新潟・坂戸山に年500回、南魚沼の街への愛着|YAMAP AWARDS エレベート・エクスプローラー受賞ヤマタさん

YAMAPをたくさん使っていただいたユーザーさんを表彰する「YAMAP AWARDS 2024」。累計標高を最も多く獲得したユーザーに贈られるElevate Explorer(エレベート・エクスプローラー)を受賞したのは、新潟県南魚沼市在住のヤマタさんでした。

出勤前、帰宅後、休日にはたまにお昼も近所の坂戸山(さかどやま、633m)に登り続け、2024年は坂戸山で数年振りの年間500回登頂者となったそうです。朝な夕な、美しい住む街を見下ろす日々を伺いました。

2025.05.11

米村 奈穂

フリーライター

INDEX

数十年振りの年間500回登頂者

──このたびは、Elevate Explorer の受賞おめでとうございます。

ヤマタさん(以下、ヤマタ):全く意識していなかったので、YAMAPのフォロワーの方からコメントが来て気づきました。実はそういう賞があることも知らなかったんです。意識もしてないのであまり実感はなかったです。

──何か目標があったわけではなく、日課をこなしていた結果なんですね。地元の坂戸山には年間500回登られたとか。

ヤマタ:目標達成というわけではないですが、生涯で坂戸山を1万回登れたらいいなとは思っていました。毎日登るようになって2年くらいで、登頂回数が1000回を超えたあたりからそう思うようになりました。

ヤマタさん(40代)。登山歴約9年の新潟県南魚沼市在住の会社員。仙丈ヶ岳(3,033m)にて

──本当に思わぬ受賞だったんですね。子どものころからご家族で坂戸山に登られてたそうですが、ご自宅からはどのくらいの場所にあるんですか?

ヤマタ:車で3〜4分です。雪がなければ、家からずっと川沿いを走れるランニングコースがあって、その途中に坂戸山があるんです。ランニングのついでに坂戸山に登って、またランニングコースに戻って15キロくらいです。ランニングと登山の両方がいっぺんにできるんです。

──登山歴は9年くらいとのことですが、山に登るようになったきっかけは?

ヤマタ:山は、子どもの頃から親と登るなどしていた遊び場でした。登山といえるような感じになったのは9年前くらいからです。遊びと気晴らしです。

──毎日登るようになったのは?

ヤマタ:3年前に転職をして、時間的に余裕が出来たので、散歩がてら登っていたら習慣になりました。時間がある時にちょこちょこ登っていたら、だんだん回数が増えていって毎日になっていました。

最初は休みの日だけだったんです。家から近くてちょっとした時間で登れるので、時間つぶしに登ったり、お昼を食べに登ったり、ランニングコースの途中に登ったりしています。朝登るじゃないですか、天気がいいと昼も登りたくなるんですよ。朝・昼・晩の3回登る日もあります。

2019.07.21 六万騎山(320m)山頂から坂戸山を望む

雲海と川霧に覆われる街

──山頂がランチスポットなんですね。もう、お庭のような感覚ですね。活動日記を拝見していると、坂戸山には常連さんがたくさんいらっしゃるようですが、南魚沼の人たちにとって坂戸山はどんな山ですか?

ヤマタ:トレーニングの場であり、散歩の場であり、ほんのちょっとした時間でもさっと登れる山です。トレランのレースに出る人たちも練習しています。地元の高校生も登りに来ています。

──定点観察のように山頂の同じ場所で写真を撮られているため、季節の移り変わりがよく分かります。意図的に同じ場所で撮っているんですか?

ヤマタ:よく野鳥観察もするんですが、鳥を観察する時ってわりと、定点観察をするんですね。その癖で、だいたい同じところで撮影するのかもしれません。定点観察をしていると、そこに住んでいる鳥のテリトリーや行動範囲がわかるんです。

──野鳥の写真もたくさん撮っていらっしゃいますね。写真はいつ頃から撮られているんですか?

ヤマタ:高校卒業してからずっとです。バイクでツーリングに行くので、元々は行った先で写真を撮っていたんです。11月の終わり頃に、初めて三条の川に行ったら白鳥がいて、それを撮ろうと思ってカメラにハマっていきました。

福島潟の白鳥

2018.11.16 坂戸山山頂にある 富士権現堂と北斗七星

──それで定点写真を撮る癖がついてるんですね。雪に埋もれた鳥居の高さが徐々に変わっていっていましたね。毎日登っている人ならではの写真だなと思いました。

ヤマタ:写真を見返すと、この年は雪がなかったなとか、いろいろ分かるんです。山に登ると、雲海や川霧とかも撮れます。

──雲海と川霧は、山の上から見るとどう違いますか?

