山と共に暮らす|自然の翻訳者「インタープリター」という新たな生き方

「山や自然に関わる仕事がしたい…」。山好きならば、一度ならず考えたことがある淡い夢。しかし、多くの人はそんな夢を心の奥に押し込めて、そっと蓋をしています。でも、もしその願いが叶うとしたら? 自然の素晴らしさを人々に伝えることで、感謝されたり、地域の役に立てたり、少しだけでもお礼をもらえたら…。今回は、そんな『淡い夢』を実現しようと大分県竹田市で奮闘するインタープリターの卵、8人の物語をお届けします。

2022.02.22

Toba Atsushi

YAMAP STAFF

INDEX

『自然の翻訳者』インタープリターとは?

皆さんは『インタープリター』という言葉をご存知でしょうか? 辞書を引くと最初に出てくる意味は『通訳者』。しかし、今回ご紹介するのは言葉の通訳をする人のことではありません。

インタープリターという言葉が持つ別の意味。それは地域の動植物や文化について、人々に分かりやすく伝え、自然のフィールドを案内する役割のこと。一般の人々だけでは知ることができない素晴らしい地域の魅力をわかりやすく解説し、物言わぬ地球のメッセージを代弁する『自然の翻訳者』こそがインタープリターなのです。

インタープリターが活躍する範囲は、みなさんが想像されるようなガイドとは違い、危険が少ない穏やかな里山や街が中心。一般の人々が気軽に訪れることができる場所を舞台に、地域が持つ自然や文化を分かりやすく、人々に紹介していくことが主な仕事内容です。

インタープリターになる方法は?

インタープリターになるために特定の認定制度はありません。アウトドアに関する基本的な知識や、コミュニケーション能力、緊急時の対処方法は必要ですが「これがないと、案内してはいけない」という決まった資格はないのです。

応急処置に役立つ『ファーストエイド』の資格や、森林に関する知識を習得する『森林インストラクター』など取得することで、知識が深まり活動範囲を広げることができる資格はありますが、必須ではありません。

では、インタープリターになるためには何が必要か? それは「地域のフィールドを愛し、探求し、その魅力を広めたい」と強く思う心です。

今回、大分県竹田市でインタープリターになろうと奮闘している面々も、そんな熱い心を内に秘めたメンバー。竹田市に住み、祖母山を愛する総勢8名がYAMAP専属ガイドのひげ隊長指導のもと、全3回・8日間の講習を経てインタープリターを目指す模様をここからはお届けしていきます。

YAMAP専属ガイドのひげ隊長こと前田央輝。日本にインタープリターの文化を根付かせるために、各地で活躍中

さまざまな本業を持つ参加者たち

全3回のうち、初回の講習が開催されたのは2021年10月下旬の2日間。メニューはインタープリターの基礎に関する座学と、実際に山を歩きながらツアー内容を検討するフィールドワークです。

参加者は竹田市が主体となり、市内から募集した個性豊かな面々。それぞれが本業を持ちながら、地域の自然や文化を活かした地方創生に取り組んでいきたいという熱意を持ったメンバーばかり。年齢は20代〜40代、職業も自動車整備工や宿泊施設の経営者、農家、保育園の事務職や地域おこし協力隊と多種多様です。

今回の受講者8名。いずれも竹田市在住で、さまざまな本業を持つ

当日午前9時、メンバー8名とひげ隊長は竹田市の祖母山麓にある旧竹田市立嫗岳小学校をリノベーションした『祖母山麓体験交流施設 あ祖母学舎』に集合しました。一同の中には初対面のメンバーもおり、これから始まるインタープリター養成講座に緊張の面持ちです。

講座の最初は、参加者ひとりひとりの丁寧な自己紹介から始まります。それぞれの生い立ちや、幼い頃の自然体験、将来の夢などが各人から時間をかけてじっくりと語られました。

「自然と人の共生を学べる場所として竹田市を発展させたい」「インタープリターの取り組みを事業化して、収入の支えにしていきたい」「宿を経営しているので、自然散策ツアーを宿泊者へのサービスに組み込みたい」など、その内容は実に多様。参加者同士がお互いのバックボーンや夢を共有し合うことで、同じ目標に向かって力を合わせていく土台がしっかりとできたようです。

8名の中でもリーダー的な存在が竹田市内で自動車整備工場を経営する工藤桂太さん。竹田市が誇る名峰、祖母山の麓で生まれ育ち、研修の会場ともなっている旧竹田市立嫗岳小学校の卒業生です。

