣された代官が、ここ陣屋で執務を行っていたわけです。表門は天保3年(1832年)に再建されたものが現存しています。築188年!

 

江戸初期、この一帯は飛騨高山藩と呼ばれ、金森氏が藩主として6代に渡り統治していました。山林資源が豊富なこの土地は、幕府にとってはとても魅力的。そうした背景から6代藩主、金森頼時の時代に突然、幕府直轄領となり金森氏は移封。代わって、中央から新しく代官や郡代が派遣され、ここで飛騨の政治を行ったわけです。現代でいう県庁であり、警察署であり、裁判所のような場所。「そう説明されるとわかりやすい!」(美樹さん)

多くの武士が務め、身分によって利用できる入り口が変えられていたそう。では、代官・郡代(一番偉い人です)、もしくは幕府から派遣された巡見使だけが通れる玄関の間から見学スタート!

玄関の間、大床に描かれているのは「青海波」という文様。無限に広がる波の模様には、江戸幕府が未来永劫続く繁栄と平和への願いが込められているとも

幕末には全国に60数ヶ所あったといわれている代官・郡代所(陣屋)の中で、当時の主要建物が残っているのはこの高山陣屋のみ。ユニークなのが昭和44年まで、この建物を県など公共施設のオフィスとして利用していたこと。畳のうえにデスクと黒電話がずらりと並べられた写真が展示してあり、のちに史跡となる重要な建築を普通に職場にする当時のおおらかさ!

台所では代官やここに暮らすその家族のための食事が用意されていました。どんなものを食べていたんでしょう

陣屋の重要な仕事であった裁判。庶民はこの白州に座らされ、取り調べをうけたとか。自白の拷問道具の説明がリアル。膝に乗せられる石は、抱石といって1枚約40Kgもあります

美樹さんVoice 

「当時の生活の知恵が垣間見られたり、代官って県知事くらいの立場ですかという質問に、いえ、部長くらいでしょうか、と現代に置き換えて教えてくださったりしたので、歴史に詳しくなくてもおもしろかった!」

チェックイン前に高山の街を散策

高山陣屋のあとは、きれいに整備された宮川沿いや、古い街並みが残るさんまち通りを散策することに。

「川の水がきれいですね。さんまち通りを歩いていたら、側溝からひしゃくで水をすくって植木に水やりしていた方がいたんです。観光地でありながら、生活されている方の日常の風景が見られるのがいいですね」

高山の街を南北に流れる宮川。水がとてもきれいです。毎朝、川沿いに朝市がたつことでも知られ、明朝、市に出かけてみることに

江戸時代、商人の街としてさかえた上一之町、上二之町、上三之町。あわせて「さんまち通り」と名付けられ、情緒ある建物が残されています

用水をすくって植木に水やりをする様子に、釘付けの美樹さん。街中に用水が巡らされ、昔から水に恵まれた土地ということがわかります

造り酒屋と居酒屋で、岐阜の名酒めぐり

きれいな水といえば、そう、お酒です。飛騨高山は幕府の直轄地であり、財源も豊富。舌の超えた商人たちが多かったことから、おいしいお酒が作られないわけがありません。さんまち通りを少し歩くだけで、軒先に杉玉を吊るした造り酒屋さんが何軒も。

200年の歴史を持つ、舩坂酒造店にすいこまれるように入っていた美樹さん。「日本酒はたくさんは飲めないんですが、好きなんです。お土産もたくさんありますね」

飛騨の山々から湧き出る水を仕込み水とし、200年以上続く造り酒屋、舩坂酒造店

風通しがいい中庭をはさんで、酒蔵や飛騨牛専門レストラン「味の与平」を併設。飛騨牛に合う日本酒を提案してくれます

お土産も大充実。定番の銘柄だけでなく、柚子とブレンドした飲みやすい日本酒や、お菓子、漬物、ほう葉味噌など郷土土産、アクセサリー、地酒のボディソープなど盛りだくさん


酒蔵を改装してつくられた日本酒バーもありました。深山菊や四ッ星、甚五郎といった長く地元から愛されてる名酒が試飲できます。1杯(90ml)300円〜。西穂高岳、新穂高ロープウェーの山頂駅そばの、夏でも涼しい環境をいかして熟成させた「西穂 ひやおろし」という銘柄もあるそうです

