鳥取・大山 遭難事故の記録|突然の吹雪・ホワイトアウトに見舞われた登山者を救った話

山の事故、山岳遭難のリアルに迫る、特集・遭難ZERO。登山アプリYAMAPの位置情報(GPSデータ)が活用された遭難救助事例や遭難者体験談をもとに、事故の舞台裏をお伝えします。今回の舞台は鳥取県、大山。突然のホワイトアウトに見舞われ遭難した登山者の救助事例です。

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2021.02.11

YAMAP MAGAZINE 編集部

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突然のホワイトアウトで身動きがとれず…|鳥取・大山 遭難事故の記録

日本海側を中心に、集中的な降雪が発生した2020年12月のある日、鳥取県にある大山を訪れていた田中さん(50代 / 仮名)は、突然の吹雪・ホワイトアウトに見舞われました。来た道を引き返そうにも、引き返せず、110番通報。およそ20時間後、無事に救助されました。

この救助活動では、YAMAPの位置情報(GPS)が遭難者の居場所を特定することに役立っています。一連の救助活動を主導された鳥取県琴浦大山警察署の方にお話を伺いました。

鳥取県琴浦大山警察署地域課のお二人(左から角隆さん[大山遭難広域救助隊員、山岳遭難救助技能指導員]、伊藤雅之さん[大山遭難広域救助隊副隊長])

110番通報(12月18日)

―― 通報を受けたのは、いつでしょうか?
12月18日の正午ごろ、田中さんご自身からでした。日帰りのご予定で、朝の8時から登りはじめ、下山する途中、8合目の近くで激しい風と雪に見舞われ、夏山登山道から外れてしまい「道に迷ってしまった」「下山できなくなった」と。

―― 強い寒波で、警戒が呼びかけられていた時期ですね。
そうですね。雪のため、ヘリコプターによる捜索ができない状況でした。自ずと救助隊員を入山させる必要性が出てきました。

―― 通報を受けてから、どんなことを行われたのでしょうか?
はじめに行ったのは、遭難場所の特定です。田中さんと電話は繋がっていたため、大山のふもとにある「大山寺」という駐在所を救助拠点に、情報収集をしていました。
色々とお尋ねする中で、登山アプリを使用していると分かり、ちょうど県警の本部から、過去にヤマップさんの講習を受けていた者が応援に駆けつけていたので「それなら位置情報がとれるのではないか」との話になりました。そこで、田中さんにはアプリを起動しておいてもらい、本人の了解も得て、ヤマップさんにお問い合わせした次第です。

―― 共有いただいた電話番号は、YAMAPに登録されていたものと一致し、特定もスムーズでした。
そうですね。頂いた位置情報のおかげで、田中さんは夏山登山道の6合目、標高約1,360メートルにある避難小屋の近くまで、下山している状況であることが分かりました。これが18日の15時半頃でした。

―― 捜索はすでに開始されていたんでしょうか?
はい。同時並行で、捜索の体制づくり(捜索隊の招集や編成)も行っていました。山のふもとから6合目までは、およそ2時間かかる想定だったからです。先発隊を計10名で編成し、先に出動させておき、詳しい場所は後で。分かり次第伝えるという形態をとっていました。

―― なるほど。
その体制づくりも円滑に進められましたが、常に臨時なんです。捜索隊員に指定されている者が、常に待機しているかのような印象を持たれることもありますが、普段は駐在所に勤務していたり、他の仕事との兼務であることが多いです。そのため、県警の本部や(隊員指定がなされている)近隣の警察署にも応援を要請し、13時半頃の出動となりました。
想定どおり、吹雪で視界不良の中、ラッセルをして6合目までは2時間ほどかかりました。着いた段階で分かったことは特になかったんですが、ちょうどその時、救助拠点から位置情報が共有されました。

ビバーク

―― でも、その日のうちに行くことはできなかったんですね。
はい。その位置は、登山道から外れ、西へ離れていました。登山道を外れた捜索は、一定の技術を有し、山をよく分かっていないと滑落や雪崩の発生など、二次事故の危険があります。そんな中でも、登山道から少し外れて声をかけ、反応がないか、できることはすべて試しましたが、発見はできませんでした。

―― 日没時刻が迫っていたこともありますか?
それもあります。通常、捜索が夜間に及ぶものであったり、雪山、それも登山道から外れた場所となると、民間の捜索部隊と連携します。
今回も、連携先である鳥取県の山岳スポーツクライミング協会(その中の、遭難の対策委員会)に応援を要請し、合同で捜索隊を組もうとしましたが、私たちと同様に臨時での対応です。生憎、当日の参加は叶わない状況でした。