自動車整備に従事する桂太さん。本業では18人の社員を要する会社の代表を務める

2017年、祖母山を含む周辺エリアが『祖母・傾・大崩ユネスコエコパーク』として登録されたことをきっかけに故郷の自然の希少性に気付いたという桂太さん。地域に住む若手を集めて『MMS21(Mother Mountain Sobo 21の略称)』というチームを結成し、登山道整備や地域の子ども達を対象とした自然教育などの活動をしています。「母校の旧校舎を活用し、地域に自然を楽しむ文化を根付かせたい。ゆくゆくは、アウトドアを活用して地域に経済的な効果も生み出せれば」と桂太さんは語っていました。

一方で「果たして“祖母山の自然”を目的に人が来てくれるようになるのか、イメージができない…」といった声も。様々な思惑が渦巻く中、いよいよひげ隊長の講義が始まります。

【第1回講習】初回のフィールドワークで実力不足を痛感

まずは、YAMAPが発行している『インタープリター養成講座テキストブック』を使って、ひげ隊長からインタープリターとして抑えておくべき基礎知識について、みっちり1日かけて座学が行われます。

過去に複数エリアでインタープリター養成講座を実施しているひげ隊長からは「本気でやります。途中でついていけずに脱落する受講生も過去にはいたので、覚悟を持って取り組んでください」と厳しいコメントが。

この講座に申し込むまでは、大半のメンバーがインタープリターという言葉すら知らなかったとあって、不安と緊張が入り混じった雰囲気の中、座学がスタートしました。

座学の内容は、『参加者の隊列の組み方』や『ツアー開始前のチェック事項』、『人を惹きつける解説の方法』、『緊急時の対処法』など多岐にわたりますが、中でも活発な意見交換がなされたのは「竹田でどのようなツアーをつくるのか?」というディスカッション。

「城下町の文化を紹介するツアーを考えてみたい」「林業や農業、炭焼きなど、山と人との関わりを紹介するツアーを作りたい」「祖母山の貴重な植物を紹介したい」などの意見交換がありましたが、一際情熱を持って意見を述べていたのは最年少の黒阪旅人さん。

大学から関東に出て就職したのち、地域おこし協力隊として故郷の竹田市に戻ってきた旅人さんは28歳。釣りが趣味で、祖母山神原登山口付近の神原川に生息する渓流魚『アマゴ』の生態について伝えていきたいと熱心に語ってくれました。

続いて、祖母山山麓に伝わる神話・伝承に関する意見を出したのは、竹田市役所に務め、前出のMMS21にも所属する佐田直人さん。公務員という職業柄、インタープリターとしてお客さんから謝礼をもらうツアーは実施できませんが、企画立案やバックアップで活躍したいという思いから参加を決めました。

直人さんは、今も祖母山麓に伝わる神楽の舞手として活躍する地域文化の担い手。「祖母山周辺には、天孫降臨にまつわる神話や平家の落人に関する不思議な話が数多く残っています。それらを知ってもらうためのツアーを考えたい」と語ります。

各々の意見を一通り聞いた後、ひげ隊長からは「説明や解説だけではダメ。大切なのはメッセージです。最終的にツアー参加者にどんなメッセージを持ち帰ってもらいたいのか? 明日のフィールドワークでは、そこから逆算してツアーのストーリーを考えていくようにしてください」とひと言。各自、祖母山麓の自然や歴史に関しては詳しいようですが、メッセージとなると…。一同やや困り顔の様子で、1日目の講習は終わりを迎えました。

明けて2日目。この日は最も多くの参加者がツアーのフィールドとして選んだ『祖母山神原登山口』から『5合目小屋』までのルートを歩きます。道中では「これは紹介しておきたい!」と各々が考えているネタを1〜2つずつ披露していく予定。

今回の講習のメインフィールドとなった祖母山神原登山口〜5合目小屋のルート図。YAMAPの該当地図はこちらから

本番のツアーでは、もちろん案内役は自分ひとり。始まりから終わりまで、自分の力だけで一般のお客さんをエスコートしていく必要がありますが、まだまだインタープリター養成講座は始まったばかり。まずは、メンバー同士でネタを披露しあい、腕試しをしてみようと言うわけです。

一行は神原登山口を出発し、コース上の滝や木々、祖母山に伝わる神話の解説をしていきますが…、初回ということもあって、なかなか上手く案内できません。

うっかり間違えた情報を伝えてしまったり、話にストーリーがなく植物の名前をただ紹介するに留まったり、前提知識がない一般客を相手にしたツアーであるはずなのに、難しい固有名詞が突然出てきたりと、空回りしがちです。

