大分県日田市大山川|パックラフトで激流を満喫! 緊張と興奮の冒険ダウンリバー

九州を代表する河川「筑後川」源流域のひとつにも数えられ、美しい水辺の風景から水郷とも呼ばれる大分県日田市。鵜飼・屋形船といった風流なイメージが強い日田の川ですが、実はスリル満点のウォーターアクティビティーも楽しむことができるのです。今回は、大分県日田市で最近始まった新しいアクティビティー、パックラフト(軽量なひとり乗りゴムボート)でのダウンリバーについてお伝えします。体験したのはジャングルから南極まで世界各地のアドベンチャーランニングに出場する生粋のアスリート、若岡拓也さん。果たしてその感想やいかに?

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2021.02.26

若岡 拓也 

走るライター

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夏も夏とて山を登るのだが、湿度は上がるし、気温もうなぎ上り、さすがにモチベーションはちょっと下がり気味。そんな時に「パックラフトで川下りでもどう?」と声をかけてもらった。パックラフト、聞いたことはあっても未経験のアクティビティである。イメージしたのは川。涼しげな水の流れを思い浮かべつつ、ふたつ返事で筑後川の源流に向かっていた。

天然水でおなじみ「天領」の川でパックラフト

やってきたのは大分県西部に位置する日田市。かつては江戸幕府の直轄地「天領」だった地域だ。最近では天然水の生産地としてもおなじみである。水に恵まれていて「水郷(すいきょう)」とも呼ばれている。名水が湧き出るのは、豊かな緑が雨水を蓄えてこそ。集合場所の川原からぐるっと周囲を見渡すと、美しい山と森が広がっていた。いつもの癖でちょっと登りに行きたい気になるが、今日は川を下るのだ…。

パックラフトを教えてくれるのは、地元在住の河津聖駒(かわずせいま)さん。カヌーやカヤックのフリースタイル日本代表としてワールドカップに出場したこともあるアスリートで、日田を拠点にインストラクターとしても活動している。一方、こちらは恥ずかしいほどの素人。山、川と聞かれたら「渡渉(としょう。登山中に沢などをわたること)」と反射的に答えそうになるほどである。川はもっぱら歩いて渡るものだった。唯一の経験は、アドベンチャーレースに出場したときに、チームで大きなラフトボートに乗ったことがある程度である。
日田を中心に川のウォーターアクティビティーのガイドを行っている河津さん(左)。パックラフトのガイドツアーも実施している(詳しくは文末で紹介)

安心して乗れる秘密とは

未経験でも大丈夫だろうか。河津さんに尋ねてみると「パックラフトなら、安心して遊べます」と笑みを浮かべた。涼しげな川に負けない爽やかな笑顔がまぶしい。

どうして安心なのか。それはパックラフトそのものに秘密があるという。空気で膨らませる構造のボートとあって、浮力はバッチリ。安定していて、転覆は心配無用である(激流では沈没する場合もあるとのことだが…それも楽しみのうちである)。その上、丈夫な素材なので岩にぶつかっても衝撃はあまりなく、破れることもない。

そう聞けば、初めてでも安心して乗ることができるというもの。ライフジャケットを身につけて、早速ボートの準備に取りかかる。

インフレーションバッグという専用の袋を使って、パックラフトを膨らませる。ボートのバルブにバッグを装着したら、その中に空気を含ませ、生クリームを絞るようにボートに空気を流し込んでいく。「うまいですよ」。おだて上手な河津さんに乗せられ、空気を捕まえるペースがアップする。10分とかからずに膨らませることができた。

「パドルは肩幅より広めに……」。河津さんからひとしきりパドルの使い方を教わって、いざ川へ。力んでパックラフトを持ち上げたら、思った以上に軽い。ひょいっと片手で担げるほどで、重さは約3kg。たためばコンパクトだし、バックパックに忍ばせておいて、山を登った後に、川から下山するのに使えるかも、と想像が膨らむ。

