奈良県・稲村ケ岳 遭難救助の記録|「できるから、やっただけ。」登山者、岩崎哲裕さんの献身

山の事故、山岳遭難のリアルに迫る、特集・遭難ZERO。登山アプリYAMAPの位置情報(GPSデータ)が活用された遭難救助事例や遭難者体験談をもとに、事故の舞台裏をお伝えします。今回の舞台は奈良県、稲村ケ岳。

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2021.02.19

YAMAP MAGAZINE 編集部

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暗闇の雪山で遭難者を救助|奈良県・稲村ケ岳 遭難救助の記録

兵庫県加古川市に住む会社員、岩崎哲裕さんは2020年12月のある日、友人と奈良県にある稲村ケ岳を訪れ、下山したとき、近くにいた女性に話しかけられ、その方のご家族3人(50代の夫、20代の娘、10代の息子)が戻っていないことを知りました。その女性が家族と通話できたのは一瞬のことで、以降、連絡がとれないとのこと。時刻は17時半。再び暗闇の雪山に向かった岩崎さんは、そのとき何を思っていたのか。お話を伺いました。

岩崎哲裕さん / 仕事で訪れていた大分県(由布岳)での登山から山の魅力に惹かれ、登山をはじめる。約1年5ヶ月の登山歴で、関西圏を中心に260ほどの山を踏破。2020年12月、奈良県・稲村ケ岳での山岳遭難者を救助し、県内にある吉野警察署より感謝状が贈呈された。

突然の相談

―― その女性に話しかけられたのは、母公堂(ははこうどう)の登山口に下山したときだったんですね。

はい、17時20分くらいです。車で帰ろうとしていました。そしたらそのお母さんが「家族が下りてこない」「上で誰かと会わなかったか」と。私も一緒にいた友人も心当たりがなく「見かけなかったですけど」って答えたんですけど、だいぶ不安そうにされていました。
詳しく話を聞いたら、家族と連絡がついたとき「法力峠(ほうりきとうげ)」という場所にいることが分かった。でもそれは一瞬で。結局、繋がらなくなって、連絡が途絶えてしまったと。

―― その「法力峠」までは、母公堂の登山口からどのくらい離れていたんですか?

2kmくらいです。

―― 再び入山することは、どんないきさつでご決断されたのでしょうか。

正直もう暗くなってたので、暗闇の雪山に突っ込んでいくのもどうかなと思っていました。でも、法力峠から移動しないで待ってるのかなとか、二次災害のリスクとか、もちろん最悪なことも含めて、色んなことが頭に浮かんでいました。

お母さんがまだ連絡をずっととれてるのであれば、すでに通報していた警察の救助を一緒に待てるというか、不安もないんでしょうけど。電話も繋がらず、かなり不安がっていたその場の状況でしたり、私の友人も技術はあれど体力的にかなり厳しそうだったので「それなら私行きますよ」と。そう言いました。

―― なるほど。

一緒にいた友人を連絡係にして、お母さんを落ち着かせる意味でも一緒に居させるのが、今できることとして一番良いだろうと。

(稲村ケ岳は)電波はろくに入らないんですけど、所々は入るので。あと、みまもり機能も使っていました。姉が通知先なんですけど、こうやって通知が行くからもし私が長時間動いていなかったり、何かあったと思ったら通報してって普段からしてるので。その心強さもあったり。

―― 遭難された3人は、別の登山口(観音峯山の方面)から、法力峠にたどり着いたんですよね。

はい、南西にある「御手洗渓谷」から「洞川温泉」に向かうハイキングコースを歩き始め、誤って登山道に迷い込んでしまったと。ただ、このあたり(奈良県天川村)に来てたのは観光目的で、特に雪山を想定した装備とかはなく、登山も未経験だと。

