YAMAPフォトコンテスト2020で特別賞に輝いた、雲海Lover/フォトグラファーことスズキゴウさんが、写真がもっと楽しくもっと上手になる方法を伝授してくれる本連載。第5回目は写真の仕上げ、Adobe Lightroomを使っての現像についてです。オンラインセミナーで実践したスズキゴウさんの現像テクニックを惜しみなく教えてくれるそうです!山の写真をより美しく残したい方は必見の内容ですよ。
山の写真をもっと楽しく上手に撮る方法 #05/連載一覧はこちら
2021.10.04
スズキゴウ
雲海Lover/フォトグラファー
早いもので本連載もいよいよ最終回。Vol.1〜4の連載を通して、お山での写真撮影の心構え、撮影の練習方法、撮影ポイントの選び方、構図、ドラマチックな写真を彩る自然現象についてなどを一通りお話してきました。
第5回目の最終回は、撮影後に素晴らしい作品に仕上げるための最短コースとして、Vol.1でも言及したLightroomを使った私なりの現像方法についてのお話をしたいと思います。
9/2のオンラインセミナーでの写真現像の解説デモンストレーションでも使用した、北アルプス裏銀座の入り口、烏帽子岳の隣にある前烏帽子岳から見た「三ツ岳」という私の大好きなお山の写真を使って解説していきます。
三ツ岳は北アルプスの中でもあまり聞き慣れないマイナーな部類に入るお山ですが、緩やかなカーブを描きながら、烏帽子小屋からじわじわと約300m標高を上げてたどり着く、見た目も壮大な2,845mのお山です。初夏はコマクサをはじめとする美しいお花が咲き乱れ、稜線に滝雲を纏う日も多いです。夏であれば朝陽も夕陽も美しく差し込むロケーションであるため、とても魅力的な被写体だと思います。
撮影場所の前烏帽子岳は、奇抜なオベリスクを擁する烏帽子岳の通過点になりがちですが、燕岳と同等以上に花崗岩の岩と砂が豊富で、山頂付近は構図の中に入れたくなる様な美しい岩々が点在しています。
北側には烏帽子岳や立山、南側には三ツ岳、西側には赤牛岳や薬師岳、東側には唐沢岳と餓鬼岳が並び、どの方向を向いても絵になるとても撮れ高の良い優秀な撮影ポイントです。
現像には正解がありません。どんな現像も作品として成立していれば作品です。極端に言うと、黒潰れしている部分がほとんどで山頂だけに光があたるように見える現像を行ったとしても、作った本人がそういう作品ですと言い切れば作品ですし、一人でも共感を生んで「いい」と思ってくれる人がいるならば作品として成立しているんだと思います。
いまのは極端な例ですが、私の現像方法もあくまでも一例ですので、これが正解と思わずに一つの例として参考にしてみてください。
私が現像する際に気をつけている点、その1つ目は完成イメージをぼんやり思い浮かべることです!
方法はいたって簡単。完成形のイメージをぼんやりでいいので思い浮かべて強制的に想定してしまうことです。完成形がある程度方向づけられれば、現像迷子になることなくゴールに向かって処理しやすくなるからです。
たとえば、霧やガスに光が当たる様な写真の場合はちょっとふんわり優しい感じに仕上げようかなとか、冬のピーカンのモルゲンロートの時は空気の冷たさを感じてもらえる様にキリっとシャープ目に陰影つけようかなとかそういったゴールを設定します。
私が現像する際に気をつけている点、2つ目は写真の中でどこを見せたいポイントにするのかをしっかり決めておくことです。
ひとつじゃなくてもいいと思いますが、多すぎると賑やかすぎて騒がしい印象になりかねないので、写真の構図に応じて見せたいポイントのプライオリティ(優先度)をつけていきます。
この写真であればかっこいい滝雲、朝陽の優しい光、山頂、手前の岩々などのポイントですが、今回は私の好みで滝雲と優しい朝陽のふんわり感を1stプライオリティに、山頂、手前の岩々を2ndプライオリティに設定しています。
私が現像する際に気をつけている点、3つ目は順序立てした処理を行うことです。ただやみくもに数値を行き当たりばったりで動かしていくより、順序立てしてある程度パターン化した方法で現像した方が安定したクオリティーと統一感ある仕上がりにしやすくなります。
私の場合はざっくり以下の順番で処理しています。
1.全体の明るさ、陰影
2.トーンカーブ
3.部分補正を使って細かい明暗を調整
4.カラーの調整
5.全体の再調整
6.シャープ、ゴミ処理
7.書き出し
まず最初に、全体の明るさや陰影を決めていきます。基本補正内の「露光量」「コントラスト」「シャドウ」「黒レベル」など、基本補正内にある項目を調整して大まかに頭で描いた方向性に近づけていきます。
その際にヒストグラムをチェックしながら白飛び、黒潰れがないように調整してください。彩度などのカラー調整はいったん無視したままで大丈夫です。