試飲をしっかりとして、お土産に選んだのはこの2本。右/「日本酒初心者でも美味しくのめる」と、岐阜県上之保産ゆずと代表銘柄・甚五郎混ぜ合わせ醸した「ゆず兵衛」(500ml : 1,430円)。左/酒造一押しの「大吟醸 四つ星」(720ml : 5,500円)。たこわさ・からすみなどの珍味や、マグロやブリなど脂の乗った魚と合うそうです

続いてやってきたのが、「樽平(たるへい)」。“飛騨情緒を感じるならここ!”と高山に詳しい方から教えていただいた創業57年の歴史を持つ小料理屋、居酒屋です。酒場に慣れていない人には敷居が高く感じるかもしれないですが、そこは大丈夫!秋田県出身の女将がやさしく迎えてくれます。

うれしいのは、飛騨高山のお酒がたくさん揃っていること。冷酒3種「久寿玉生酒・舩坂甚五郎・山車上澄」(1,000円)、にごり3種「白真弓・深山菊・天領どぶろく」(1,000円)などのみくらべセットもあり、ついつい杯がすすみます。


旅に来たなあ、と感じさせてくれる、昭和の雰囲気を残す名店。平成生まれの美樹さんも「落ち着くなあ」。席数は、カウンター8席、小上がり2席、 座敷2部屋


秋田は大舘ご出身の女将。ふと見上げるとナマハゲのお面と、大舘から高山をつなぐ路線図が描かれたのれんが。寒くなると、秋田の新米と比内鶏でだしをとた女将特製のきりたんぽ鍋がメニューにあがるとか


「日本酒にあうわよ」と出してくれたのが、飛騨の保存食、山菜、大豆のてんぷら、ころいも、こも豆腐、いんげんとえごまの和え物を盛り合わせにした、ざいご盛り(1,000円)

誰でも楽しめる弓道、ほろ酔いで半弓道場へ

繁華街のど真ん中に半弓道場はあります

樽平でおなかがいっぱいになったあとは、少し運動を。高山の人は飲んだ後、バッティングセンターならぬ「半弓」をするのだとか。半弓とは、まさに弓。使用する弓矢も通常の弓道のものよりも少し小さく、的までの距離も通常の弓道の4分の1の距離なので誰でも楽しめる、というものです。繁華街・一番街にあるこの「半弓道場」。昭和4年からあるそうで、早い時間は毎日のように射りにくるおじいちゃん、おばあちゃんや、21時を過ぎると飲んだ帰りの会社員や外国観光客でごったがえして、それはそれは盛り上がるそう。

「半弓は明治時代に大流行して、日本全国にあった道場があったそうなんです。残念ながら半弓場としては、ここが最後。3年前、閉鎖をすることになったんですが、この場所をなくしてはいけない、とオーナーが引き継いだんです」と、話してくれたのはスタッフの藤原亮さん。「うまい人なんかは、酔っ払っているのに弓をひくと目つきがかわって、スパン!と矢が刺さる。それを見て、まわりの人はおお!と拍手喝采。本当にいろんな人が集まるこんな面白い場所、ほかにはないと思います」

さっそく、美樹さんも教えてもらいながら、弓をひきます。矢は10本。ほとんどが的に当たらず、まわりの土に。ていねいに姿勢を教えてもらいながら、もう10本チャレンジ。

だんだんと的にあたるようになってきました!そのたびに、そばで見ている我々も大盛り上がり。
「コツがわかってきました!これはおもしろい」

的への距離は、約7メートル。これが意外と長い!

教えてもらって、いざチャレンジ!

すごい!ほとんど真ん中に当たっているじゃありませんか! …初めてで的のまんなかにあたるものではなく、これは藤原さんのお手本によるもの

「練習を重ねるとうまくなりますよ」と藤原さん

壁には、点数順にずらり100名以上の名前が並んでいます。藤原さんはここでいうと何番目くらいですか?「い、一番かな?(笑)」

美樹さんVOICE

「登山の前日の、短い時間にこんなに楽しめるなんて。日本酒ホッピングも楽しかったし、半弓道場には、友達を連れてきたい!」

記事で紹介したスポット

高山陣屋
住所/岐阜県高山市八軒町1-5
電話番号/0577-32-0643

舩坂酒造店(併設食事処 味の与平)
住所/岐阜県高山市上三之町105番地  
電話番号/0577-32-0016

樽平
住所/岐阜県高山市総和町1-50-6
電話番号/0577-32-5490  

半弓道場
住所/岐阜県高山市朝日町11-2
電話/ 090-1234-5959

原稿:柳澤智子
撮影:西條聡
モデル:千野美樹
協力:岐阜県

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。