「そんな小さなことで悩まなくても大丈夫。山が包んでくれるから」オトナ女子の山登り・山下舞弓さんインタビュー

名古屋を拠点にモデルとして活躍する山下舞弓さん。

以前から登山雑誌にたびたび登場している彼女だが、最近はYouTubeで『オトナ女子の山登り』チャンネルを運営し人気を集めている。登山動画はもちろん、山ご飯や山道具、アウトドアメイクなどの情報発信にも意欲的だ。

そんな彼女は、「山に出会って人生が変わった」経験を持つという。詳しく聞かせてもらった。

2021.02.04

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

山の虜になった理由

──山下さんはいつ、どんなきっかけで登山を始めたのでしょう?

8年くらい前に始めました。ちょうどその頃マラソンにハマってたんですね。大会にも出てすごく楽しかったんですけど、夏のマラソンはすごく暑くて大変なんですよ。夏はマラソンできないなぁと思っていたら、友人が「山は夏でもダウン着るぐらい涼しいよ」って教えてくれたんです。その後、友人に山に連れて行ってもらうことになりました。

2014年名古屋ウィメンズマラソンにて

装備も最初はレンタルしようと思ったんですけど、友人に「レンタルだと次やらなくなるから、最初にちゃんと揃えたほうがいいよ」って言われて、山道具屋さんに連れていかれました。装備を揃えちゃったから、もうやらざるを得ない(笑)

──最初の登山はどこの山に行ったんですか?

八ヶ岳の赤岳です。硫黄岳山荘に泊まってアタックするルートだったんですけど、最初はガスっててなにも見えなくて。正直、「マラソンのほうが楽しいな」って思ってました。

だけど、朝に太陽が雲海からぶわーっと上ってきたとき「なにこのすごい景色……!」って感動したんです。そのあとはいいお天気で、青空の下で稜線歩きを楽しみました。それから山の虜になって、今ではすっかりハマってしまいましたね。

──登山にマラソンに、すごくアクティブですよね。昔からアクティブなんですか?

はい、昔からアクティブなほうです。家でじっとしてるのができなくて、ちょっとでも休みがあると外に遊びに行っちゃう。

──じゃあステイホーム期間は辛かったのでは……?

それが逆に忙しくて! YouTubeでやりたいことがいっぱいあったんです。山ご飯とか道具紹介とか、次から次へと撮りたい動画が出てきて。

YouTubeって視聴者さんからのコメントがすごく励みになるんですよ。ザックを紹介したら「そのザック気になってた」とか「詳しく教えてくれてありがとうございます」とか。そういうコメントいただけると、「今度はこれを紹介したい!」って気持ちが絶えず湧いてくるんです。だからステイホーム中は毎日動画を作っていて、忙しく過ごしてました。

モデルの仕事とYouTube。両立に葛藤することも

──YouTubeはいつ、どんなきっかけで始めたのでしょう?

ちゃんと始めたのは2020年からですね。動画自体はもっと前から作っていて、Instagramでショートムービーをアップしていました。

──そうなんですね。動画制作を始めたきっかけは?

映像作家の井上卓郎さんの動画を見たことです。美しい景色を音楽にのせて届ける映像で、見ていると山に登りたくなるし、登ったことのある山なら感動が蘇る。それを見て「自分が感じたことをこんなふうに伝えることができるんだ」って衝撃を受けました。それで私も動画を撮ってみたいと思い、カメラを買って撮り始めたんです。

そのうち、もっと自分の言葉で発信したいと思いYouTubeを始めました。インスタは1分だけど 、YouTubeはもっと長い動画をアップできるので。

──行動力がすごいです! 編集もご自身でされてるんですか?

はい。企画・撮影・編集、すべて自分でやってます。

──動画で後ろからのショットもあったんですが、あれはどなたが撮影されてるのでしょう?

基本的にソロハイクなので、三脚を使って撮影しています。友達と一緒のときは動画内で同行者を紹介してるので、それ以外はひとりです。

ただ風景を撮っているだけだとスケール感が伝わらないので、三脚を使って自分が映る画を入れることで、より情景を分かりやすくしています。

──画作りへのこだわりがすごいです。

自分が山を登ったときに感じたことを、できるだけそのまま伝えたいんです。視聴者さんがリアルに山を体験できるような。

たとえば、朝日が昇る瞬間や稜線に太陽が沈んでいく瞬間って、登った人しか見られないじゃないですか。だけど、足腰が弱って山に行けなくなった方が、私の動画を見て「山にいる気分になった」って言ってくれたりするんです。そういう方のためにも、登山を疑似体験できるような動画作りを目指しています。

──ほかに、動画を作るときのこだわりは?

音楽ですね。山で感じた気持ちに近い曲を選びたいので、毎回編集する前に選曲をするのですが、曲選びが一番大変です。1本の動画に3曲ほど使うんですけど、移動中もずっと音楽を選んでます。

──モデルのお仕事とYouTubeの両立、大変ではないですか?

