いくつかの山に登頂しているうちに、「次はテント泊で登ってみたいな」と感じることもあるでしょう。日本を代表するアルプス山域はもちろんのこと、テント泊でしか行くことのできない山やルートはいくつもあります。そこで、著名登山ガイドの上田洋平さんに監修いただき、テント初心者の方のために、テントの選び方や知っておきたいハウツーをご紹介します。
「山小屋泊・テント泊を楽しむコツとスキル|初心者のための基礎知識」記事一覧
2022.12.30
YAMAP MAGAZINE 編集部
「テント」とひとことで言っても、サイズや仕様など様々なタイプが存在します。ここでは、登山を目的とした、いわゆる「登山テント」にフォーカスして解説していきます。
登山テントには、概ね以下のような特徴があります。
1)悪天候から身を守る「防水・透湿生地」を使用している
2)嵐や突風にも耐えられる「強度」を備えている
3)バックパックで背負って登れる「軽量性」がある
4)山での行動や宿泊を想定した「便利な機能」を設けている
当然のことながら雨が降ったときにテント内が濡れてしまわないよう、防水加工が施された生地を使っているものが基本。
そして、ほとんどの登山テントに使用されている生地は「透湿性」も兼ね備えているのもポイント。
テントのなかにいると呼吸や汗などの水分がテントの内側で結露してしまい、「濡れ」の原因になってしまいます。登山用のレインウェアと同じように、透湿性があることでテント内の快適性を高める工夫が施されています。
山でのテント泊における最大の敵は「風」。嵐に見舞われたり、突風が吹いたときに大きく揺さぶられたり、最悪の場合はポールが折れて倒壊したりというリスクに対応したモデルを選ぶことが大切です。
具体的には、強度の高いポール設計やテントを設営する際に固定するガイライン(細いロープ)の有無、風を受けにくいデザインを採用しているなど、山の環境に対応できる仕様を備えていることが大切です。
軽量化は登山テントが開発されてからずっと追求されてきた課題のひとつ。山行時はバックパックの中に収めて担がなければいけないアイテムということもあり、軽いに越したことはありません。
近年は1人用の登山テントであれば1kg前後まで軽量化が進んでいます。
設営時やテント内での行動時に活躍する機能。たとえば、設営時間を短くするためにポールの組み立てが素早くできるような仕様や、室内の快適性を高めるためにベンチレーション(通気穴)が設けられているなど。
山岳テントと言っても、高所登山用のものやスピードハイク用のもの、軽量性(ウルトラライト)を重視したものなどのバリエーションがあり、それぞれの目的に合わせた機能がプラスされています。
キャンプ場などでは重い荷物をバックパックで運ぶ必要もなく、車などで移動できるため軽量性はあまり考えられていないものが多いです。広々とした快適な居住空間やデザインを優先していることもあり、登山用として代用するのは難しいでしょう。登山には、やはり登山用のテントを選ぶ必要があります。
近年はウルトラライトシーンの定着やガレージメーカーの登場などもあり、登山テントのバリエーションが増えました。
ゆえに「どれを選んだらいいのかわからない!」と悩んでしまうこともあるでしょう。ここでは、主要なタイプを中心に解説していきたいと思います。
まず、山岳テントを理解する上で知っておきたいのが「自立式」と「非自立式」、そして「ダブルウォール」と「シングルウォール」です。「自立式 × ダブルウォール」や、「非自立式 × シングルウォール」といったように、ほとんどのテントはこの組み合わせでできています。
ポールを組み込んだときにテントの形状が維持されるもの。多くの方が思い浮かべるであろうテントの形状のもので、ポールを組んで立ち上げて、固定するペグを打ち込めば設営が完了します。
設営が簡単で強度が高く、日本の山岳環境への対応度も高く、テント泊登山では最もオーソドックスなタイプです。テントを張るのにいい場所があいたりした際、すぐに移動できるメリットもあります。
ポールを組み込んだだけではテントが立ち上がらず、本体に設けられたガイライン(細いロープ)をペグで地面に固定することで設営するもの。
設営に多少テクニックが必要ですが、ポールが少ない分、軽量性を高めているのが魅力。ガイラインでの固定に頼るため、岩の多いテント場などでは設営に苦労することもあり、張る場所を選ぶテントでもあります。一度固定したら、移動がしにくいデメリットも。
居住空間となるインナーテントと、防水透湿機能のあるフライシートに分かれているもの。2層構造になるため結露がしにくく、また結露に直接触れにくいというメリットがあります。
防水透湿生地を使用したもので、ダブルウォールに比べると快適性に劣るものの(透湿素材をつかっていても結露しやすかったり、大雨に弱いなど)、軽量性に特化しているのが魅力です。構造がシンプルなので、早く設営できるのもメリットでしょう。
