アイゼンにはいろいろ種類がありますが、10本爪と12本爪、ワンタッチ式とセミワンタッチ式など、聞き慣れない言葉が飛び交って戸惑うばかりの人も多いはず。登山ガイドの石川高明さんによると、「はじめからすべてを把握するのは困難です。まずは基本情報を身につけて。その方が追加情報もすんなり入ってきますよ」とのこと。まずはアイゼンの種類を説明していただき、選ぶ上でのポイントや、装着時の注意点、使い方など、アイゼンの基本情報をまとめていただきました。
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2023.02.22
石川 高明
信州登山案内人・登山ガイド
アイゼンを爪の数に注目してみると、6〜8本爪の軽アイゼンと、10〜12本爪の一般的なアイゼンの2つに分けることができます。
軽アイゼンは、力がしっかりかかる足の裏、主に土踏まずのあたりに爪が集中しています。そもそも爪の数が少ないですし、爪先やかかと付近には爪がないので、本格的な雪山には向きません。夏山で雪渓を歩くときや、低山で雪が降ったときなど、雪が柔らかい&斜度が小さいという条件が揃ったときに使います。
10〜12本爪のアイゼンは、爪先からかかとまで、まんべんなく爪が並んでいます。よく見てみると、形や大きさ、向きが少しずつ違うのがわかるはず。それぞれをしっかり利かせることで滑りにくくなるので、すべての爪をきちんと雪に突き刺すことが大切です。
10〜12本爪には「前爪」があります。前爪とは足先に出ている爪のことで、雪の斜面に蹴り込んで使います。斜面が急で12本爪が必要な雪山に出かける際に、お客様から「10本爪ではダメですか?」と聞かれることがあります。なるべく荷物を軽くしたいから10本爪のアイゼンで済ませたいようですが、爪の数が少ない分、利きが緩くなるのであまりおすすめはしません。ただし、登山靴が小さいときは10本爪の方がきちんと装着できることもあります。
ちなみに、12本爪アイゼンには、前爪の形が2種類あります。前爪が地面に対して水平なもの(平爪)は、主に縦走用で、普通の雪山登山ならこちらで大丈夫です。もう1つは、前爪が地面に対して垂直なもの(縦爪)。こちらはクライミング用で、固い氷を砕きやすい形になっています。
10〜12本爪のアイゼンは装着方法がワンタッチ式、セミワンタッチ式、ベルト式と3種類あります。
「冬用の登山靴の知っておきたい機能と選び方|雪山登山の基本 #05」でも紹介しましたが、冬用の登山靴にはアイゼンを装着するための「コバ」があります。コバは、爪先とかかとの2箇所、ないしはかかとの1箇所にあります。
ワンタッチ式のアイゼンは、爪先とかかとの2箇所を金具で止める仕様になっています。セミワンタッチ式は、かかとの1箇所を金具で止め、爪先はベルトなどで固定します。ベルト式は爪先もかかともベルトで固定します。
ワンタッチ式が最もしっかりフィットすると言われていますが、それは靴との相性がよいときだけ。いちばん大事なのは靴とのフィット感で、装着方法は二の次です。
アイゼンと靴の相性で確認すべきは3点。
まず1つ目に、ソールとアイゼンの間に隙間がないか確認します。多少は仕方ないですが、ソールが浮いてしまい、アイゼンとの接地面が少ないときはNGです。
2つ目は、爪先とかかとがしっかりフィットしているか。爪先はソールが浮きやすいので要注意です。かかとは、アイゼンの方が大きくて左右にずれてしまうケースが多いです。
3つ目は、ソールとアイゼンの横幅がぴったり合っているか。アイゼンの方が大きいと、靴全体が左右にずれてしまいます。
この3点をクリアしておかないと、歩行中にアイゼンが外れることがあります。
アイゼンは靴との相性だけでなく、きちんと装着することも重要です。まず、靴の裏に雪がついているときは、しっかり落とすこと。当たり前のことですが、ソールとアイゼンをしっかり密着させるためです。
ベルトはしっかりテンションをかけながら巻いていきます。ベルトが途中でよれたり、ねじれたりすると、靴とベルトの間に隙間ができてしまうのでNGです。
また、ワンタッチ式やセミワンタッチ式は、かかとのコバを使って金具で止めると説明してきましたが、金具にはビンディングという調整機能付きの固定具がついています。ビンディングの調整が緩いと、簡単にアイゼンが外れてしまいます。ビンディングはきつめに調整し、「力を込めてやっとコバにはまる」ぐらいにしておきましょう。