メモを片手に滝の説明をしている様子。緊張のためか、表情も硬くなりがちで、説明もスムーズとは言い難かった

しかしひげ隊長曰く、そんな中にあっても一筋の光明が見えているとのこと。それは「付け焼き刃の知識ではなく、本当に好きなものを楽しみながら説明しているときには、その素晴らしさが伝わる」ということです。

「植物が好きなメンバーであれば葉の香りや紅葉の美しさを、椎茸栽培を営むメンバーであれば倒木に生えたキノコの特徴を、祖母山の登山道整備に日頃から関わっているメンバーであれば自分が修繕した木道や丸太橋を。自分の好きな分野の話をしている時には、目が輝き、声にも自信が出て、素晴らしさが伝わってくる」とひげ隊長は語ります。

(左)豊かな広葉樹の森を歩くと、キノコをよく目にする。写真は偶然見つけた天然の椎茸。(右)桂太さんがリーダーを務めるMMS21が設置した丸太橋

とはいえ、全体としてはやはり初回相応の仕上がり。わずかに煌めく可能性は見出せたものの、第1回講習は参加者各人が悔しさを滲ませつつ幕を閉じたのです。

フィールドワーク終了後には反省会。ひげ隊長からの叱咤激励に対し、悔しさを滲ませる参加者

【第2回講習】ひたすらに実践。3日間の模擬ツアー

第1回の講習から3週間後、2回目の講習は11月後半の金曜〜日曜にかけて3日間での開催です。内容は前回も歩いた神原登山口〜5合目小屋までのルートに加え、城下町の街歩きルートを使ったフィールドワーク。1人がインタープリター役となり、他メンバーが参加者役となって、1時間半〜2時間半の模擬ツアーを人数分繰り返します。

1回目の講習終了時に、ひげ隊長から自分なりのツアーを考えてくるように宿題を出されていた面々が練り上げた案を持って続々集合します。果たしてイメージ通りのツアーを行うことができるのでしょうか?

開始直前まで模擬ツアーの内容をチェック。1回目の講習時に配布したテキストブックにはメモがびっしりと書き込まれていた

模擬ツアーのトップバッターは、MMS21のメンバーでもあり、本業では保育園の事務職に従事する後藤こずえさん。祖母山の麓で生まれ育ち、今も実家が農林業を営む、生粋の祖母っ子です。

木々の葉の形や香りについて説明するこずえさん(写真左)

子どもの頃から祖母山を駆け回り、自然を相手に遊んできたからこそ語れる植物の魅力や自然の楽しみ方、両親から聞いた「山とともに生きる人々の営み」を核に、こずえさんはツアーを組み立ててきました。

特徴的だったのは、冬枯れしてしまった植物や、すでに原型をとどめていない炭窯跡などを分かりやすく説明するために直筆のイラストを用意してきた点。炭窯跡では、かつて作られた炭の破片を参加者と一緒に探すという工夫も加え、落ち葉に埋もれてなかなか見つからない炭を全員で探します。

(左)こずえさんの直筆イラスト。風化によって崩れてしまった炭窯の姿をわかりやすく説明している。(右)落ち葉に埋もれていた炭の破片。半世紀以上前に焼かれたものが、今も原型をとどめていることに驚き

子どもの頃の経験を活かした山遊びの要素も取り入れ、メンバーからも大盛況。前回の反省点がきちんと改善され、大きく躍進した内容になりました。

天然木のブランコにメンバーの顔にも笑みがこぼれる

こずえさんと同じく、祖母山を遊び場に育ったのは、竹田市街地で旅館『トラベルイン吉富』を営む井上徹郎さん。登山好きの父親の影響で、幼い頃から山を歩いていた徹郎さんは、今もひと月に1回程度、宿のお客さんを連れて登山ツアーを実施している現役の祖母山ガイド。旅館の事業の一環として、これからも登山ツアーを充実させていきたいとの思いから今回の講座に参加しました。

登山に関する知識が豊富な徹郎さん。案内中も随所に登山テクニックのレクチャーなどを入れ込み、学びの多い内容に仕上げています。祖母山の動物や伝説にも詳しいため、途中には、九州では絶滅したといわれるツキノワグマが今も祖母山に生息している可能性がある(目撃情報がある)ことや、祖母山に伝わる一角獣の伝説なども紹介。学びの多い内容に一同、メモを取る手にも力が入ります。

