「冬山の服装って、夏山とどう違うの?」「どんなものを使うべき?」など、初めての雪山ではウエア選びにも疑問がたくさん。今回も、八ヶ岳をこよなく愛する登山ガイドの石川高明さんが、基本の雪山ウエア一式を丁寧に解説してくれます。雪山ではウエア選びだけではなく、レイヤリングも重要。それぞれのレイヤーの役割やおすすめの素材、具体的なレイヤリング例などを交え、実践的な情報にまとめてもらいました。
雪山初心者必見!登山ガイドが教える「雪山登山の基本」 #03/シリーズ一覧
2023.02.07
石川 高明
信州登山案内人・登山ガイド
寒さ極まる雪山の世界に飛び込むには、保温や防寒、防風に優れたウエアが必須です。「初心者が心得ておくべき雪山登山の注意点」でも解説しましたが、凍傷やシモヤケ、低体温症といった雪山の寒さからくるトラブルは、「濡れ」と「風」が引き金になっています。
「濡れ」については、とにかく汗をかかないように注意すること。そこでレイヤリングという考えが大変重要になってきます。私が特に注意しているのは休憩あけのレイヤリング。休憩中に着込んでいたダウンやフリースを脱がないで大丈夫か、歩き始めたら汗をかかないか、確認してからスタートするようにしています。
また、冬の「風」は夏とは比べものにならないほどの強風が吹くことがあります。冷え込みが厳しいことで有名な八ヶ岳では、厳冬期の最低気温が-15℃以下になります。体感温度は、風速1m/秒増すごとに約-1℃下がると言われていますから、-15℃で風速5m/秒の風が吹くだけで、体感温度は-20℃にもなります。風をしっかり防ぐことはとても重要です。
まずはレイヤリングの方法とその効果から、雪山のウエアを解説していきましょう。
基本のレイヤリングは、肌に近い方からベースレイヤーとミッドレイヤー、アウターシェルの3つを重ねることから始まります。ベースレイヤーは肌に触れるウエアで、冬には最も重要なレイヤーかもしれません。というのも、汗を吸い取る一方で、それを放出してくれないと、あっという間に汗冷えするからです。
夏には乾きのよい化繊をおすすめしますが、冬に使うと寒さを感じることも。ウール混の方が保温性があり、汗で濡れても寒くなりにくいので、冬にはおすすめです。
ベースレイヤーの上に重ねるのがミッドレイヤーです。冬のミッドレイヤーは最低でも2着必要で、休憩中に着るものと着たまま行動するものを用意します。休憩中に着るものは保温重視、着たまま行動するものは保温性+吸水速乾性で選びます。
ミッドレイヤーは使う場面が2つあるため、フリースやインサレーションジャケットなど、さまざまなタイプがあり、素材や厚みもいろいろ。インサレーションジャケットは中綿の入ったジャケットのことで、ダウンや化繊などがあります。保温性が高く休憩中のレイヤリングとして携帯しますが、中には速乾性があって行動中に着られるものもあります。
アウターシェルは防風の役割で、こちらも基本的に行動中は着たままになります。防風の砦となるレイヤーなので、冬用のジャケットは夏用に比べて厚手でフードがしっかりしています。裾や袖から雪が入りにくかったり、動きやすいカッティングになっていたり、機能性は抜群によいのが特徴です。
ベースレイヤーは脱ぎ着することはほとんどないので、ハーフジップやジップなしでもよいですが、ミッドレイヤーはフルジップで脱ぎ着しやすいものがおすすめです。写真のミッドレイヤーは、薄手のソフトシェルのようなジャケット。保温性がそこそこあり、吸水速乾性に優れています。
アウターシェルは冬用のジャケットがおすすめですが、私がお客様をガイドをするときは、厚手のレインウエアでも可としています。一度にすべて買い集めるのは大変ですし、ベース・ミッドがしっかりしていれば保温できるからです。ただし、初心者の雪山ハイクで、森林限界以下の森の中や、天候が安定しているときだけ。防風の面ではレインウエアでは不十分なので注意が必要です。
基本はこの3レイヤーですが、寒さに応じてベースとミッドを調整します。ベースレイヤーは厚さと素材を変えます。寒いときはウール混はマスト。厚手にするとより安心です。ミッドレイヤーは薄手のものを2枚重ねたり、厚手に変更したりして、保温性を高めましょう。
