生まれ育った九州の風景を撮り続けたい|YAMAPフォトコン2022大賞:森光秀さん

YAMAPフォトコンテスト2022で大賞(優秀賞)を受賞した森光秀さん(福岡在住)。九州の雄大な自然を切り取ろうと風景写真を撮りはじめ、2017年に登山と出会い、大賞を受賞するほどの腕前になった理由や、厳寒期のくじゅう連山で「悪戦苦闘した」という受賞作の撮影エピソードを語っていただきました。

2023.04.15

吉玉サキ

ライター・エッセイスト

INDEX

ハプニングにめげずに撮影した10分の奇跡

カメラを構える森さん

―大分の天狗ヶ城(1,780m)で撮った「虚無の刹那に見えた光耀」の作品が、優秀賞を受賞しました。厳寒期の撮影で、いろいろ苦労したそうですね。

森光秀さん(以下、森):この写真は12月中旬に撮影しました。夜明け前から天狗ヶ城の山頂で待っていたんですけど、一面ガスに包まれていて何も見えなかったんです。気温はマイナス15度で、さらに強い風。

とりあえず、夜明けまであったかい格好で粘ってみようと。心を虚無にして待っていると、ガスが抜けて、急に晴れてきたんです。

視界が開けて、目の前に山肌がすべて凍りついた神秘的な光景がブワ―っと広がって……。僕は「ヤバい」が口癖なんですけど、あのときは思わず「ヤバい!ヤバい!ヤバい!」と連呼しながらカメラを構えました。

だけど、三脚の伸縮する部分が凍りついてしまって動かせず、かなり焦りました。力づくで回し、へばりついた氷を無理やり剥がしてなんとか伸ばせたんですけど。そんなバタバタの中で撮れた1枚がこれです。

優秀賞受賞作の「虚無の刹那に見えた光耀」

無我夢中でシャッターを切っていたらすぐにガスに覆われたので、この景色は10分も見られませんでした。まさにシャッターチャンス。

私が通っているなかでも、間違いなく最上級のくじゅう連山の景色。しかも本当に短時間の光景だったので、なおさら貴重なものに思えました。

山で美しい写真を撮れるかどうかは、「その瞬間、その場所に居ることができるか」が左右するので、運の要素も大きいんですよ。僕も絶景を求めていろいろと下調べして撮影に行きますが、実際に行ってみないとわからない部分は大きいです。

―それだけ思い入れのある作品をありがとうございます。今回の作品には自信があったのでしょうか。

:YouTubeのライブ配信で発表する前には「入賞した」としか聞かされていなかったので、たくさん賞があるうちの1つだと思っていました。大賞の前に入賞作が発表されていって、それが終わってもまだ僕の名前が呼ばれていなくて、「あ、上位なんだ!」と気づいて。

思わず「上位確定や!」と叫んだら、隣にいた妻に「うるさい!」と言われました(笑)。でも、そのあと妻も「よかったねー!ようやく大賞が獲れたね!」と喜んでくれました。

登山との出会いは家族がきっかけ

―受賞作は、くじゅう連山に通いつめたベテランでないと撮影できない1枚のようにみえます。

:もともと妻の両親とお姉さんが登山をやっていて、2017年の元旦に誘われたのが最初の登山でした。ご来光を見るため、平尾台の貫山(標高711m)という低山に登ったんですけど、はじめての登山だったから息も切れ、体力的にかなりキツくて……。

登っている間はずっと「まだ山頂に着かないのかな~」と思っていました(笑)。たしかに朝の景色はすごくきれいだったんですけど、そのときはキツさのほうが勝ってしまいましたね。

―そこから登山を好きになった理由は何だったのでしょうか?

:貫山に行った翌年の夏、妻や娘と一緒に九重へキャンプに行ったのがきっかけでした。そのとき、ご来光を見るために星生山(ほっしょうざん、1,762m)に登ったんですね。そのとき、くじゅう連山の山々から登ってくる朝日に感動して、「山っていいな」と思いました。

―それがきっかけで山に登るように?

:夏のキャンプで山の魅力を知ったあと、秋になって、SNSでくじゅう連山の美しい紅葉の写真をたくさん見て、「自分もこの絶景を見たい、こんな景色を写真に納めたい!」と思いました。

それで、紅葉を撮るためにバスツアーで大船山(1,786m)に行ったんです。バスで登山口まで連れていってもらって、そこからは自由行動。帰りのバスが何本か用意されていて、好きな時間に戻ってくるようなツアーです。それが初めてのソロ登山ですね。

―はじめてのソロ登山はどうでしたか?

