九州を代表する名峰「阿蘇」は、多くの登山者に愛され続けてきました。噴煙を上げる大迫力の火口や大観峰の絶景、阿蘇五岳…。その眺望は登山者のみならず観光客にも人気で、特にススキや草原が金色に輝く秋には大盛況を博します。
でも、実は阿蘇の魅力はそれだけではないのです。「代表的な景勝地はもとより、火山がつくり出した自然の多様性こそが阿蘇の本当の魅力」と語るのは、日本各地の山々で活動し、阿蘇にも足繁く通っている写真家の平野篤さん。
今回はそんな絶景の達人に、秋の阿蘇を余すところなく楽しむ方法を伺いました。知る人ぞ知る絶景から、下山後の温泉や美食まで。今まで知らなかった阿蘇の情報が満載です!
2024.11.01
米村 奈穂
フリーライター
教えてくれた人
平野篤(ひらの・あつし)さん
福岡県出身の写真家。九州を拠点に日本各地の山を歩き、デジタルカメラとフィルムカメラで撮影。写真展の開催や写真集の販売、額装写真の受注、アウトドア企業への写真提供、執筆、トークショーなど多岐に渡り活動。世界各国の旅とハイキングを写真で紹介するPhotography Community『humming magazine』のファウンダー。著書にフォトエッセイ集「STADE MAGAZINE Issue Two」、写真集「ENCOUNTER ONE」、写真集「ENCOUNTER TWO」などがある。
Website: https://linktr.ee/hummingmagazine
Instagram :@atsushi_mt.photo
*
今回は阿蘇とその周辺の山々から、秋におすすめの4座と山麓の温泉・美食スポットを平野さんに教えていただきました。
草紅葉、火口、大展望、輝くススキの風景など、どれも美しい宝石箱のような景色ばかり。紹介する4座は、現在開催中のバッジキャンペーンの対象にもなっていますので、ぜひ記事を参考に訪れてみてください!
それでは、さっそくご紹介していきましょう。
涌蓋山(わいたさん)
標高:1,499m
おすすめコース1:涌蓋山 往復コース(はげの湯) 【往復3:50】
おすすめコース2:涌蓋山 往復コース(ひぜん湯)【往復4:10】
はげの湯側の登山口までの所要時間(車):玖珠ICから0:40/熊本ICから1:50
ひぜん湯側の登山口までの所要時間(車):玖珠ICから0:35/熊本ICから1:30
平野篤さん(以下、平野):涌蓋山は熊本県小国町と大分県九重町の県境に位置し、その両方から登れる山です。そんなに危険な箇所もなく、子どもから年配の方まで軽快なハイキングを楽しめます。初心者の方にもおすすめです。6月はミヤマキリシマ、秋は草紅葉と、季節ごとの魅力もあります。あと、山頂から阿蘇とくじゅう連山の両方が見られるのは、熊本と大分の県境にそびえる涌蓋山の立地ならではの展望です。
平野:ひとつ目は、熊本県のはげの湯側からのコース、もうひとつは、大分県の筋湯温泉側から登るコースです。疥癬(ひぜん)湯コースとも呼ばれます。どちらの登山口でも、下山後すぐに温泉を楽しめるのが嬉しいポイント。秋は午後から夕方にかけての、柔らかい光の中の草紅葉がきれいですね。紅葉を見ながらその時間帯に下山するのが好きです。
平野:はげの湯登山口のそばには「はげの湯温泉共同浴場」があって、そこはなんと300円で入れます。地元に愛される懐かしい雰囲気が魅力です。もう少し広い湯船や蒸し風呂も楽しみたいという人には、「ゆけむり茶屋」がおすすめ。蒸し風呂は、いわゆるサウナですね。最近はサウナ好きの若者たちにも人気です。
面白いところでは、「旅館山翠」の仙人の湯という露天風呂。景色が素晴らしく、なんと500円で入れるんです。そして、今では珍しい混浴。混浴じゃないお風呂もありますが、このお風呂が一番見晴らしがいいんです。混浴はハードルが高く感じるかもしれませんが、水着で入れるので安心してください。
平野:「地熱珈琲」というコーヒー屋さんがおすすめです。温泉の地熱蒸気を利用してコーヒー豆を洗ったり蒸したりしていて、世界でも珍しい方法らしいです。コーヒーの他にも地熱卵や山菜おこわ、シイタケ肉まんを地熱で蒸して食べることができます。もっと多くの人に知って欲しい素敵なお店です。
涌蓋山の山麓には、言い出すときりがないくらい良いお店がたくさんあるんですが、カレーがおいしい「カフェ・ボンズ)」を今回はご紹介します。スパイスをふんだんに使いながらも辛すぎず、非常にバランスの取れた味わいで、カレー好きにはたまらない一品です。
カレーを食べるほどお腹は空いてないけど何か軽く口に入れたいという人には、「そらいろのたね」というパン屋さんがおすすめです。素朴な味のクリームパンがおいしくて、いつも狙って行くんですが、大好評らしく売り切れていることも多いんです。地熱珈琲でコーヒーを、そらいろのたねでクリームパンを買って、合わせて食べると最高だと思います。
中岳(なかだけ)
標高:1,506m
おすすめコース:砂千里登山口-中岳-高岳 往復コース【往復5:10】
砂千里登山口までの所要時間(車):熊本ICから1:00
Q . 中岳の魅力は?