初心者で装着間違え率ナンバー1なのが、ベルト式。ベルトを巻きつける手順があるのですが、途中で混乱するお客さまもよくいらっしゃいます。でも、手順通りにしっかり締めていかないと、きちんと固定できず、さらには緩みやすくなるので注意が必要です。装着方法を動画で解説していますので、参考にしてください。
アイゼンは足元が滑りそうなときに使います。たとえば、雪や氷が硬かったり、斜面が急だったりして、靴のソールではしっかり立てないようなときです。装着のタイミングは、森林限界以上がひとつの目安になります。森林限界以上は強風と低温で雪や氷が硬くなっていることが多いからです。
ただし、装着するかどうか迷ったら、迷わずアイゼンを装着してください。アイゼンを持っているのに、装着しないで滑落するのは最も避けたい事態だからです。
「雪山の基本的な歩行技術をマスターしよう!#06」で紹介したフラットフッティングは、アイゼン歩行の基本技術でもあります。足裏全体で雪面をしっかり捉えることで、足裏のすべての爪が雪面に刺さり、摩擦が大きくなって滑りにくくなります。登りも下りも同様で、足裏の爪が利いているか、感触を確かめながら歩きましょう。
※アイゼン歩行の際はストックやピッケルを合わせて使用するケースが多くあります。雪面や傾斜によって使う道具や持ち方なども変化させる必要があるため、更に詳しく学びたい方は講習などに参加すると良いでしょう。
斜度がきつくなってくると、フラットフッティングでは足首が曲がり過ぎてしまい、歩きにくくなります。そうしたときは、前爪で雪面を蹴り込み、足の置き場を作って歩きます。硬い雪のときは、爪先付近の爪をしっかり利かせて、かかとは浮かせた状態で立ちます。この技術は前爪を使っているので、フロントポイントと呼ばれています。
フロントポイントとフラットフッティングを合わせて使うこともあり、フロントポイントの足で足場をしっかり作っている間、フラットフッティングの足でバランスを取って姿勢を安定させます。
アイゼン歩行に慣れないうちは、爪の引っかけには要注意です。まさかと思うかもしれませんが、滑落の原因である「転ぶ」のは、自分で自分の足をひっかけてしまうことで起こるのです。普段夏山では自分の足で、もうかたっぽの足を擦っても転びませんが、冬山でアイゼンを履いた靴ではバンドにひっかかって、足が前に出ず転んでしまうのです。
みなさん気づかないのですが、普段の歩行ではあまり足を上げて歩いていません。本当はアイゼンの爪の分だけ足を高く上げなくてはならないのですが、その意識が持てずに、アイゼンを履いたとたんに、岩に爪を引っかけて転ぶ人がたくさんいます。
ですので、アイゼンを履いて歩くときには、足と足の間に拳ひとつ間を空ける意識を持ちましょう。歩行にはひとそれぞれ癖があって、つま先が近い内股歩行の人、つま先が開いたガニ股歩行の人(これは逆にいうと、踵が近くなっているので、踵側のバンドを引っ掛ける可能性があります)と様々です。できれば足を平行に出して歩くようにしましょう。
実践に関しても、まずはフラットフッティングとストックで歩けるような初級コースから。中級・上級クラスは、難しい歩行技術を伴うがゆえにレベルが高くなります。一足飛びではなく、徐々にステップアップしていきましょう。
写真/宇佐美博之(提供写真、活動日記以外)
1点1点をとことん吟味し、商品ラインナップに加えているYAMAP STORE。冬山装備や道具も揃えられます。今回の記事で役割や使い方について紹介したアイゼンを含めて、雪山へのチャレンジを本格的に検討している方は、一度覗いてみてはいかがでしょうか。
クライミングやアルパイン向けのギアの老舗のひとつ、ペツル。本格的な雪山登山に挑むなら、信頼のおけるギアを選びたいもの。はじめての雪山登山はもちろんのこと、レベルアップを狙っている方にも安心してオススメできるアイゼンです。また、フレームの改良により旧モデルよりも軽量化を実現。840gという軽量なモデルに仕上がっています。少しでも軽いモデルを選ぶことが、体力の温存、充実した山行に繋がります。
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