「登山と映像が好きでやっていたら、いつの間にかこうなってた」山の映像クリエイター・JINさんインタビュー

ささやかに咲く花、ダイナミックな稜線、そして雲海や星空。

まるで映画のような美しい映像を制作しているのは、「登山系YouTuber」として人気のJINさんだ。チャンネル登録者数は4万人以上。清らかな山の空気が画面越しに流れ込んでくるような、臨場感あふれる動画がファンの心を掴んでいる。

動画に登場するJINさんは「YouTuber」のイメージからは程遠い、穏やかで落ち着いた雰囲気の青年。そんな彼はどんなモチベーションで山、そして映像制作と向き合っているのか。その素顔に迫った。

2021.01.28

YAMAP MAGAZINE 編集部

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自分のことをYouTuberとは思ってない

──YouTubeのコメント欄でも多くの方が触れていますが、JINさんの動画はとてもセンスがいいですよね。どんなきっかけで動画制作を始めたのでしょう?

中学生のときにPlayStation Portableってゲーム機を買って。それに動画編集できるソフトがあって、そこから動画を作りはじめました。友達との旅行とか、誕生日のときに個人的に動画を作ったり。記憶は少しずつ薄れてしまうけど、動画は思い出を鮮明に残せるのがいいですね。

──今のような登山動画をYouTubeに投稿するようになった理由は?

もともと、友達だけの限定公開でアップしてたんです。登山の思い出として。

でも、登山系YouTuberのイタガキ▲さんの動画が好きでよく見ていて、「もしかしたら自分の動画も誰かの参考になるかも」と思い、YouTubeにアップするようになりました。動画って、写真だけじゃ伝わらない広範囲の情報が伝わるんです。僕も、イタガキ▲さんの動画をルート選びの参考にしていたので。

──それからわずか3年で登録者数4万人を超える登山系YouTuberになったわけですが、なにか変化はありましたか?

思っていた以上にいろんな人と出会えました。イタガキ▲さんとも一緒に登山するようになったし、山で視聴者さんに「いつも見てます」と声をかけてもらったり。こんなふうになるとは思ってなかったので、すごい変化ですね。

でも、今も自分のことをYouTuberとは思っていなくて。単純に、思い出を残すためだったり、誰かの参考になればいいなって気持ちで活動してます。

──「YouTuberになって目立ちたい!」ってタイプではないんですね。

自己表現があんまり得意じゃないんです。話すのが苦手で。YouTube始めてから若干話せるようにはなったけど、人前に出るのも得意じゃないし。なので、自分がYouTubeで発信するようになるなんて、昔の自分が知ったらビックリすると思います(笑)

──話すのが苦手だからこそ、伝えたいことを映像で表現してるのでしょうか?

それは、あまり意識したことはないです。登山と映像が好きでやっていたら、いつの間にかこうなってた感じですね。

──ちなみにご結婚されたとのことですが、パートナーも山に登られるんですか?

一回も一緒に登ったことないです。僕のYouTubeも見ていないし。山とか、本当に興味がないんだと思います(笑)僕がどんなところを登ってるかもイメージできてないみたいで、あまり心配もされないです。

──コンスタントに動画を投稿していますが、ご職業はなにをされてるのでしょう?

医療職です。だから夜勤があって。夜勤明けの翌日は休みなので、午前中に帰宅して夕方まで仮眠とって、そのまま移動して、翌日に登山して撮影します。

──ハードですね……!

そうですね。でも、好きなことだけしてるので。仕事も好きだし、登山も動画編集も好きだし。毎日が楽しく充実してるので、忙しいけど大変ではないです。

初登山は富士山へ。昔からの友人と行く山は特別

──登山を始めたのはいつ、どのようなきっかけで?

親の影響が大きいです。子供の頃近くに小さい山があったんで、軽いハイキングに連れていってもらったり。中学生や高校生になると、自分で行ける範囲の山にちょこちょこ登るようになりました。

学生時代の低山ハイクの様子

だけど、登山ってお金がかかるじゃないですか。社会人になって装備を買えるようになってやっと、本格的な登山を始めました。今は社会人5年目くらいで、登山歴も同じくらいです。

──初めての本格登山はどこの山に登ったんですか?

富士山のご来光登山です。弾丸で、夜中に出発して5合目から歩きました。今考えたら無茶なスケジュールなんですけど、初めてだからよくわかってなくて。

当時はなにも知らなかったから、行ってみたら想像よりずっと寒くて。自分の歩くペースもわかってないから、すごいハイペースで飛ばしちゃって、序盤でバテバテになりました。

──おひとりだったんですか?

いえ、僕のYouTubeにときどき登場するICHIって友人と一緒に行きました。学生時代からの友人なんです。

そのときはICHIも僕も初心者だったから、ふたりで「しんどいね」「早く着かないかな」とか、そんなことばっかり話してたと思います。

──無事に山頂でご来光を見られたのでしょうか?