ですので正直、発見したときは、本当にびっくりしたというか、ゾッとしました。スマホしか持っていなかったんですよ。スニーカーでしたし。

―― それはもう予定すら無かったということですよね。

はい。3人が迷い込んだ観音峯山の方面は、比較的初心者でも登れるらしいんですが「母公堂」から「稲村ケ岳」へのルートは急な斜面や崖も多く、滑落距離で150mほどの場所もあったり、事故も少なくない場所なんです。その日は雪もありましたし、道も凍ったりしてたので、怪我をしていることも想定して、不要な荷物は極力デポして入山しました。

息子さん、家族の発見

―― 登り始めてからのことについて教えてください。

ファーストエイドキット、ホイッスル、そして予備ライト2個と飲料水をもっていきました。声を張ったり、ホイッスルを使ったりしながら、崖下をライトで照らして滑落していないか。また、山側でうずくまってないかを確認しながら、しばらく登っていました。

―― そこでまず息子さんと遭遇されたと。

そうです。途中、ひとりで歩いていたのを見つけて「大丈夫か!?」と言いました。何度か転んだそうですが、怪我はありませんでした。話を聞くと「母公堂」にいるお母さんに状況を知らせようと、登山口を目指して下山している途中だったと。お父さんと娘さんは上にいて、娘さんが足を痛めているとのことでした。

自然に何度か「怖かった」と口にしてたので、この山(稲村ケ岳)の危険さを伝え、そう思うならここに居て、お父さんたちと戻ってくるのを待って、4人で一緒に下山するか、十分に注意して下山するか、話し合いました。大丈夫とのことで、私としては少し不安もありましたが、父娘のこともあったので予備のライトを渡して。息子さんを信じて、そこからはもう声を出して登り続け、2人の所へ向かいました。

そして18時頃です。遠くから「ここにいます!」って声が聞こえて。周囲を見渡すと携帯のライトがうっすら見えて。「法力峠」からは少し手前の場所だったので、自分たちで下りようとしてたみたいですけど。この時点でもう心底ほっとしましたね。最悪なことも、どうしても想像してしまっていたので。

―― 会われた際、2人はどんな様子でしたか?

笑顔でした。2人とも。嬉しかったんだと思いますよ。私もとても嬉しかったですし。
でも息子さんの話の通り、娘さんは足を痛めてて、引きずって歩いていました。もう痛くて歩けなくなったと。なので、お父さんにライトを渡して、背負って。色々と話をしたり、音楽を流したり、不安を和らげようとしました。

登山口にいる友人に生存確認の連絡もしたかったんですが、電波が入らなかったので、もうそのまま下りていきました。YAMAP見ながら「あと何分くらいですよ」「何キロですよ」とかも伝えながら。

下山後

―― 本当に大変でしたね。

ただ、体力的にというか、気持ちとしては全く問題なかったんですけどね。でも背負ってたのであとで振り返るとやっぱり1時間半くらいかかっていました。結局、登山口近くに着いたのは19時半頃で、パトカーや救急車がずらっと並んでいて。暗闇の中から、赤いランプが見えてからはもう安心しきりでした。息子さんもご無事で。

―― 表彰のお話も、そこでお受けになられたんでしょうか。

そうですね。下山してしばらく経ってからですが、警察の方からでした。自分の中では、大したことじゃないと思っていましたし、そんな大袈裟なのは別にいいですと伝えたんですけど、警察の方が自分の会社にご連絡されていて。で、会社からぜひ行ってほしいと言われたので、まあ半分業務感覚で(笑)。もう半分は、この機会を通じて、安易な気持ちで無計画に山に入る人に、伝えられるものがあるならと。複雑な気持ちでしたけどね。

―― それは、どんなことに対してですか?