平野:言わずと知れた阿蘇五岳のひとつ。五岳の中でも最も火口に接近できて、火口を間近に眺めながら登れるところが魅力です。ダイナミックな火山の地形が見られるので、風景写真を撮りたい人にはイチオシ!。
朝日の時間帯に砂千里登山口から登ると、真東に朝日を背負った根子岳が見えるんですが、これがすっごく美しい。 注意して欲しいのは、時間が早すぎてもダメだということ。朝日が出る前に中岳の山頂まで登りきってしまうと、朝日を背負った根子岳も見れないし、火口も影になってしまうんです。中岳に登る時は、山頂で朝日を見るというよりは、途中で根子岳の方角に朝日を見て、それからゆっくり楽しみながら、山頂を目指すようにしてください。そうすると、山頂に到着する頃に太陽がちょうどいい位置に来て、大迫力の火口が楽しめます。
平野:お伝えしたように、山頂に朝早くに行きすぎてしまうと火口が日陰になってしまいあまりきれいに撮れないんです。中岳から見る火口は朝日と逆側になるので、火口が中岳に隠れて真っ暗になってしまいます。日が上に昇った時間帯の方が火口がきれいに見えるんです。
多分、写真家の人は、通常の登山者よりもすごく光の向きを考えていると思います。太陽がどちらから登ってどちらに影ができるか。登る前も想像するし、過去に登った山の情報もインプットしているんです。朝日はここで見た方がいいなとか、こっちは夕方頃がきれいだろうなということを考えながら登っています。いつも山で風景写真を撮っている人に聞いてみるのもいいかもしれませんね。
平野:代表的なのは砂千里から登るルートです。もう一つは逆側の通称「バカ尾根」と呼ばれるルートです。最初は登りやすい砂千里から登るのがおすすめです。山頂付近も火口の眺めが楽しめますが、砂千里のあたりの地形も面白いです。この辺りはよく、火星に来たようだという言い方をされたりしますが、まるで地球の原初の風景のようです。
火山活動によって、今までの砂千里のルートとは少し変わって迂回ルートが整備されていますが、そちらの眺めもいいです。登る際は事前に阿蘇火山火口規制情報を確認して、通行できるルートを調べてから登るようにしてください。
平野:草千里ヶ浜に「草千里珈琲焙煎所」というお店ができたんです。コーヒーもおいしく、阿蘇五岳や草千里ヶ浜の絶景を楽しめるうえ、店内の雰囲気もおしゃれでとても素敵な場所です。実は、11月の半ばにここで写真展をする予定です。
食事をするなら、近くに「ドゥース ヌッカ」というレストランもありますよ。こちらもとてもおしゃれなお店であか牛のステーキやハンバーグが食べられます。阿蘇は、山もいいけど、山麓にはおしゃれなお店も多い。登山と観光のバランスがすごくいいんです。下山後に楽しむ時間もたっぷりとって、登山も観光も両方楽しみたいですね。
大矢岳(おおやだけ)
標高:1,220m
おすすめコース1:大矢岳 往復コース【往復1:00】
おすすめコース2:大矢岳-大矢野岳 往復コース【往復1:50】
地蔵峠登山口までの所要時間(車):熊本ICから0:40
平野:大矢岳は阿蘇外輪山の南に位置する山です。この山の魅力は、何と言っても目前に広がる阿蘇五岳の山容。阿蘇五岳は、外輪山の多くの場所から見ることができるんですが、大矢岳からの五岳は格別です。登山口から35分くらいで山頂にたどり着けるので、観光のついでにサクッと登りたい人にもオススメ。
標高も1,200m以上あって、見晴らしがいいんです。夏から秋にかけては、コオニユリやマツムシソウ、ヒゴタイなどの花も楽しめます。
地蔵峠からのコースです。登山口から5分ほどで地蔵峠に出て、そこから30分くらい外輪山の稜線を進むと山頂です。登る途中はそこまで展望はないんですが、山頂に着くとパッとひらけて目の前に阿蘇五岳が見えます。歩き足りないと感じたら、さらに30分ほど進んで隣の大矢野岳を目指してみるのもおすすめです。
平野:あまり知られていないんですが、地蔵峠の展望岩という眺めのいい場所があるんです。地蔵峠から登山口へ下りて阿蘇方面へ進み、中松駅方面へ延びる細い道を入っていきます。
登山というよりハイキングという感じで、バイクがなんとか行けるような道が展望岩まで続いています。道の先に岩がポツンとあって見晴らしがよく、隠れ家的なスポットです。急登は登りたくないけど、阿蘇の草原を歩きたいという人は、ここまでハイキングに行ってもいいと思います。