:片道1時間45分、標高差600mと、そんなにキツいコースじゃなかったんですけど、当時はまだ体力がなくて、下山のときにふくらはぎがつって大変な目にあいました。

心配してくれた通りすがりの登山者の方にこむらがえりに効く漢方薬をもらって、なんとか下山できました。そのときに、登山をする人の優しさを知りましたね。

―そのときはすでに写真を始めていたのでしょうか?

:写真を始めたのは登山より前で、10年くらい前から遊びでカメラをいじってはいました。でも、風景写真を本格的に撮りはじめたのは2018年。やっぱりSNSで素敵な写真を見て、自分も撮ってみたいと思ったのがきっかけです。

美しいと感じた瞬間の感動を伝えたい

―写真を始めてから、どのように上達していったのでしょうか。

:2020年2月に、九州で風景写真の活動をしている写真チーム「Team ASO」に加入したことで、より上達できました。写真が上手い人たちばかりなので、「自分ももっと上手くなりたい!」と刺激されるんですよね。チームの誰かに教わったわけじゃないんですけど、ネットなどで調べて、独学で構図や現像の勉強をしました。

―写真を撮る上で大切にしている価値観やテーマはありますか?

:自分が美しいと感じた瞬間の、その感動をそのまま切り取ることを心がけています。その光景は一瞬で消えてしまうものかもしれないので、撮り逃さないように、いつでもしっかりカメラを構えておくようにしています。

―山での構図は似てしまいがちですが、どのように決めるのでしょうか?

:いろいろと学んできたのですが、結局、自分は感覚で決めたほうがいいと思っていて、言葉で説明するのは難しいです。頭で考えるよりも、奥行きや前景と背景のバランスを目で見て 、位置を移動したり高さを変えてみたりして「これだ!」って構図を見つけています。

SNSのつながりがモチベーションのひとつ

―山と出会う前は、どのような写真を撮っていたのでしょうか?

:阿蘇やその周辺の雄大な景色を撮るのが好きで、よく撮っていました。僕は鹿児島生まれ、福岡育ちで、生まれてからずっと九州。だから故郷である九州の景色に愛着があるし、この良さを、もっとほかの地域の人にも知ってもらいたいと思っているんです。なのでTwitterやInstagramで作品の投稿を続けています。

―SNSでも積極的に投稿されているのですね。

:昨年はTwitterで出会った写真好きの方と、一緒に富山で撮影しました。立山連峰が望める雨晴海岸(あまはらしかいがん)や、合掌造りの集落が世界遺産に認定されている五箇山。日本有数の豪雪の中、山に囲まれた茅葺き屋根の集落は、「日本の原風景」って感じで、撮影しがいがありました。

―SNSでの投稿や交流が原動力にもなっているのですね。

:「自分が見られない景色を代わりに撮って見せてくれてありがとう」と言われたときは嬉しかったです。SNSだけが撮影のモチベーションではないですけど、お礼を言われるとやっぱりやりがいを感じますね。

―受賞作のほか、今まで撮った中で、もっとも感動したのはどのような景色でしょうか?

:阿蘇の山頂で撮った、雲海とご来光の景色です。大雲海が広がっていて、雲の上に根子岳(1,408m)という山が浮かんでいる景色。滅多に見られない景色なんで、見たときは本当に感動しました。

―朝の山が好きなんですね。

:暗い青の世界から光が差して、空や山々が赤く染まってくる瞬間が一番好きです。昼間にはない美しい山の表情が見られ、夜明けの光に世界の始まりを感じるからですかね。

―ご自身の作品に共通する「森さんらしさ」とはどのような点でしょうか。

:「鮮やかだけど、鮮やかすぎない美しい色味」でしょうか。現像はAdobeのLightroomを使っているんですが、色が濃くなりすぎないように気をつけていますね。鮮やかにはしたいんですけど、不自然にならないように、そのバランスを大切にしています。

―最後に、今後の目標を聞かせてください。

:今年6月に北九州でグループ展の予定があって、それが終わったら個展に向けて写真を撮りためていきたいです。個展は場所も日時も決まっていないんですけど、近い将来に開催したい気持ちがあります。

僕はやっぱり九州が好きなので、これからも九州の美しい風景をテーマに撮りつづけ、作品を通じて、九州の自然や暮らしの豊かさを発信し続けたいです。

今までもいろんなフォトコンテストで入選してきたんですけど、大賞をいただいたのは今回が初めて。すごく誇りに思うし、活動のモチベーションにもつながりました。次は最優秀賞を目指します!

森さんが北九州で6月25、26の両日に開催するグループ展「7人が魅る世界」

吉玉サキ

ライター・エッセイスト

吉玉サキ

ライター・エッセイスト

北アルプスの山小屋で10年間働いていたライター・エッセイスト。著書に『山小屋ガールの癒されない日々(平凡社)』がある。通勤以外の登山経験は少ない。