時代とともに技術・インフラ・道具などが進化を遂げ、登山のスタイルも進化と多様化が進みました。ここ数年の間に山でドローンを目にすることが増えたのも、登山スタイルの多様化の一つではないでしょうか。山とドローンは相性こそ抜群ですが、初心者がいきなり手を出すのはハードルが高いというのも事実。この記事では、YAMAPのコンテンツディレクターの﨑村が、ドローンの魅力や気をつけるべきルールなどについてお教えします。
2020.09.23
﨑村 昂立
YAMAP コンテンツディレクター
私は山の映像を撮ることが好きで、プライベートでも仕事でも、登山時には様々な機材を持っていきます。その中でもドローンは必需品です。私が思うドローンのいちばんの魅力は、普段の山行では絶対に見ることができない、映画のようなアングルの映像が撮れてしまうこと。人の目から見えるものだけが世界ではないということを改めて感じさせてくれるところです。
とはいえ「よし、じゃぁ私も始めよう!」とはいかないものですよね。この記事では「ドローンに興味がある」「ドローンをやりたいけど自分には難しそう」という方のために、DJIのMavic Air 2をモデルにしながら、山でのドローンの疑問や楽しみ方などについて書かせていただきます。
※この記事では、山での空撮を前提としたドローンに限定して話を進めていきます。山以外の場所での空撮は、航空法および自治体のルールを確認するようにしてください。
※ドローン空撮は定められたルールを必ず守って、楽しむようにしましょう。
※ドローンの安全飛行に関するリンク:https://www.dji.com/jp/flysafe
登山者にとって「軽さ」は正義。まず、ドローンを山に持っていくことが、どれくらい荷物を増やすのかという感覚をみなさんに掴んでもらおうと思います。
私がこの記事のために山へ持っていったDJIのMavic Air 2のセットがこちら。本体・送信機・バッテリー3本のセットです。(写真ではバッテリーが1つ機体にセットされています)
機体が570g、送信機が390g、バッテリーが1本200gほど。したがって、合計1560gほどです。ちょうどソロテント1つ分くらいですね。山の世界での1560gは「重い」と思う方もいるかと思いますが、逆にこれだけの重さで普通の視点では撮れない映像が撮れてしまうんです。(もっと軽いドローンももちろんありますが、山では急速に風が吹くこともあるので、ある程度の耐風性能が必要です。小さなドローンはその分風に弱いので注意が必要です)
ちなみに、Mavic Air 2の場合はバッテリー1つにつき30分近く飛行することができます。ですので、バッテリーの数は山行(撮影)に合わせて持って行く数を決めると良いです。
「ドローンを操縦するには、特殊な訓練や免許が必要なんでしょ?」と友人に聞かれたことがあります。確かに「ドローンの操縦」と聞くと難しそうですよね。ですが、2020年9月時点でドローンにおいて自動車のような免許は存在しません。つまり、ルールさえ守れば誰でもドローンを飛ばすこと自体は可能なんです。
では、実際ドローンの操縦はどんな感じなのでしょうか?
まず、ドローンの操作は写真のような送信機で行います。スマートフォンを装着し、専用のアプリを立ち上げ、ドローンの映像を確認しながら操縦できるタイプのものが多いです。
「レースゲームが苦手で、カーブの時に体ごと傾いてしまうんです」というような方は、これを見て逆に難しそうと思ったかもしれません。ですが、そういった方でも15分くらい操縦をしてみたら、基本的な操作はできるようになると思います。
それ以上に初心者が怖いのは「墜落してしまう」「帰ってこなくなる」というようなトラブルだと思いますが、ご安心ください。最近のドローンには、初心者にも安全の機能がついています。
例えば、GPS等のセンサー類と操縦をサポートする自律制御機能。これらの機能が安定した飛行を可能にします。ある程度の状況であれば、衝突の前に停止をするなどの危機回避も自動的に行ってくれます。Mavic Air 2の場合は、前・後に周囲の状況を把握するためのセンサーがついていますね。
離陸は平らな場所に機体を置いて、アプリに表示されるボタンを押すだけ。着陸も平らなところがあればスムーズに降りてくれます。送信機の信号が届かなくなった場合や電池が切れそうな場合なども、RTH(Return To Home)機能によって離陸地点まで戻ってきてくれます。(が、これは最終手段なので、こうならないようにしましょう)