―― 救助を待つ田中さんとは、どんなお話をされたのでしょうか。
ご自身の装備品と、現在地の状況を聞き出しながら、こちらからは、積雪や周辺の地形を利用したビバークの方法をお伝えしました。当然、低体温や凍傷も想定されましたので、翌朝は、日の出の時間に合わせ、すぐに捜索を開始できる体制で臨むこと。そして、位置の特定はできており、あまり動かず、その付近にいるように、といったお願いもして、初日の捜索を終えました。

無事発見(12月19日)

―― 翌朝のことについて教えてください。
山岳スポーツクライミング協会の隊員とも連携し、捜索隊は計14名で、朝の4時に救助拠点を出ました。ヤマップさんから、最新の位置情報が動いていないことも共有いただき、1日目と同様、6合目を目指しました。真っ暗でしたが、ヘッドライトをつけ、残っていた足跡も見ながら、登山道上を登り、日の出の時間の少し前に、6合目の避難小屋に着きました。
「田中さーん」と名前を呼ぶだけでは変わらず、反応がなかったので、早速斜面の捜索を開始しました。

亀仙人さんの活動日記より/6合目にある避難小屋

―― その斜面を下ったところにいらっしゃったんですね。
はい。経験豊富な隊員を中心に8名を選抜して、視界不良と深い新雪の中、それぞれ隣の隊員を確認できるくらいの間隔を空け、いわゆる「ローラー作戦」でラッセルして下っていきました。その途中、隊員のひとりが、彼のものと思われるギアを見つけ、名前を呼んだところ「はい」と反応があり、無事発見に至りました。

―― どんなご状況だったのでしょうか?
田中さんは雪がかぶさったブッシュ(藪)の中、ちょうど空洞になっていたところで、風雪からうまく身を守るようにして座られていました。隊員と意思疎通もとれ、問いかけにも答えられる状態でしたが、自力で行動できるほどではありませんでした。
手袋をなくされたようで、左手は重度の凍傷といえる状態でしたので、手袋で覆ったり。身体にもできるだけ刺激を与えないようダウンジャケットを掛け、衣服の内側にも熱湯入りのプラティパスを入れたり。捜索隊のひとりが行動食として持っていたアンパンのあんこを、熱湯で溶かし、お汁粉の状態にしてカロリーを摂らせたりと、様々な措置を行いました。

―― 回復させながらの下山だったんですね。
はい。1日目と同じく、悪天候でヘリコプターは出せませんでした。ですので、避難小屋に備え付けていた搬送用のスノーボートを使いました。エアマットや寝袋も活用して、保温しながら下山した形です。ただ、その途中で、徐々に体温が上がってきたのか、自ら飲食物をとりたいという意思表示もできるようになり、自力で飲み物を飲むまで回復されていました。
下山後は医療機関に搬送され、凍傷の左手は切断の可能性もあるとも告げられたようですが、無事に回復できたと聞いています。

救助者の視点

―― 今回の救助活動とこれまでを振り返って、お気づきになったことがあれば教えてください
夏山登山道ですが、これまでの大山での遭難事故では、転倒と滑落が多かったんです。
過信は禁物ですが、大山は電波の通じるエリアも多く、有事の際もたいてい連絡がとれます。当の本人がその場から動けなかったり、現在地を認識できなくても、通話さえできれば、特定まではできませんが、ある程度、目星をつけられることがあります。
日中の時間に救助要請を受けても、ヘリコプターで向かい、当日のうちに速やかに救助できることもあります。また、この度のように、携帯電話の位置情報も頼りになります。

それと比べると今回は、とにかくスピードが求められる状況でした。悪天候にヘリコプターの運航不能、遭難場所の不明瞭さに低体温や凍傷のリスクなど、それらが大きな制約だったからです。もっと早く救助要請を受けていたとしても、猶予があったとは思えないですね。

―― なるほど。結果的に、遭難者を発見された場所は、GPSの位置情報どおりだったのでしょうか?
実際の現場と、GPSの位置情報との誤差はほとんどありませんでした。発見した場所は、6合目の避難小屋から西に約100メートルの地点で、そのとおりでした。

当たり前のことですが、2日目の早期発見は、1日目で遭難場所を特定できたことにありますし、今回のように、捜索隊の入山が必要となる場合、果たして何人入山する必要があるのか。そして、どんな装備が必要になるかは、遭難場所を特定しないと判断できないんです。

―― 速やかに特定できたことが、2日目にも繋がったと。
はい。救助者としては、遭難場所が「ここ」というのが分かるだけで、そこがどんな地形をしているのか。また、登山道から外れている場合でも、登山道のどの地点からどうアプローチするのがベストなのか、最適な救助方法を考えることができます。結果的に、救助までのスピードが上がるので、命が助かる確率も上がる。正確性の高いGPSの価値はここに発揮されると思います。