ヤマタ:雲海は、下にある街を覆ってしまって、街が見えず、街の明かりだけがぼやっとした感じで映るんです。川霧はすごく薄いので、下の街が透けて見えます。

──雲海は街を覆ってしまうんですね。川霧の見える時季や条件はあるんですか?

ヤマタ:ここでは冷えた時季に見えます。夏場でも川の水面と気温に差があると見えますね。年間通してみると、朝と雨上がりが多いです。夏場は雨上がりに出ますね。

──なかなか山の上から見ることはないですよね。

ヤマタ:普通だと川霧は川の側で見ますよね。山の上から見ると、二度と同じ形はないのがよくわかります。空もそうですし、いろいろなものが二度と同じ形は見せないので見逃せないです。

坂戸山からの雲海。朝焼けの淡い赤色が雲海に映る

街明かりに人の動きを感じる逢魔ヶ時

──山から見下ろす景色で、どの時間帯が好きですか?

ヤマタ:夕暮れの逢魔ヶ時ですね。街明かりと空のグラデーションがきれいなところが好きです。夕日が沈んで1時間くらいすると空が青っぽく見えるんです。すると、まだ人が動いている時間帯の、街の明かりがつき始める瞬間の景色が見えるんです。

──街が昼から夜へ変わる瞬間ですね。

ヤマタ:朝は車の通りもないですし、暗くて静かなんです。夜は人が動いているので、いいですね。

──夜の方が暗いイメージですけど、静かなのは朝の方なんですね。ヤマタさんは人の動きを感じられる景色のほうが好きなんですね。それはどうしてでしょう。

ヤマタ:やっぱり明かりがきれいだからですね。田舎なんで街明かりは少ないんですけど、それでも山の上から見ると多いので。

2024.06.12 坂戸山山頂から見下ろす静かな朝

──山の上からこんなにきれいな街を見下ろしていたら、自然と自分の住む街に愛着が湧くのではと思いました。毎日自分の住む街を見下ろしていて、なにか変化に気づいたりしますか?

ヤマタ:最近、街頭や店の駐車場の明かりはLEDが主流で、街明かりがだいぶ白くなってきたんです。上から見ていると、前よりも色味が寂しくなってきた感じがします。昔はオレンジとかいろんな色があったんですけど、どんどん白っぽくなってきています。

──写真を撮る人の視点ですね。夜景の撮影にも影響しますか?

ヤマタ:そうですね。LEDの光は直進性が強いんです。普通の電球は結構、周囲を明るく照らすんですけど、LEDの光は真っ直ぐ進もうとするんですよ。

2025.01.27 坂戸山山頂から見下ろすLEDの夜景

──スポットライトのように照らすんですね。ロマンチックじゃないんですね。

ヤマタ:その光を上から見ると、地面だけを照らしているので暗く見えちゃうんですね。下から見るとすごく明るいんですけど、上から見下ろすと光が拡散していないんです。それで街がだんだん暗くなっていった感じがします。

──LEDになって街は明るくなっているけれど、夜景は暗くなってるんですね。夜景撮影からするとちょっと寂しいですね。

ヤマタ:彩りも少なくなって、ちょっと寂しい感じです。

──活動日記に「ナイターの明かりのオレンジ色が雲に反射する」と書いてあって、てっきり野球のナイターと思ったんですが、新潟なのでスキー場なんですね。

ヤマタ:そうなんです。山の上から見えるところで3箇所あります。すごく明るいんですよ。空にある雲まで照らしてるんですからね。

2024.02.24 燃えるようなスキー場のナイターの明かり

2024.07.19 坂戸山山頂から見下ろす花火

──南魚沼の自然の魅力を教えてください。

ヤマタ:西の方は柔らかい地質の丘陵地帯で、町を挟んで東は岩盤の岩山の山岳地帯で、別の地質をもつ山々があります。四季折々いつでも身近に自然を感じることができるのがいいですね。

──西と東でそんなに違うんですね。

ヤマタ:見た目も違うし、植生も全然違いますね。東の岩盤地帯の方が、松とかの針葉樹林が多いです。西の方の山には、魚沼スカイラインという車道があるんです。東は、八海山(1,778m)、中ノ岳(2,085m)、巻機山(まきはたやま、1,967m)です。西は桝形山(748m)で、いつも坂戸山から街を見ている対面にあります。

──山に囲まれていて、いろんな自然の遊び方ができますね。尾瀬もわりと近いですよね。

ヤマタ:尾瀬は、片品村までぐるっと遠回りしないといけないんです。地図で見るとすぐ裏なんですけど、遠いですね。

2023.01.29 坂戸山から霊峰・八海山を望む

2019.07.30 巻機山の北東にそびえる牛ヶ岳(1,961m)のお花畑

──やっとこの季節がやってきたと思うような、好きな季節はありますか?