トーンカーブは絶対にやらなければならないものではないのですが、撮りっぱなしの眠たい感じの印象を「ふわっ!」「キリ!」っと抑揚をつけるのに便利な機能です。私の場合は魔法のトーンカーブと呼んでいる定番のトーンカーブを軸に調整することが多くその際ヒストグラムを見ながら白飛び、黒潰れしないように気をつけて調整します。ただしこれが正解とかはないので撮った時の写真に応じて調整してみてください。
写真全体を調整した後は細かい部分を微調整していきます。その際に便利なのが円形フィルターやグラデーションフィルターなどの部分補正です。
素晴らしいことにこの部分補正には特定の明るさだけを調節できる輝度マスクと特定の色味だけに調整することができるカラーマスクがついていてめちゃめちゃ便利!!覚えておくと素晴らしい武器になること間違いなしです。今回の写真では以下を行いました。
・前景の岩場部分だけの明るさ調整
・写真の左側から光が入ってきている部分を少し強調
・山頂付近をもう少し立たせる
・滝雲と雲海が引き立つように立体感をつける
・空が主張しないようになじませる
ポイントとしては「はみだし」です!円形フィルターを写真より大きくはみ出して使うことでより効果的な調整を行うことができるようになります。
なかなか思いつかない方法だと思いますが、朝陽や夕陽が横から差し込んでいる時は陰影のコントロールにとても有効です!
全体的な明るさと陰影が決まってきたらカラーを調節します。まずは大まかに基本補正内の「色温度」「色被り補正」を使って全体の色のバランスと方向性を決めます。
そして「HSL/カラー」の項目を使って色ごとの明暗濃淡のバランスを調整します。ここでやりすぎるとカラー全体が破綻するので困ったら一度「HSL/カラー」の項目をフラットに戻してみてください。
ここでは前景の岩に当たる朝陽を少し強調するためにオレンジを少し濃くしました。
全体の調整を行う前に、「カラーグレーディング」という便利な機能を使ってさらにエモさを増していきましょう。「カラーグレーディング」は簡単にいうとハイライト、中間色、シャドウの3つの明るさごとに色を加えることができる機能です。
例えばここではハイライトに少しだけ暖色系を加え、シャドウに寒色系を加えることでよりドラマチックな朝感の演出しました。そして、あたらめて全体をチェックし、4のカラー調整で使った基本補正内の「色温度」で少しブルー寄りに調整しつつ、全体的に気づいた部分を微調整していきます。
お山での撮影はカメラもレンズも湿度と風にさらされることが多く、カメラセンサーやレンズ自体にゴミや水滴がつきがちです。多分に漏れずこの写真にもゴミがあり、とりわけ空部分はゴミが目立っています。
そこで「スポット修正」機能を利用してゴミを消していきます。簡単にいうとゴミがついている部分と似ている部分を写真の中から自動でAIが読み取って、移植してゴミを消してくれる機能です。
上手なお医者様がやってくれた傷がわからない皮膚移植みたいなイメージだとわかりやすいかも。これはコツコツとチェックして潰すしかないので100パーセントに拡大し、画面をうまく動かしながらゴミを消していくのがコツです。
そしてゴミ消しが終わったら「ディテール」項目のシャープを調整します。今回はガスから顔を出している山頂部分を拡大し、空部分とお山の岩肌を両方チェックしながら空にノイズが乗らない程度にシャープを調整しています。
最後にJPGに書き出します。Twitterでは4Kでも投稿できるので書き出しサイズは最大サイズで大丈夫ですがInstagramの場合(iphoneからの投稿)は横幅4096pixだと圧縮されないベストなサイズといわれているので、instagamで投稿する場合はヨコイチ写真の場合は上記の数値を長辺として入力、書き出してください!
また、作業途中でもBefore/Afterを確認できる便利な機能を活用しながら進めると良いと思います!
情報量が多かったので、改めてまとめます。今回は私が現像をするときのポイントを以下の通りにまとめました。
そして、改めて写真がどのように変わったのかも再確認してみましょう。
いかがだったでしょうか?全5回にわたる連載もついに終了となります。
約1ヶ月以上にわたりお送りしてきたお山での写真撮影のいろは、毎週楽しみにしてくださったみなさま、本当にありがとうございました。不明点や質問などがあればお気軽に私のInstagramなどにDMしてくださいね!
今回のVol.5は9/2のオンラインセミナーのアーカイブ内で実際にLightroomを使っている画面をお見せしています。事前に集めた質問にも全部お答えしていますので、ぜひご覧になってみてください。
それではまた!
モバイル版Lightroomは全ての機能を使うには有料ですが、7〜8割くらいの機能は無料で使用できます。RAWを使った現像のスタートとして、とてもお手軽だと思いますので、ぜひ試しに使ってみてください。
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