夏も冬も変わりませんが、レイヤリングで大切事なのはきちんと調整すること。行動中は汗をかかないようにミッドレイヤーを脱いだり、休憩中は体が冷えないようにダウンを重ねたり、状況と自分のコンディションに合ったレイヤリングを心がけましょう。
下半身のレイヤリングには2パターンあります。1つは写真のような「ベースレイヤー+アウターシェル」の組み合わせです。ベースレイヤーはウール混のもので、厚手のタイツや体にフィットするパンツなど。その上に、冬用のアウターシェルを履きます。
もう1つのパターンは、上半身と同じように「ベースレイヤー+ミッドレイヤー+アウターシェル」の組み合わせで、ベースは薄手のタイツを、ミッドは普通のパンツを、アウターはシェルを履きます。近年は、前者の「ベースレイヤー+アウターシェル」が主流になってきています。
下半身のアウターシェルは、冬用の方が使い勝手がよいと感じる人も多くいます。裾から雪が入りにくい構造で、アイゼンを引っかけやすいところの生地も丈夫。ごついブーツでも脱ぎ着しやすいようにジッパーが長いのもポイントです。ウェストがずれ落ちにくいなどの工夫もあります。
意外と重要なのがグローブのレイヤリングです。薄手のインナーグローブに、防風&保温できるアウターグローブを重ねます。なぜインナーグローブが必要かというと、アウターグローブをつけたままだと細かい作業ができないから。アウターグローブを脱いだとき、素肌が出てしまうのを防ぐためにインナーグローブは欠かせません。また、インナーグローブが濡れると、凍傷のリスクが高まります。必ず替えのインナーグローブを携帯しましょう。
靴下も同じで替えを用意しておきます。濡れてしまうと凍傷のリスクが高まるためです。また、意外な役立ちどころとしては、いざというときにインナーグローブの代わりとしても使えるという点。靴下の足先のほうに手の4本指を、そしてかかとに親指入れると、ミトンのように手にはめることができるのです。
冬に欠かせないものとしては、バラクラバとサングラス、ゲーターが挙げられます。バラクラバはいわゆる目出し帽で、風雪から顔を守るもの。顔は鼻や頬など凹凸があり凍傷になりやすいので、必ず携帯しましょう。長さのあるネックウォーマーで代替する人もいます。
冬山では雪による照り返しで紫外線が増え、何も対策をしないといわゆる「雪目」になってしまう危険性があります。よって、サングラスは必須のアイテムです。天候が悪いときは目元を覆えるゴーグルにチェンジしましょう。偏光レンズなら、目が疲れにくく、白一面で境目がわかりづらい雪山の輪郭をクリアにしてくれるというメリットもあります。
ゲーター(スパッツ)は夏用のスパッツでも代用可ですが、冬用の方が厚手でアイゼンが当たりやすい部分の強度がしっかりしています。雪が登山靴に入るのを防げるよう、冬用のものは長いものが一般的です。
あまり目立つ存在ではないのですが、じつはおすすめの小物なのがインソール。土踏まずのアーチを作り、かかとをしっかり包むので、足が疲れにくいのはもちろんのこと、冬用のモデルは足先に断熱性のある素材が入っていて、寒さをシャットアウトしてくれます。たかがインソール…と思われがちですが、これ一枚で足先の冷えを感じにくくなりますので、ぜひお試しを。
目標とする雪山の環境や状況を考慮し、必要な冬山の服装や小物類をしっかり確認してもらいたいと思います。また、これに加えて、冬山の道具(ギア)も確認し、必要なものを適宜準備するようにしましょう。
冬山の道具(ギア)については第4回の記事も参考にしてください。
写真/宇佐美博之(提供写真以外)
1点1点を吟味し、商品ラインナップに加えているYAMAP STORE。冬山装備やウエアも揃えられます。記事で紹介したベースレイヤー・ミッドレイヤー・アウターシェルや小物など、初心者が必須で揃えたいアイテムの購入を検討している方は一度覗いてみてはいかがでしょうか。
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