ヤマタ:春ですね。やっぱり春が好きです。

──どういうところに春を感じられますか?

ヤマタ:夏鳥が渡って来る時ですね。長年ずっと目視で見ています。鳴き声を聞いただけでも、大体全部わかります。あとは春の花も楽しみです。スプリング・エフェメラル(※)ですね。

※ 「spring ephemeral」(=春の儚いもの)。早春に春の訪れを知らせ、夏以降は次の春まで休眠に入る、生育サイクルの短い草花に付けられた称号。「春の妖精」とも。

──坂戸山では最初に何が咲きますか?

ヤマタ:イワウチワですね。やっと春が来たかと思います。いや、一番最初はマンサクかもしれないですね。2月の下旬から3月くらいなので。まだ雪がある頃に咲きます。

2021.02.21 坂戸山で春一番に咲くマンサク

2024.05.03 坂戸山に夏鳥のキビタキがやってきた

続けるコツは頑張らないこと。

──ヤマタさんが活動日記に、「夕日を沈ませずに登る」と書いてあって面白いなと思いました。こちらが登っていけばなかなか沈まないってことですよね。どんな状況なんですか?

ヤマタ:日が沈むちょっと前に上り始めるんですけど、毎日なので普通のことです。

──沈む前に登ってやろうみたいな感じなんですね。どうですか?山の上から毎日見る夕日は。

ヤマタ:いいですよね夕日は。なんかこう、1日が終わるなって感じです。朝に1日の始まりを見ているので。

──始まりを見ているから余計、終わりを感じるのかもしれませんね。毎日見ているからこそ感じる微妙な変化などはありますか? 例えば風の変化とか。活動日記の中に南風や北風という言葉が出てきます。私は普段そんなに風の南北を意識していないので気になりました。やっぱり違いますか?

ヤマタ:全然違いますね。やっぱり雪国なんで、北風は冷たいです。冬が近づいてくると、山に登ってる最中に風向きが急に変わる時があるんです。それが北風です。そうすると、「ああ、雪がこれから降るな」と思います。

──北風は雪の前兆なんですね。南風が吹くとどんな感じですか?

ヤマタ:温度が違います。南風は暖かいので、もしかしたら夜に雲海が出るかな、などと感じます。台風が接近して南風が吹く時の、妙に空気が澄んで立体感のある空と朝の景色は好きです。

2024.05.16 田んぼに水が入り出す頃

──風は天気の変わり目なんですね。活動日記に「好転と悪天の狭間」というタイトルの日があって、この時のお話を聞きたいと思ったんですが覚えてらっしゃいますか?

ヤマタ:もしかしたら、急に天気が変わった日だったのかも。土砂降りになったとか。山の上にいると、ダーッと滝のようになっている雲が近づいてくるのが分かるんです。雨が落ちている様子が見えるんですが、山に雨は降ってないんです。

──雨が降る街を上から見下ろしてるみたいな感じなんですね。山の上でこんな写真を撮りたいとか、ベストな天候の条件はありますか?

ヤマタ:久しぶりに「ワー!」と思ったのは、アトラス彗星を撮れた時ですね。

──それは彗星を狙って登られたんですか?

ヤマタ:もちろん時間も見て、もう今日しかないと思って登りました。登山者はいましたけど、写真を撮ってる人はいませんでした。

2024.10.01 明け方の紫金山・アトラス彗星

──一人占めできたんですね。最後の質問です。何かを日課にするコツというか、続けるコツはありますか?

ヤマタ:絶対に頑張らないことです。嫌になったら帰ろうぐらい。いつ休んでもいいし、頑張る必要もない。「毎日登らなくてもいいや」ぐらいの気持ちで、絶対頑張らない。

──でも最初の1歩って難しいですよね。最初の1歩はどうしたら踏み出せるでしょう?

ヤマタ:それはもう、心に決めていくしかないですよね。「今日行こう」って決めるしかないです。

あとは、あんまり回数を気にしないことですね。どうしても登らなきゃいけないとか、絶対にこの回数を行かなきゃいけないと思ったことはないです。登れる時に登って、10月過ぎて寒くなり始めた頃に、もうちょっとで今年はこの回数行けそうだなぐらいの気持ちで、ちょっと頑張るんです。

──頑張らない。意識しない。それが安全登山にもつながるかもしれませんね。これからも頑張らずに登り続けてください!ありがとうございました。

ヤマタさんのアカウント
YAMAP:ヤマタ

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聞き手:米村奈穂

米村 奈穂

フリーライター

米村 奈穂

フリーライター

幼い頃より山岳部の顧問をしていた父親に連れられ山に入る。アウドドアーメーカー勤務や、九州・山口の山雑誌「季刊のぼろ」編集部を経て現職に。