絶海の孤島で楽しむ濃厚な自然“NO PEAK離島遊び”のススメ

登山の様子を愛らしいイラストエッセイで表現する人気イラストレーター、ヤマガスキナダケさんが手がける連載「ヤマガスキナダケの”NO PEAK 山遊び論”」。ピークハント以外の様々な自然の遊び方についてお届けしています。第4回目のテーマは「離島遊び」。紺碧の海や大パノラマの山、独自の進化を遂げた生物種や島特有の不思議な文化など、濃厚で芳醇な離島の魅力について、ヤマガスキナダケ流の楽しみ方をお届けします。新型コロナウイルス感染拡大収束の日に備え、ぜひご熟読ください!

※ 新型コロナウイルスの状況や拡大防止への対応は、お住まいの地域によって異なります。国や自治体、関連機関の最新情報を参考に、安全を心がけた登山をしましょう。コロナ禍における登山についてのYAMAPの考えはこちら


ヤマガスキナダケの”NO PEAK 山遊び論” #04連載一覧はこちら

2021.09.08

ヤマガスキナダケ

会社員イラストレーター

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都会の束縛からの脱出

私たち現代人は色々な制約の中で生活しています。そのおかげで私たちは安心して暮らせている反面、時に制約がストレスを生む事もあります。そうしてバランスが崩れた時、私たちは窮屈な社会からほんの少し距離を置き、ほんの少しの間だけ心身を癒してリセットしたくなるのかもしれません。

自然に魅力を感じ、登山を趣味にしている人の中にはこういった理由で山に足を運んでいる方も多いんじゃないでしょうか。たまに枠から抜け出して、自然の中で自分と向き合う時間は必要だと思います。

美しい自然の前では悩みを忘れて笑顔になる

限られた時間の中であれもしたい、これもしたい、もっとしたい

時間がない人には、私のように近所の低山をおすすめします。ストレス社会のちょっとだけ枠の外。近くて比較的楽なうえ、短時間で楽しめる。現代ならではの登山スタイルなのかもしれません。

でも、どうせなら生活からぐっと離れて遠くにも行きたい! 時間は無いから許す限りであれもこれもしたい! あれもこれもは贅沢な話だと思うかもしれませんが、実はそれが叶う場所があるんです。

それが『離島』です。

離島には私たちが魅力に感じるたくさんのものが詰まっているのです! ということで、前置きが長くなりましたが、今回は海に囲まれた離島の楽しみ方を体験を交えてお話しします。

海を渡るという行為自体が、普段の生活から気持ちをリセットしてくれる

離島遊びのキモは自分自身の「冒険心」

離島の魅力は単純明快。「楽しい」がいっぱいあるんです! 果てしなく海が広がる開放感、山や川や海が近い一体感、人が温かく距離も近い親近感…離島の魅力を数え上げたらキリがありません。

島に一歩降り立った瞬間から感じる独特のなんともいえないゆる〜い空気感が、子供の頃の夏休みを思い出させてくれる。海を渡るワクワク感、初めて触れる文化へのドキドキ感。そう、期待と不安。未知の世界に足を踏み入れるような、忘れていた「冒険心」こそ、離島という切り離された世界の魅力なのです。限られた時間を最高の物語にするのはあなた自身が持ってる冒険心。離島はその冒険物語の最高の舞台だと言っても過言ではありません!

暇を持て余した「漂流記」になるか、痛快ノンストップ「冒険記」になるかはあなた次第。冒頭のイラストで大袈裟に表現しましたが(実際に向かった先は人口3万人を有する九州の離島、対馬です。大袈裟に書いてすみません…)、いかに冒険の主人公になりきれるか。これこそが離島を楽しむキモではないでしょうか。

海から見ていた山の頂を目指す。冒険度★★★★★

海抜0mからの見る山はたとえ低山でも大きく見える。我ら探検隊の冒険心に火がついた

ザックに夢を詰め込み、両手はフリー

離島遊びのメリットに計画のしやすさがあります。離島という限られた空間ではできることも限られているのです。宿泊施設や交通手段で迷ったり、どこへ行って何して遊ぼうかなんて迷う必要はありません。限られた時間、空間の中にできることだけを詰め込めばいいのです。

詰め込むといえばもうひとつおすすめしたいのが荷物の準備について。この記事を読んでいる皆さんは登山が趣味の方も多いと思います。であれば、いつもの装備を活用し、荷物は全てザックに詰め込み、手には島の地図だけのまさに普段の登山スタイルがおすすめ。

こんな時こそ軽量、コンパクトな登山のギアやウェアが役に立つというもの。お気に入りのギアやウェアをあーだこーだと考え、パッキングしている時間も楽しいものです。

登山同様、両手と気持ちをフリーにして、いざ、離島の世界に!