傾斜地では、負担の少ない歩き方などをわかりやすく説明。メンバーもすぐに実践します

他メンバーもこずえさんや徹郎さん同様、前回の反省点を活かして、登山道そばの渓流に生息するアマゴをわかりやすく説明するためにiPadを活用したり、ツアー参加者の一体感を盛り上げるために記念撮影を行ったりと、様々な工夫を凝らします。

第2回の講習では、敢えて神原登山口〜5合目小屋ではないフィールドに挑戦するメンバーも出てきました。

前出の徹郎さんの奥さんで、旅館『トラベルイン吉富』の若女将、井上真由子さんです。ふたりが営む旅館は市街地の中心地に位置し、観光名所『岡城』へも歩いて行ける距離。周辺には、城下町の面影を今に残す美しい街並みが広がっており「旅館の地の利を活かして、街の歴史を伝えるツアーを作りたい」と、宿から岡城を目指す『岡城登城ツアー』を企画しました。

後方の参加者に声が届きにくいという前回の反省も活かして、ポータルブルスピーカーを用意し、衣装も若女将らしく和のいでたちと、事前の準備は万端。

真由子さんが、このツアーでスポットライトを当てたのは、岡藩(江戸期まで竹田市一帯を治めていた藩)の武士達の生活や、竹田市に伝わるキリスト教の歴史について。岡藩は、キリシタン禁教令が敷かれる中、藩をあげて信徒を匿っていたとも伝わる特徴ある藩です。そのため、かつてこの地に暮らした信徒達は、自主的に隠れていた他地域の『隠れキリシタン』とは違い『隠しキリシタン』とも称されています。今回のツアーでは、その痕跡を案内していこうというのです。

道中では、道沿いの石塔にひっそりと刻まれたキリスト教を表す文字や『中川クルス』とも称される岡藩の紋章についての紹介など、不思議な解説が続きます。

(左)石塔に刻まれた隠しキリシタンの痕跡を探す一行。(右)岡城藩主中川家紋章、通称『中川クルス』。一説には、イエズス会を表すIHSの文字が隠されているとも伝わる

岡城そばの広場では、温かいお茶と自家製の栗の渋皮煮まで用意。変化球の内容に若干の心配があったものの、高評価の模擬ツアーとなりました。

しかしながら第2回目の講習、すべてのメンバーが満足いく結果を出せたと言うわけではありません。第1回目の反省点を踏まえて大幅に内容を変更した結果、付け焼き刃の解説になってしまったメンバーや、内容を詰め込みすぎて大幅に時間をオーバーしてしまったメンバーもいて、ひげ隊長からの厳しい指摘が入る場面も。

また、評価が高かったメンバーについても、まだまだストーリーの磨き上げに改善の余地があり、もっと良くなるはずだとのコメントもありました。

模擬ツアー終了後には、前回同様、振り返りのミーティングを実施しましたが、第1回目と大きく違う点は、メンバー同士がお互いに活発な指摘・助言をしあう様子が見られるようになったこと。

解説の内容はもとより「後ろで靴紐を直している参加者がいる際には待ってあげた方が良いのでは?」「開始時に参加者の体調チェックをもっと丁寧に行った方が良いのでは?」といったホスピタリティーに関する意見も盛んに飛び交います。

「個人での成長には限界があるけど、お互いに磨き合えれば、どこまででも成長していける。遠慮なくダメ出しできる”信頼の輪”が生まれると、チームは大きく成長するんだよね」。メンバーのディスカッションを眺めていたひげ隊長は、満足げに語っていました。

【第3回講習】一般参加者を迎えたモニターツアーで合否を判定

そして迎えた第3回目の講習。12月も半ばを過ぎ、祖母山はすっかり冬景色です。今回の講習では、一般のモニター参加者を4〜6名迎え、各々がインタープリター養成講座の集大成としてツアーを実施します。もちろんツアー終了後には、モニター参加者からの評価も集める予定。その評価とひげ隊長の判断を総合し、インタープリター養成講座を卒業できるか否かが決定するのです。

当日はこの冬一番の冷え込み。登山道のあちこちに霜柱が立っていた

前回までの仲間内でのフィールドワークとは異なり、一般の方を対象としたツアーとあって、メンバーも緊張の面持ち。さらにこれが卒業試験ということもあって「胃が痛い」「不安すぎる…」といった声も聞こえてきます。

そんな緊張の中で先陣を切ったのは、豊後竹田駅そばで『たけた駅前ホステルcue』を営む堀場貴雄さん。アウトドアの経験も、自然に関する関心もバラバラのモニター参加者を満足させるツアーができるかどうか? 3ヶ月にわたる講習の真価が問われる最終試験がいよいよスタートしました。