色んな人がいるということです。私が感謝状をいただくことで「よくやったね」「助けに行って正解だったね」と思ったり、言ってくれる人もいれば「何でこんなことで表彰されるの」というか。「そこは警察に任せるべきだった」とか。「登山をはじめて1年ちょっとの初心者がやることじゃないだろ」とかですね。

ただ、想像していた以上に大きく報道されてしまって、名前まで出ちゃってますし。会社の同僚からは「数千件もコメントあるよ!」と聞かされて、今となってはもう全然気にしていないんですけどね。見ないようにしてますけど。

本当はビビリ症

―― 「救かった」という結果・事実はとても大きいと思います。もしも他の登山者の方が岩崎さんと同じような状況になったら、どんな風に考えるべきだと思いますか?

私のような初心者が言うのも恐縮なんですけど、危険な身を犯してでもやっていたら、本当に二次災害になってしまうと思います。だから、自分の力量を超える範囲なら無理。できるならやってもいい。その判断を見極める。そこだけじゃないですかね。

―― シンプルですね。

今回みたいなケースじゃないですが、YAMAPで登ってるときも2回くらいありました。道に迷われていて、行く方向がわからない状態になってる方に「あ、じゃあこっち行ってください」とか、そのくらいですけどね。それはつまりできるからというか、わかるから教えるというか、そんな感覚です。まあ、困ってる人がいたら私やっちゃうんですよ(笑)

―― 普段もということですか?

昔からです。駐車場とか、おばあちゃんが車を駐車するために、入れようって何度もやるけど入れきれないとき、あるじゃないですか。そういうの見たら自分はしてしまうんです。「ちょっとおばあちゃん私運転やるから代わって」とか。

―― え(笑)ちなみに他にもあったりされますか?

午後に雨の予報が出ていたので傘を持って出かけていて、予報通り雨が降ってきた日にベビーカーを押した女性の方がいて。突然の大雨で困られてたので差し上げて私走って帰ったり。あと、サーフィンもやってるんですが、海で陸に戻ってこれない人、助けたりとか。たちって言うか。何でしょう。普通にスルーできない。

―― 過去に、何かきっかけがあったんでしょうか。

全くないですね。自分が「できる」と思うからです。今回も登りましたけど「絶対に私が救ける」と思っていたわけじゃなくて「捜すこと」をできると思えたからで、単純にそれだけです。基本的にビビリ症というか、小心者なので。

―― 第一印象「勇敢な方」でした。

ですよね、でも本質はビビリ症なんです。あの、NHKさんの報道の中で「普段、テントなど40キロほどの装備を担ぐこともある(だから娘さんを背負っての下山も苦にならなかったそうです)」と、屈強なイメージで書かれてましたけど、あれも不安からです。私登山にいろいろ持っていくんですよ。そしたら荷物ってどうしても多くなるじゃないですか。水場のない山とか、特に持っていきますし。そういうことです。結果的に使わないモノ多いんですけどね。

あと、「登山にはこういうモノが要ります」って情報がまとめられているものって、よくあるじゃないですか。ああいうのを見ても、絶対にそれで全部足りるわけないですよね。だから、揃えた持ち物で果たして本当に自分自身を助けられるのか、とか。そこに対してはどんな山でも、余計に考えてしまうんです。

―― だからこそできたということですね。

はい。今回もファーストエイドキット、ライトとか、色々持っていました。そのうえで、自分ができるか、できないかという判断をして、できると思ったから、やっただけです。それでもし捜せておけたなら、あとはもう救助隊に連絡をして、場所をここって絞らせておけば、対応が速くなりますよね。けど、危ないことはしたくないし、登山される方にも絶対にしてほしくないです。それで二次災害になって、警察とか救急の人に迷惑かけるのとか、本当に嫌だから。

それでも、自分が捜しに行く、状況を確認しに行くことで、そうした助けるまでの過程が縮まったり、スムーズにいくのなら、それは救助者にとっても、家族にとっても、どちらにとってもいいじゃないですか。

だから本当にそのためです。そのために無事でいてくれ、っていうただの気持ちです。

遭難救助当日のYAMAP活動日記より(2020.12.28)

活動日記(2020.12.28)に記載のご本人コメント

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YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。

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