空のワクワク、海のドキドキ。離島は辿り着くまでも面白い!

計画・準備と合わせて重要なのが移動手段。冒険心さえあれば、この長い移動ですら楽しいものに変わってしまうのです。離島に渡る手段には主に「空路」と「海路」がありますが、ここにこだわって欲しい。

あくまで個人的な意見ですが、飛行機で空から島へ渡る魅力はアドベンチャー映画のオープニングのような高揚感だと思います。非日常の乗り物に乗る特別感とこれから上陸する島の全様が見えるという演出にテンションが否応なしに上がります。

一方、船で渡る魅力はミステリー映画のオープニングような神秘的な期待感。少しずつ島が見えるという演出が、これから始まる旅で出会う謎やハプニングを想像させ、忘れていた無邪気な心を刺激してくれます。

荷物はそれぞれザックひとつだけ。移動時の手続きのスムーズさにおいても便利

冒険心はアクシデントや悪天候をも味方に

こうして自ら高めたテンションを持ってすれば、天候の急変や予定の変更などの小さなアクシデントやハプニングですら楽しいものに変えられるはずです。むしろ旅の面白さとは想定外の出来事にこそあると言って過言ではありません。振り返ればそんなことが一番思い出に残るものです。

でも、想定外を楽しむことができるのは最低限の装備や下調べがあってこそ。その辺りの準備を万全にすることを忘れないようにしましょう。特に、病気や怪我に関して、離島は交通が不便なうえ病院なども限られているので、装備・施設の場所、連絡先は事前に調べておくのをおすすめします。

急な雨。この時も登山用のレインウェアが役に立った

離島ならではの魅力。独自の文化・遊・祭・食・歴史・生き物

ここで具体的に離島の魅力を挙げていくと、

360度囲まれた海

離島では太陽は海から昇り、海に沈む。当たり前のことなのですが、大半の人にとっては、経験できそうでできない特別なことです。どこへ行っても見ることのできる水平線が、住む街から遠く離れた島にいることを実感させてくれます。

カヤックで無人島へ渡って海水浴。背後には明日登ることになる山がそびえる。普段海に馴染みのない家族全員が夢中になった

コンパクトにまとめられた大自然

山、川、海が短距離で繋がっており、狭い範囲に多様な環境が凝縮されているのが離島の特徴。限られた時間で自然を満喫したい人にとっては、少ない移動時間で、それらを思う存分楽しむことができる最高の場所なのです。

登山当日の朝、起きてすぐ宿泊先の目の前の漁港で釣りをしたら10投して6匹釣れた

固有種の存在

さらに、海に囲まれた離島の見所として忘れてはならないのが固有の動植物。その特徴や習性を調べれば、個性的で魅力あふれる生き物たちが多くいることに気づくはず。これは私の経験談ですが、島の固有種を現地で見ると見ないとでは全く旅の印象も違ってきます。

対馬の固有種であるツシマヤマネコの野生の姿を探索するツアー。ドキドキが止まらない

これは生き物に限らず島の歴史にまつわる神社や史跡でも同様のことが言えます。離島には離島ならではの独特な歴史がつきもので、これが実に面白い。離島遊びのアクセントとしてほんの少し加えるだけで、旅がグッと奥深いものになるはずです。

偶然通った戦時中の砲台跡。もともと予定には無かったが悪天候で予定を変えて立ち寄った。こういった予定外こそ旅の魅力

独自に発展した文化・信仰・食

島という閉鎖された環境から生まれた風習は、本土とはまた違う、まるで海外の文化のようにミステリアスで興味深いもの。特に祭事には珍しいものが多いので開催のタイミングを見計らって旅を計画すると貴重な経験ができるでしょう。

独自の文化は食にも表れています。離島に渡った際にはぜひ郷土料理を食べて欲しい。むしろそれが旅の醍醐味と言っても過言ではないでしょう。

平地の少ない対馬では米が作れず蕎麦や芋が利用されてきたことを知った

離島で登山をする理由

海抜0mに近い所からの離島登山は、山と海が水の循環でつながっていることを体験でき、展望が良ければ海に囲まれた大迫力のオーシャンビューも満喫できる贅沢な体験! そして山は個性的な動植物たちの宝庫! 離島登山をする理由としてはこれで十分でしょう。しかし、もう少し広い視野で離島登山を考えてみてください。