川に浮かぶボートに右膝をかけて乗り込む。はじめは慎重に。おっ、体重をかけても大丈夫かな。そうと分かれば、体を預けて一気に川へ。河津さんの座り方をまねて、腰を下ろすと乗り心地は快適である。

思い通りに漕艇する楽しさ

考えてみれば、中身が空気だけのパックラフトは、川を移動するエアベッドのようなものだ。快適なのも納得である。とはいえ、パドルを漕ぐのが楽しくて寝ているヒマなどない。最初は流れのゆるやかな場所で、右に左に曲がってみたり、川の流れに逆らって漕ぎ上がってから、くるくる回転してみたり。基本的な動きでも、自分の思い通りにできると気持ちがいい。

意外と難しかったのは、真っ直ぐに進むこと。パドルを右、左と漕いでいくうちに、右にフラフラ、左にヨロヨロと蛇行する。曲がらないことに集中しすぎて、視線がボートのすぐ前に行きがち。こっちに曲がったから、逆に立て直さないととアレコレ考えすぎて、思ったように直進できない。ほろ酔いの千鳥足のごとく、頼りない漕ぎ方を見て、河津さんがアドバイスをくれた。「目線が近すぎるから、もっと遠くを見るといいですよ」と川の下流を指差した。

実践してみると、さっきまでの千鳥足は何だったのか。シラフに戻ったように真っ直ぐ進める。視線を高くした方が、次の動きを意識しやすくなるからだろう。これは、トレイルランニングの下りやスキーなどと同じなのだと、ハッと気づかされた。


初めてのパックラフトということで、山とは違うと思い込んでいたが、体の動かし方はどこかに通じるものがある。パドルの使い方も、腕力だけで漕ぐのではなく、腰の回転、体幹を使うことで腕がパンパンにならずに済んだ。その代わりに、意外と両脚を使って踏ん張ってしまうようで、内ももの筋肉が疲労困憊だ。山なら40〜50kmほどマイペースに走っても、大して疲れないのに、普段使わない筋肉に刺激が入った証拠である。

ドキドキの急流チャレンジ

開始から1時間もしないうちに「かなり漕げるようになりましたね。そろそろ、流れのあるところに行きましょう」とちょっと下流にある流れの速そうな場所へ。いったんパックラフトから降りて下見をする。その間に、水分補給。水上のアクティビティなので、涼しげな気分になりがちだが、体からは思った以上に水分が失われている。真夏ともなれば、なおさらだ。渇きを感じる前に、こまめに水を飲んで喉を潤す。

チャレンジする流域は、白波が立っていて、岩が水面から出ていたり、川幅が狭くなっていたりと、これまでよりも手強そう。ずぶの素人が、ずぶずぶ沈まないかと心配になる。

こちらの気持ちを察してか、河津さんが「見た目ほど難しくないし、さっきまでの調子で行けますよ」と背中を押してくれる。アスリートに太鼓判を押されると、お世辞と分かっていてもうれしくなる。行けそうな気がして不安はどこへやら。流れの速いエリアに入っていく。

いざ急流で漕いでみると、事前に決めておいたラインに乗ろうとするものの、流れが早くて徐々に意図していなかった方にボートが流されてしまう。

いつの間にか水面から顔を出した岩が、目の間に迫ってくる。曲がろうにも流れに逆らえず、避けられそうにない…。もうダメだ。その時、頭の中に浮かんできたのは、走馬灯ではなく、スタート前に受けた注意だった。

「岩にぶつかりそうになったら、逃げようとせずに岩に向かって行ってください」。眼前には、もう岩。覚悟を決めて、体当たりするイメージで岩の方に身を寄せた。

ズズズッと鈍い音。衝突したのに、衝撃は思った程ではなかった。先ほどまでエアベッドのように感じていた弾力が、衝撃をエアバッグのように吸収してくれたからだろう。これなら逃げ腰にならずに漕いでいける。