テントの使用や仕組みについて理解したところで、「自分にぴったりのテント選び」についてお届けしていきたいと思います。これからテント泊をはじめたいという方のなかでも、多くが当てはまりそうな3つのスタイルをご紹介します。
1)3シーズンのアルプス登山・縦走登山
2)低山や樹林帯でのんびりハイク
3)軽量性を追求したULスタイル
日本の山域のほぼ全てに対応できるのが、「自立式 × ダブルウォール」のもの。日本のテントメーカーもこのタイプの開発に力を入れており、雨が多く変わりやすい天気、高山ならではの風や寒さにも対応できる仕様を採用しているものがほとんど。
まずはこの「自立式 × ダブルウォール」を選んでおけば安心といっても過言ではないでしょう。近年は1kg前後の軽量なモデルも揃っており、携行時の負荷もそれほど気になりません。
標高の高いアルプスよりも、2,000mまでの山でかつ樹林帯でのテント泊をしたい方には「自立式 × ダブルウォール」、もしくは「非自立式 × ダブルウォール」がおすすめ。3,000m近い標高かつ森林限界を歩くアルプス登山よりも天候リスクへの対応の必要が下がるため、テント選びの自由度が高くなるのが魅力です。
装備を軽量にすることで、より遠くへ、長く歩くことを目的にしたULスタイルの場合は、「非自立式 × シングルウォール」がおすすめ。設営にテクニックが求められますがそのプロセス自体も楽しめるのであれば、もっとも軽量なタイプということもあり、実際に選んでいるハイカーも多く存在します。アウトドアギアはガレージブランドのものが好きで、テントの見た目にもこだわりたいという方にも最適です。
さまざまなタイプのテントを紹介してきましたが、初心者におすすめなのは、上記3つのタイプのうち「自立式 × ダブルウォール」のもの。日本のほとんどの山域でのテント泊に対応できることと、日本メーカーのものであれば日本の山岳環境に合わせた仕様となっているため、「安心」で「快適」なテント泊が可能です。
雨天時にも出入りしやすいように前室と呼ばれるスペースが設けられていたり、強風に耐えられるようにガイラインが各所に配置されていたりするなど、実際に山で活躍する機能が十分に盛り込まれています。
ULスタイルのテント(タープやシングルポールの非自立式シェルター)だけでは、使用シーンが限定され行くことのできる山が少なくなってしまうこともあり、まずは汎用性の高い「自立式 × ダブルウォール」をひとつ持っているといいでしょう。
続いて、テント本体以外で、設営に必要な道具を紹介しましょう。
1)テントを固定する「ペグ」
2)テント底面を雨や石から守る「グランドシート」
3)安定性を高める「ガイライン」
テントを地面に固定するペグ。テント本体とガイラインに設けられたループに通し、地面に打ち込むことで風に飛ばされたりするリスクを軽減するアイテムです。
非自立式に関しては、ペグがなければ設営できないため、忘れずに携行しましょう。基本的にテントに同梱されているものですが、紛失や打ち込む際に破損させてしまうこともあるため、数本を予備で持っていると安心です。
テント本体の下に敷く強度の高いシートで、防水性のある素材でできていることがほとんど。整地されたテント場であっても小石や砂などがあり、テント本体を痛めてしまうリスクがあります。
そこで強度のあるグラウンドシートを敷くことでテントの寿命を高めることが可能になります。また防水性があるものであれば雨天時に下からの浸水を防ぐこともできます。オプションアイテムに設定されていることが多く、購入時に適応する専用のものを選ぶといいでしょう。
テントのフライシーもしくはポールに直結した細いロープのことで、地面にペグダウンすることで強風が吹いたときにテントの歪みを抑えたり、飛ばされたりするリスクから守ってくれます。テントに付属しているものもありますが、テント本体にはガイラインをとりつけるループだけが設けられているモデルもあるため、ない場合は追加で購入しておくと安心です。
はじめてのテント泊を考えた場合、基本的には「自立式 × ダブルウォール」のテントを選べば日本の山の登山はほぼOK。実際に各地のテント場で見かけるのもほとんどがこのタイプです。
そのなかでも居住性に優れたもの、設営がしやすいもの、デザインをこだわっているものなど、バリエーションがたくさんあります。まずは、こちらのタイプで探してみるといいでしょう。
1979年2月10日生まれ。愛知県名古屋市出身、神奈川県藤沢市在住。2児の息子の父。
日本の山々だけでなく、海外の山々(アフリカ最高峰キリマンジャロ、南米最高峰アコンカグア)への登山経験を経て、2017年から富士山の登山ガイド。
2019年4月に日本山岳ガイド協会登山ガイドステージI資格、2022年4月に登山ガイドステージII資格を取得し、専業ガイドに。
山岳写真を撮るため、フルサイズ一眼レフ、ジッツォの三脚、雲台、標準ズームレンズ、望遠ズームレンズを担いだ登山も敢行。キャンプ、空手、筋トレ、旅行、読書、トレイルランニング、ギター、ゲームなど趣味多数。