離島という限られた世界にはあらゆるものが凝縮されており、ひとつのものに多くの意味や役割が含まれていることが多いそうです。それは山も例外ではありません。

一際個性的な形の山。その姿を見ると、霊峰と呼ばれる理由がわかる気がする

高い山や特徴的な山は信仰の対象であることが多く、島の歴史においても特別な意味を持っています。登山という概念などなかった太古の時代から、人々の間に島一番の高い場所や島を一望できる場所への憧れは絶対あったはずで、山は特別な場所になっていたと思うのです。

時代を超えてそんな特別な場所に立つことができるのが私にとってはもう、ロマンでしかない。そうやって景色を見ていると「ただ美しい」だけではなく、この山が信仰の対象になった理由が感じられる気がします。

私は島の象徴のような山に旅の最終日に登ったのですが、果てしない空と水平線を見ていると、旅の思い出や登山の苦労も相まって、まるで島の中心にいるような感覚を感じました。
山自身の目線というのか島の目線とでもいうのか…。

たかが数日間の滞在で恐れ多くも言わせてもらうなら、島の歴史や記憶を網羅したまるで神視点のように感じたのです。

今のはちょっと大袈裟に言いすぎましたが、山に登ってこの島のことをより深く知れたような気がしました。これは旅人ならではの感覚なのかもしれませんが、だからこそ離島の旅の締めくくりとして登山をおすすめしたいのです。

パワースポットなんて言葉では申し訳ない。でもそれを表現できないもどかしさ

事前に調べることが離島遊びをさらに面白くする

ただ、後悔があるとすれば、もう少し島の知識を頭に入れていればもっと旅を楽しめたかもしれないかなということ(地域が抱える問題や文化や信仰や伝統への配慮なども知っておくのも大事)。

現地で初めて知ることも旅を楽しむ要素ですが、特に興味があることは多少調べておくほうがより感動が深まります。山に伝わる言い伝えや固有の動植物などを知っておくと間違いなく充実した登山になるでしょう。

また、現地の方と出会い話す機会があれば積極的に交流してほしい。現地の方と仲良くなると、旅を終えた後にも、島と自分を繋げ続けてくれる「絆」のようなものが心に残るからです。それは再び島を訪れる際に、きっと互いにとって意味のあるものになると思います。

帰りのフェリー「絆」から見た夕日が、旅の締めくくりを感傷的に演出してくれた

島に流れるスローな時間

離島は広大で果てしない空や水平線の開放的な魅力と、自然や歴史などが凝縮された濃厚な魅力を感じることができる不思議な場所。それは事実なのですが、「島の魅力の真髄は?」と自問自答すると、どうもしっくりこない。

だから単純に「またあの島に行きたい理由は何だろう?」と考えてみたら、遊んだり、知ったり、体験したこと以上に、流れる島の時間だということに気がつきました。

島で感じた開放感や人の温かさも、海を隔てた離島独特のあの島時間から来ているような気がします。やりたいことを時間いっぱい詰め込んだにも関わらず思い出すのはスローな時間。離島の本当の魅力は島に降り立った瞬間から流れるあの懐かしい夏休みのような時間そのものかもしれません。

また島に遊びに行きたい気持ちよりも、島の人たちに会いたい気持ちの方が強くなっている


対馬の大自然をYAMAPを使って探検! 特設サイト「ADVENTURE OF TSUSHIMA」


YAMAPを使って親子で対馬を冒険しよう! YAMAPでは「一般社団法人 対馬観光物産協会」とコラボレーションし、YAMAPアプリを使って親子で対馬を冒険できるプロジェクト「ADVENTURE OF TSUSHIMA」に取り組んでいます。島の霊峰「白嶽」への登山や無人島へのシーカヤックツアー、砲台跡探検など、心躍り、親子の絆を深める大冒険があなたを待っています。ぜひ、新型コロナウイルス感染拡大が落ち着いたあかつきには、参加をご検討ください!

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ヤマガスキナダケ

会社員イラストレーター

ヤマガスキナダケ

会社員イラストレーター

京都在住。山、川、時々イラストがライフワーク。山頂にはこだわらない登山を家族3人で楽しんでいます。いかに日帰りで無理をせず低山を楽しむかがテーマで、登山をもっと身近に感じてもらえたら幸いです! instagramはコチラ→https://www.instagram.com/yamagasukinadake/?hl=ja