ただ、それでも「自分の手が届かないところに高価なものがシュイーンと上がっていくことが不安」という方もいるかと思うので、そういった方は実際に飛ばす前にドローン経験のある人から教えてもらったり、ドローンスクールに行ってみることをおすすめします。また、ドローンのシミュレーターなどもあるので、家にいながら練習することも可能です。
*後でも触れますが、200g以上のドローンの場合は無許可での目視外の飛行(ドローンの機体が見えない状態での飛行)および夜間飛行は禁止されていますのでご注意ください。
ドローンは、人の目では絶対に見られない視点で映像を撮ることができます。頂上が木に囲まれて展望がないような山でも、空から見れば感動するような景色になることもしばしば。こういった思いもよらなかった絶景と出会えるのもドローンの良いところです。
下の動画はMavic Air 2で福岡県の平尾台を撮影したもの。平尾台は日本三大カルストの一つで、広大な草原と石灰岩の白い岩が特徴的なエリアです。普通に訪れてもとても素晴らしい景観なのですが、ドローンによってさらに雄大な風景を拝むことができました。
みなさんの中には「山と一緒に人を収めたい」という方もいるかと思います。先ほどドローンの操縦は簡単と言いましたが、人を画面の中に入れながら魅力的なショットを撮るのには経験が必要です。しかし、最新のドローンには動くものをトラッキングして自動追尾する機能や、特定のポイントを中心に自動で円を描く機能などが搭載されています。後ろから追う、並行に移動する、真上に移動する、回りながら遠ざかる、などなど動きにもバリエーションがあるため、例えば自分一人だけだとしても魅力的な人と山の映像を撮ることが可能です。実際、下の動画で私は送信機の操作をしておらずドローンが自分で判断して動いているんです。
画面上はこんな感じです。人を認識しているのが分かりますね。
もちろんドローンは写真撮影もできます。圧倒的な画角を実現するパノラマ撮影もばっちり。下に通常モードとパノラマモードで撮影したものを並べています。
お分かりかと思いますが、NGです。誰もいない山だからといって勝手にドローンを飛ばすと、法に触れたりトラブルになったりする可能性があります。こういった事態を避けるためにも、ドローンを飛ばすために必要な手続きや安全な飛行についてのルールなどはきちんと学びましょう。
山でドローン空撮をする際には大きく2つの申請・許可が必要です。
一つは、航空法で定められたルールとして必要な許可申請。飛行する場所や飛ばし方に応じて内容なども異なってくるので複雑な申請作業にはなります。正直ドローンの操作よりもこの申請で苦戦する方の方が多いとも思います。申請が必要な場合に関しては、国土交通省のこちらのページをご参考ください。申請自体は24時間365日、オンラインで申請が可能です。飛行可能エリアを示したフライトマップや航空法に関する解説記事などもたくさんあるので、そういったものを参考にしてみてください。
二つ目は、土地の所有者・管理者などへの届出です。こちらに関しては統一されたフォーマットなどはないため、個別に届出をするしかありません。多くの場所では「ドローンに関してはここに連絡」という情報がないので、私の場合はオンラインで調べてみて「ここかな?」と思う先に問い合わせをしています。森林管理局、ビジターセンター、自治体、神社など、問合せ先は場所によって様々です。少し面倒だと思うかもしれませんが、自分の土地で勝手にドローンを飛ばされたら嫌だと思いますよね?一つ目のルールに関しても、法律で決まっていることはもちろん安全と責任を担保するうえで必要な手続きなのです。
*山によっては一部分だけ私有地の場合もあるため、申請、確認時に離発着可能場所の確認をするようにしてください。
当然のことですが、離着陸は他の登山者の邪魔にならないよう広い場所で行いましょう。空撮をする際も、休憩スペースや山頂付近でくつろいでいる登山者の迷惑にならないようにしましょう。そもそも登山者が多い山や時間帯を避けることも大事です。また、山に暮らす動物を驚かせてしまわないような配慮も忘れずに。
山で撮られたドローンの映像は山の魅力をより多くの人に伝えることができます。であるからこそ、山にいる他の人たちの楽しみを奪うようなものであっては皮肉の産物になってしまいます。みんなが山を楽しめるよう、ルールやマナーを遵守して空撮を楽しみましょう!
YAMAPでは、9/30までYAMAP動画コンテスト2020を開催中。この大賞賞品にこの記事内でも使用しているドローン「Mavic Air 2」をご用意しました。山の映像ならどんなジャンルでも参加可能です。ぜひ、みなさんの山への思いとクリエイティビティを動画に込めてください。