貴雄さんが用意したツアーのコンセプトは「人と自然の共生」。祖母山に降り注いだ雨が豊かな土壌に濾過される仕組みや祖母山の動物の話、知っているようで知らない落葉樹・常緑樹・針葉樹の違いなどについて話しながら、順調に登山道を5合目小屋に向けて進みます。

貴雄さんの最大の強みは、宿のご主人らしい気配り。自然に関する解説を丁寧に行いながらも、参加者の歩くペースや体調、危険箇所の注意喚起などに対する細やかな心配りを忘れることなく、モニター参加者も安心して山を楽しむことができたようです。

休憩時にはお尻が冷えないようにベンチにアルミマットを敷く配慮も。宿のオーナーならではのホスピタリティー

中でもモニター参加者が注目した解説は、紅葉のメカニズムについて。「葉が赤くなる」というだけではなく、なぜ、木々は葉を赤くして毎年落葉するのか? また、落ち葉が積もった土壌が、山だけでなく川や海にとってもどれほど大切なものか? 山に留まらず、川や海にまで言及することで、山の自然と自分たちの生活がつながっているということを参加者に伝えることができていました。

貴雄さんと同じく、モニター参加者の高い評価を得たのは、祖母山麓で椎茸や米などの農業を営む渡辺智さん。前出の桂太さんやこずえさん、直人さんと同じくMMS21に所属していますが、自然を相手に仕事をしているため、その解説には自然の中で生活する知恵がふんだんに盛り込まれています。

例えば林業における間伐の話や昔の山仕事の様子、もちろん椎茸に代表されるキノコの話も織り交ぜながら、参加者をずっと魅了し続けていました。

斧を手にとって、昔の山仕事について解説する智さん。斧の左側面に入った3本の線は山の神に捧げるお神酒を、4本の線は太陽・土・水・空気を表しており、山への祈りが込められているのだと教えてくれた

さらに5合目小屋に立ち寄った際には、囲炉裏で杉の小枝を燃やし、短時間で参加者に暖をとってもらうという配慮も。手慣れた様子で火を起こすその所作は、まさに山男そのものです。

日頃の生活から得られる知恵と自信に裏打ちされたその案内は、モニター参加者はもとより、遠巻きに見学していた受講生をも魅了していました。

最後に智さんは「昔の生活は、今でいう循環型社会そのもの。現代社会では山と生活の間に距離ができてしまっていますが、今回のツアーを通して、山と人の生活は密接につながっているんだということを感じてもらえたら嬉しいです」と語って、2時間にわたるツアーを終えました。

竹田のアウトドアはこれからが面白い

全3回・8日間に渡って行われた今回の『竹田市 祖母山麓エリア再生プロジェクト』のインタープリター養成講座。途中の欠席などもあり、無事卒業できたのは、貴雄さんと智さんの2名。加えて桂太さんが、条件付きの卒業という結果に。

ツアーが終わり、辛口の意見と励ましの言葉を述べるモニター参加者

桂太さんを加えた残りのメンバーは、2022年春に追試を受ける予定です。今回卒業できなかったメンバーはさすがにショックを受けたようですが、その目に宿る情熱に翳りは見えません。

祖母山麓エリアの自然や文化をもっと多くの人々に知ってもらい、地域の活性化を図っていきたいという狙いから始まった今回の取り組み。将来的には、今回ご紹介したインタープリターたちがツアーを開催して、祖母山麓を訪れる人々にその魅力を伝えていく予定です。

地域に住む人々が、自然や文化の魅力を積極的に発信し、それらを守る担い手となる。そして、その活動が経済的な効果をも生み出し、地域の活性化につながっていく。祖母山麓で生まれた『自然とともに生きる人々の物語』は、まだ始まったばかりなのです。

全3回の講習を終えて、別件による欠席者を除いた受講生一同で記念撮影。

祖母山麓エリアのアウトドア・地域の情報はこちらから

この記事を読んで、祖母山の自然や文化に興味を持ったという方は、下記サイトをチェック。今回ご紹介したインタープリター養成講座の参加者が案内するツアーも今後、このサイトにて募集される予定です。

Toba Atsushi

YAMAP STAFF

Toba Atsushi

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YAMAP MAGAZINE 編集部メンバー。文系登山をこよなく愛しており、山の話をしていてもついつい歴史の話や神話の話にトリップしがち。登山・歴史神話・キャンプが主な守備範囲。