―― 最後に、登山者の方に留意してほしいことはありますか?
慣れている方でも遭難してしまう、その可能性はゼロではないということです。ですので、山に行く際は、登山計画を入念におこなってほしいです。気象状態を確認し、無理な登山を控えたり、天候悪化の兆しがあったり、体調不良になった場合には、思い切って引き返すことを念頭に置く。下山中の事故が多いので、引き返す際は、十分注意してください。
登山道の状況をみるために、登山アプリを活用することも有用でしょう。持ち物に関しても、携帯電話の予備バッテリー、ヘッドライト、行動食、防寒着など、想定外のことも想定した計画と準備をお願いしたいです。

―― 貴重なお話をありがとうございました。

遭難者の視点

はじめに鳥取県警、山岳スポーツクライミング協会、医療従事者、YAMAPの方々。
この度は、捜索・救助並びに手厚い治療をして頂きありがとうございました。

当日は、天候があまりよくない状況でしたが、登れるところまで登ろうと出発し、6合目でアイゼンを装着し、7合目付近まで登ると晴れ間も見え「頂上まで行ける」と判断しましたが、8合目付近から急に吹雪き出し、完全にホワイトアウトとなり、何もかもが見えなくなりました。

YAMAPを見ようとスマホを取り出しましたが、低温のため電源が落ちていました。

慌てて持ちあわせていたカイロでスマホを温め、電源が入るまで下山しようとしましたが、胸まで積雪に嵌まったり、前に進むことが困難になり、再び電源を入れたところ、立ち上がったため、YAMAPを開き、現在地を確認しました。

しかし、登山道からは離れ、これでは自力での下山が無理だと判断し、救助を要請しました。

ビバークの方法を丁寧に教えていただき、ちょうど樹木の下の窪地で風を防げそうな場所があったので、教わった通り、準備を行い、一息ついた時、手の指先が凍傷で真っ黒になっているのに気づきました。幸い、食料とバーナーを持ちあわせていたので食事をし、ガスで雪を溶かし、お湯を沸かして手の指を暖め、ぬるくなったらそれを飲む。そんなことを繰り返していましたが、2時間ほどでガスは底をつき、あとはもう寒さ、時間との戦いでした。

警察の方からは何度も励ましのお電話をいただきました。
翌朝より捜索を再開すると聞き、何とか頑張ろうと思いました。
時計を見て時間が経っていないと気が滅入ると思い、時計は一切見ず、体温を温存するためにトイレも我慢し、声を出し続けました。

もう0:00を回っただろうと期待し、時計を見たところ2:00でした。
あと少しで捜索を再開してくれると、元気が湧いたり、3:00過ぎ、警察の方から「もう少ししたら捜索を再開する」との連絡を受けたときは、昨日からの吹雪がまだ続いており、捜索が難航するのではと不安がよぎり、あと1晩ビバーク出来るかを考えたりしていました。捜索隊の声が聞こえないか耳を澄ませていると吹雪の中、自分の名前を呼んでる声がかすかに聞こえ「助かった」と思い、大きな声で自分の居場所を知らせました。

湯たんぽを作っていただき、温かい飲み物とアンパンをいただいたり、搬送用のスノーボードに乗り、搬送中も声をかけて頂き、安心して無事に下山することができました。

搬送された病院で、経過次第では手の指を切断しなければいけないと言われましたが、順調に回復し、2ヶ月たった今では、指の痺れこそありますが、箸が持てるぐらいまでには回復しました。

登山歴は10年ほどあり、雪山は10回ほど登ってきましたが、今回初めて山の怖さを感じました。
ですが、登山はやめないと思います。
無事に帰ってこれたことには、何か意味があると考えたからです。
その意味を探すため、山を登り続けます。
これから登山を始めたい方、雪山を始めたい方、
ぜひ始めてください。そこには素敵な世界が待ってます。
しっかりとした準備と計画で安全登山を楽しんでください。ご安全に。

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また、電波が通じるとは限りません。ご家族や身近な方に、有事の際は、警察と同時にYAMAPにも連絡してもらうよう、伝えておきましょう。

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まずは登山計画を提出し、どのルートを歩く予定なのかを明確にしておくことが大切です。最初に遭難したと通報してくれるのはあなたの家族なので、警察や自治体だけでなく、家族にも計画を伝えておきましょう。

また、YAMAPのみまもり機能を使うと、登山中の現在地や下山したという通知を家族にメールで送信することができます。無料でどなたでもお使いいただる機能ですが、YAMAPプレミアムに加入すると、LINEで手軽に家族へ通知することができます。

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YAMAP MAGAZINE 編集部

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登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。

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