登山ガイドの石川高明さん曰く、「雪山こそ、基本の歩行技術が大事!」とのこと。初心者向けの雪山ツアーでも、まず始めにレクチャーするのが基本の歩行技術で、「転ばない」ように歩くことを目指してもらうのだそうです。今回は“アイゼンを装着しない状態”での基本的な歩行技術「フラットフッティング」を教えていただいたあと、歩行技術が雪山の難易度にどう関わっているのかも解説していただきました。
雪山初心者必見!登山ガイドが教える「雪山登山の基本」 #06/シリーズ一覧
2023.02.19
石川 高明
信州登山案内人・登山ガイド
雪山の歩行技術というと難しそうなイメージを持っている方も多いかもしれませんが、基本の歩行技術は夏山とほとんど変わりません。でも、きちんと歩けている方はとても少ない。雪山になったとたん、滑ることへの恐怖心や、足元の不安定さから、姿勢が崩れてしまい、間違った歩き方になってしまうんです。
雪山では「転ばない」ことが何より重要。まずは、登山靴だけで(アイゼンなしの状態)で歩いても転ばない基本の歩行技術を身につけて、安全に雪山を歩きましょう。
夏も冬も変わりませんが、転べばケガをしたり、滑落したりする可能性があります。特に雪山では一度転んでしまうと、雪や氷で滑って制動が難しくなります。初期制動や滑落停止など、危険を回避する技術はありますが、効果的に発動させるのは雪山上級者であっても至難の業です。
また、雪山は足元が滑りやすいため、へっぴり腰になったり、かかとから着地したり、間違った歩き方になりやすい。普段はしっかり歩けている人も、慣れない雪道では注意が必要なんです。
まず始めに身につけたいのが「フラットフッティング」という歩行技術。足裏を地面にしっかり押しつけて歩く方法です。雪道では、かかとや爪先など、足裏の1点で着地するのは御法度。1点に力が集中しているので、「ツルン!」と見事に滑ってしまいます。一方、フラットフッティングは足裏全面で摩擦を生み出すので、滑りにくく、歩行が安定します。
登りでは、斜面を少し蹴って足場を作ったあと、フラットフッティングでしっかりと踏みしめるようにします。下りでは、できるだけ足裏全面を使って、斜面を踏みしめます。ここで注意したいのが、かかとを使って蹴り込んでしまわないこと。かかと1点に力が集中するので、柔らかい雪のときは崩れやすく、硬い雪のときは滑りやすくなります。
また、雪山では、歩幅は小さめに、一歩ずつ丁寧に歩きます。一方の足を安定させてから、次の足を出すことを意識しましょう。
なお、アイゼンを履かない状態で斜面を登るにはキックステップという方法もあります。
それでは、ノーアイゼンの雪上歩行について動画で見てみましょう。
ところで、初級・中級・上級といった雪山登山の難易度は、歩行技術などによって決まると「雪山登山の基本#01」で解説しましたが、先に紹介した基本の歩行技術「フラットフッティング」は、初級の山でしか使えない技術なのでしょうか。答えは「NO!」。フラットフッティングは初級でも上級でも使う歩行技術です。
しかし、中級以上では、アイゼンを装着したフラットフッティングになります。つまり、雪山登山の難易度は歩行技術だけでなく、使う道具にも左右されるということ。目安としては、初級はストックと軽アイゼン(スノーシュー、わかん)で歩ける山、中級以上はストックまたはピッケルとアイゼンを使う山、という区分になります。
中級以降では、フラットフッティングにプラスして、フロントポイントという歩行技術を使うようになります。フロントポイントはアイゼンの前爪を使った歩き方で、アイゼンワークのひとつです。また、中級以降ではピッケルワークも重要で、ピッケルをバランス保持の杖として使うだけでなく、ピックを雪面に刺して手がかりにしたり、ブレードで雪を削って足場を作ったりと、難易度の高い山ほど、高度なピッケルワークが求められるようになります。
第7回と第8回では、アイゼンとピッケルの基本情報を解説する予定です。どちらも、初めて触る人向けの「基本的な使い方」も紹介しようと思っています。まずは初級の山で基本的な使い方を試してみて、装備の特徴や役割を体験することから始めましょう。
写真/宇佐美博之(提供写真以外)