岩から逃げてしまうと、岩と反対側に重心が傾いて、ぶつかったときに転覆しやすくなってしまう。これも山での動きに似ている。山の下りで、腰が引けている方が重心が後ろになって転びやすくなる。スキーも同じで後傾になると、重心が崩れて余計に転倒しやすくなる。

多少は衝突しても安全と分かれば、後はパドリングに集中するだけ。岩にぶつかり、きらめく波しぶきを浴び、顔やTシャツはずぶ濡れ。ラインから外れては乗り、また流されて、その度に必死に漕ぎ、河津さんの背中を追う。

なんとか急流エリアを抜けたときには、体はびしょ濡れで涼しいのだが、心の中は熱くなっていた。やり切ったという達成感に包まれる。

リラックスタイムも満喫

流れのゆっくりした流域に入り、「ちょっと休憩しましょうか」とリラックスタイムが始まる。両脚を伸ばして、背中もボートにベタ着けして完全に脱力モード。穏やかな流れに任せ、ぷかぷかと浮いて流されていく。ここまでの疲労感もあって、目をつぶると、うっかり眠ってしまいそうなほど。もし水上の昼寝プランがあれば、それだけでも参加したくなるくらいの心地よさだった。

パドリングに集中していると、なかなか風景を見る余裕がなかったが、仰向けになって気持ちもゆったり。見上げた空の青いこと。水面から見る深緑の森、陽光を受けて輝く川面は、普段見ることのない角度からの景色でなんだか新鮮。山歩きとは違った魅力があった。

流れる水は澄んでいて、川床までが見通せる。すべすべとした岩が川底を覆っていた。溶岩など火山活動でつくられた地形なのだろう。両岸を緑で彩る森とともに、火山堆積物が天然のフィルターとなって、地下に水を浸透してくれる。川に親しむことで「水郷」で良質な水がつくられる過程を、実感することができる。

おだやかな流れに乗って、巨岩の間をすり抜ける。速度は遅いものの、なかなか臨場感たっぷりである。この日は水量が少なくて、川底が見えそうなところも。船底をこすってしまったが、やはりクッションが利いていて、お尻に衝撃が直接加わることはなかった。

ゆったりした時間を過ごしているうちに、「川の旅」が終わりを迎えようとしていた。周囲の景色を楽しみながら漕ぎ進めると見えてきたのは、ゴールの沈下橋。ゴールテープを切るようにして、橋の下をくぐる。終着点を示す粋な演出で充実のパックラフト体験を締めくくった。

岸に上がってから同行したYAMAPスタッフから「僕も何回かパックラフトをやりましたけど、今回みたいな白波の瀬は入っていません。よくできましたね……」と明かされた。その隣で笑う河津さん。初心者でも、その気にさせて漕がせるとは恐るべし。爽やかな笑顔でとんでもない教え上手である。川面も笑顔もまばゆく輝いていた。


日田でパックラフトを体験したいと思ったら

美しい川の流れを全身で堪能できる新しいアウトドアアクティビティー「パックラフト」。体験したい方はぜひ、下記にお問い合わせください。河津さんが主催する「オースタイル Trace the River」では、初心者向けのパドルレッスンを中心に、今回のようなツアーガイドサービスも行っていく予定です。

「オースタイル Trace the River」Webサイトはこちらから


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北部九州のほぼ中央、福岡市街から車で約1時間の場所に位置する大分県日田市・玖珠町・九重町。大分県西部と呼ばれるこのエリアは、美しい山々と川に恵まれた、九州を代表するアウトドアの聖地です。登山に川遊び、キャンプ…。ファミリーでライトに楽しむのも、ひとりでディープに楽しむのも思いのまま。絶景のアウトドアフィールドがここには広がっています。

若岡 拓也 

走るライター

若岡 拓也 

走るライター

1984年石川県生まれ。ランナー、ライター、ニュースディレクター。PAAGO WORKS、Icebreakerをこよなく愛するアンバサダー。ステージレース、トレイルランニング、アドベンチャーレースなどに出場している。2021年は日本山脈縦走(秋吉台ー富士山、八甲田山ー富士山)にチャレンジ予定。