そうなんです。すべてひとりでやってるので……。本当はもっとYouTubeアップしたいんですよね。だけど体はひとつだからなかなかできなくて。

私は長野県に移住して2年目なんですが、所属事務所が名古屋にあって、モデルの仕事は名古屋が中心なんです。バスで行ってるので片道3時間以上かかるんですよ。往復だと6時間。バスの中での編集作業は難しくて、モデルの仕事の日はなかなか編集が進みません。

でも、モデルの仕事もすごく好きだからこの先も続けていきたいし、仕事とYouTubeを両立させるのが課題です。

料理も大好き! おすすめの山小屋ごはん

──山下さんは、『山と食欲と私』とYAMAPが開催した企画「山ごはん王決定戦」で優勝しましたよね。昔から料理が得意なんでしょうか?

23歳で初めてひとり暮らしをして、それから料理を始めました。母はキッチンに他の人を入らせないタイプだったので、それまではまったく料理をしたことがなかったんです。料理本を読み漁って作ってたら、自分好みの味にできるのが楽しくって料理にハマりました。料理教室にも通いましたね。登山もマラソンも動画もそうなんですけど、ハマるととことん追求したいタイプなんです。

──どおりで手際がいいはずです。登山を始めてすぐに山でも料理するようになったんですか?

3度目の登山で御在所岳に行ったんですけど、そのときクッカーを購入しました。バーナーはまだ借り物で。そのときは、野菜をバターで炒めてインスタントラーメンにトッピングしましたね。本格的に作るようになったのはそのあとです。

今は慣れたから山でもふつうに作れるんですけど、山と家では使う道具も違うから、最初はあまり手際よくできなかったんです。でも、山ご飯はその不便さも込みで楽しいんですよね。山で食べると、どんな料理でも美味しくなるし。

──山で食べると美味しいですよね。自炊が多いと思いますが、山小屋で美味しいものを食べた思い出は?

あります! 山小屋のご飯、大好きなんですよ。

まずは、南アルプスのこもれび山荘のスープカレー。大きな鶏肉がゴロっと入っていて本格的なスパイスの味がして、すごく美味しいんです。「山でこんなにおしゃれなもの食べれるなんて!」ってビックリしました。

あと、北八ヶ岳の黒百合ヒュッテのビーフシチュー。大好きで、行ったら必ず食べます。お肉が煮込まれてて、とってもやわらかいんです。

最近食べたのは、赤岳鉱泉のステーキ。鉄板で出てくるのですが、鉄板もちゃんとじゅうじゅう音がして、副菜も美味しいんですよ。山でお肉を食べれるのが嬉しいんですよね。

登山を始めて、自分と向き合えるようになった

──山に登らない人から、「なんで山に登るの?」と質問されることはありませんか?

あります! 「山が好きだから」って答えてます。でも、それに尽きますよね。好きじゃないとわざわざ登らない(笑)

父にもずっと「なんで山に登るの?」って言われてたんです。私は「景色が綺麗だし、気持ちが浄化されるんだよ」って言い続けてたんですね。で、少し前に初めて父と一緒に登山したんですけど、登ってみたら父も「本当だ、気持ちがスッと楽になった」って言ってたんです。山に入ると、気持ちがリセットされて活力が湧いてくるんですよね。

──「気持ちがリセットされる」、よくわかります。山と出会って人生が変わったと思うことはありますか?

はい。登山を始める前は、嫌なことから逃避する癖があったんです。解決を後回しにするというか、友達とお酒を飲みに行って発散したり。

山を始める前の山下さん

登山を始めてからはそういうことがなくなって、問題から逃げずにしっかりと向き合えるようになりました。ひとりで山を歩いていると、自分と向き合う時間がたっぷりあるから、自分を見つめ直せるじゃないですか。そうしてると、悩みがちっぽけに思えたり、解決策が閃いたりするんですよね。今は悩みがあると山に行きます。

あと、心が穏やかになりました。周りからもそう言われます。ちょっと寛容になったというか。山って偉大ですもんね……。

──じゃあ、もしも山と出会ってなかったら今の山下さんじゃなかった……?

ぜんぜん想像つかないです! 今は山歩き中心の生活をしてるので、山のない人生は考えられないですね。動画を作ること自体は好きだったので、登山をしてなくても何かしらでYouTubeはやってたかもしれない。だけど、こんなに充実はしてないんじゃないかなぁ。

──山と出会う前の自分に声をかけるとしたら?

20代後半のとき、いろいろと落ち込むことがあったんですよね。そのとき山と出会って、そこから変わっていったんです。だから、「そんな小さなことで悩まなくても大丈夫。山が包んでくれるから」って、そう声をかけたいですね。山と出会えて本当によかった!

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取材・文:吉玉サキ
写真提供:山下舞弓さん

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。