平野:この辺りは、割と値段が高めだったり、立ち寄り湯は15時までしかやってなかったりするんですが、そんな中で「久木野温泉四季の森」は600円で21時まで開いてるんです。温泉迷子になったら、この辺だったらここですね。
平野:地蔵峠登山口から車で15分ほどの場所に、「グレーテルの森」というレストランがあって、そこのあか牛はおいしいです。ランチのコースもおいしいし、洋風のあか牛丼が食べられます。パフェやケーキセットもあります。下山後にすぐ肉が食べたい!っていう気分の時にはおすすめです。
女性に人気なのは、「ガレット」というカフェです。名前の通りガレット屋さんです。男性はなかなかガレットを食べる機会はないかもしれないですが(笑)、女性は大好きだったりするんです。内装もおしゃれで、女性と一緒だったら喜んでもらえると思いますよ。
俵山(たわらやま)
標高:1,095m
おすすめコース1:俵山 往復コース(俵山峠展望所)【往復3:20】
おすすめコース2:俵山 往復コース(萌の里)【往復5:20】
俵山登山口(俵山峠展望所側)までの所要時間(車):熊本ICから0:40
揺ヶ池登山口までの所要時間(車):熊本ICから0:30
平野:俵山は、大矢岳から西へ続く外輪山の山です。涌蓋山と同様に、初心者の方が安全に楽しく登れる山としておすすめ。初心者だからといって低山を選んでも、意外と急登があってきつかったり、その割に山頂までは展望がなかったりして、もう山登りはいいやってなってしまったりしますよね。でも、俵山は登り始めると早い段階からさえぎるものがなくなって、阿蘇の雄大な景色を見られるんです。毎年、野焼きをしてるので、見晴らしがいいのもポイントです。
秋は山全体がススキに覆われて、そこに光が当たるとキラキラ光ってきれいです。まるでラピュタの世界のような感じです。春と夏は、キスミレやリンドウなどの花も楽しめます。季節ごとに楽しめる山です。
平野:あえて逆光や斜めの光で撮るときれいです。寒い時期だと、朝はススキに霜がついて更にきれいですよ。それで面白い写真が撮れることもあります。
平野:コースはふたつあります。人気のコースは俵山峠展望所からのコースです。初めて登るなら、そこまできつくなく軽快に歩けるこのコースがいいのかなと思います。もうひとつは、逆側の俵山交流館萌の里側から登るコース。こちらはがっつり歩きたいという人におすすめです。
平野:先ほど紹介した四季の森も近いし、「小山旅館」の立ち寄り湯も500円で入れて素敵な温泉です。これで500円なの?という温泉です。最近はコロナの影響で立ち寄り湯をやめてしまったところも多いんです。そんな中、立ち寄り湯を続けてくれているのでぜひみんなに行って欲しいです。
平野:「310食堂」というお店がおすすめです。九州圏外から阿蘇に来た人はだいたい、「あか牛を食べたい!」ってなるんですよ。そうなったときに、ここはあか牛丼や牛カツなど、メニューの種類がたくさんあって値段もお手頃なんです。
バスクチーズケーキ専門店の「RICO」もとても美味しいです。少しお値段は張りますが、「世界で一番贅沢なチーズケーキ」という名前にふさわしい濃厚な味わいを楽しめます。バスクチーズケーキ一筋で勝負するという、個性溢れる挑戦を続けるお店なので、ぜひ応援したいですね。
平野:やっぱりあの火山地形ですよね。あれだけダイナミックな地形が間近で見られるというのはすごいことだと思います。
火口もですが、そこに向かう砂千里の景色も日本じゃないみたいだし、そんな草木も生えない風景があるかと思えば、草千里から烏帽子岳に登るときれいな草原が広がっている。
5月下旬になるとその景色がミヤマキリシマのピンク色に染まる。そういう多様性というのも阿蘇の魅力なのかなと思います。
ミヤマキリシマも火山地質の地形だから優先種で生き残って咲いている花ですよね。火山がつくる自然のさまざまな形を楽しめる山だと思います。そして、阿蘇の草原は人の手によって維持されています。そういう人と自然が共存しているところも魅力の一つですよね。
***
平野さんにお話を聞いていると、いろんな阿蘇を見てみたくなりました。そして阿蘇では、登山だけでなく、下山後を楽しむ時間もたっぷり必要なようです。デジタルバッジを集めながら、秋色に輝く阿蘇を歩いてみてください!
原稿:米村奈穂
協力:公益財団法人阿蘇地域振興デザインセンター