はい。天気がよかったので、ご来光が本当に綺麗で。人生で初めてご来光を見たので、すごく感動しました。心底「登ってよかったな」と。

正直、登ってるときは「もう山なんて登らない!」って思ったんです(笑)寒いししんどいし。

でも山頂でご来光見たら、やっぱり次の山に登りたくなって。そこから、いろんな山に登るようになりました。

富士山を登頂したときの様子

──それはICHIさんと一緒にですか?

一緒だったり、ひとりだったりですね。

ICHIと行く山は僕にとって特別なんです。昔から部活で一緒にいたし、登山も一緒にスキルアップしていったし。

今は、二人でジャンダルムに行くのが目標です。それに向けて、表銀座、槍ヶ岳、剣岳、八峰キレットと、日本の主要な岩場を一緒に歩きました。同じ目標を持つ友人がいるのは励みになってますね。

JINさんとICHIさん

山で出会ったいくつもの光景

──動画ではよくテント泊をされてますが、山小屋泊もされますか?

登山始めてわりとすぐにテントを買ったので、山小屋泊は数えるほどしか経験ないんです。表銀座の山小屋に泊まったとき、連休だったから人がぎゅうぎゅうで、ちょっと耐えられなくて。僕は寝つきがあまりよくないので、それに懲りてテントを買いました。テントのほうがゆっくりできるし。

──初のテント泊はどこへ行ったんですか?

北岳です。北岳は、今までの登山の中でもベスト3に入るぐらい思い出に残っています。

──どういう点が印象深かったのでしょう?

北岳山荘のテント場に泊まったんですが、空がひらけていて、夜景や満天の星が見えたんです。あれには圧倒されました。

夜明け前に出発して間ノ岳に縦走したんですけど、間ノ岳で見た朝焼けもすごく綺麗で。僕の今のプロフィール写真がそのとき撮ったものなんですけど。あの景色には本当に感動しました。

──ベスト3の、あとの2つはどの山ですか?

白馬岳と鳥海山です。やっぱり景色が印象に残ってますね。僕は海が見える山が好きなんですけど、鳥海山は海も見えて、途中で花畑や湖、雪渓もあって。けっして長くはない登山道なのに山の魅力がギュッと詰まっていて、歩いていて楽しかったです。

──景色以外で印象に残っている登山はありますか?

南岳から天狗池のほうに下りていたとき、道に迷いかけたことですかね。

本当は南岳から槍ヶ岳、双六岳に縦走する予定だったんですけど、天候が悪くて、途中で下山することにしたんです。歩きながら「せっかく来たのに撤退しちゃったな」とかいろいろ考えごとしていたら、岩に描かれた矢印を見逃したみたいで。途中で気づいて元のルートに戻れたんですが、こういうときに遭難するんだなってゾッとしました。

情報発信者としてのプレッシャーと夢

──視聴者さんから言われて嬉しかった言葉はありますか?

僕の動画を見て山を始めましたって言ってもらえるのは嬉しいですね。山って、日常じゃ見られない景色が見られるじゃないですか。多くの人にぜひ登ってほしいと思ってるので、僕がそのきっかけになれたなら嬉しいです。

──「話すのが得意じゃない」とおっしゃってましたが、山にいるとよくほかの登山者から話しかけられますよね。そういう山でのコミュニケーションはどう思いますか?

人と会うこと自体は嫌いじゃないし、話しかけてもらえるのは嬉しいです。山で話しかけてくれたおじさんと喋ったり、一緒に温泉入ったりしたこともあります。「どこから来たの?」から始まって、今までどんな山に登ったかとか、そんな話をして。

──反対に、一人で登ってるときはどんなことを考えていますか?

最近は動画のことを考えてます。どういう構成にしようかとか、この景色はどう撮ろうかとか。

──そうなると、「たまにはYouTube関係なく完全プライベートで登山したい」とか思いませんか?

思います(笑)でも、そういうときに限って綺麗だったら後悔しそうなので、やっぱりカメラはまわしますね。

──「YouTubeを更新しなきゃ!」と、義務感やプレッシャーを感じることはありますか?

実はちょっとあります。昨年、千葉から地元の関西に引っ越したんですね。だからアルプスとかは前よりもアクセスが難しくなって、動画も前ほどは投稿できなくて……。

でも最近は登山系YouTuberが増えていて、アルプスはほかの人たちが動画をアップしてるので、僕は(動画をアップしなくても)いいかなと思うようになりました。

僕は、みんながあまり行かない山域の動画を発信していきたいですね。今までは東日本が中心だったので、これからは西日本で。四国、中国、近畿、九州の山はまだ情報が少ないので、もっと発信していきたいです。

──これからの夢はありますか?

いつか「自分なりの百名山」を作りたいです。それを本にしたいですね。自分で撮った写真とコースの情報を載せた本。有名な山ばかりじゃなく、あまり知られていない山を取り上げたいです。

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取材・文:吉玉サキ
写真提供:JINさん

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。