宮崎県の椎葉村(しいばそん)は、熊本県と宮崎県の間に連なる山脈「九州脊梁(せきりょう)」に抱かれた山深い里です。YAMAPでは、去る2月の初旬、秘境椎葉村で新しい仕事のカタチ「ワーケーション」を実施してきました。もはや、仕事は場所を選ばないと言われる時代。果たしてそれは真実なのか!? 雄大な大自然の中でスタッフが身をもって体験した「椎葉村ワーケーション」の様子を今回はレポートします。
2020.03.04
YAMAP MAGAZINE 編集部
突然ですが、皆さんは「ワーケーション」という言葉をご存知でしょうか? 2000年以降、米国で生まれた言葉なのですが 「WORK(仕事)」 と「VACATION(余暇)」を合わせた造語で、観光地や海辺などの環境の良い場所に一時的に滞在し、そこでテレワークを行いつつ、余暇を楽しむ労働形態のことです。近年では、2017年にJALが働き方改革の一環として取り入れたことがニュースになりました。
聞くだけで楽しそう。都会の雑踏から抜け出して南の国へ…。昼間はどこまでも続く砂浜、青い海に包まれてクリエイティビティーあふれる仕事をする。そして夜は、ビーチサイドのバーで満点の星を眺めながらカクテルを傾ける。週末はダイビングをして、色とりどりの魚と戯れる。
フフ…。フフフフ…。
そんな想像を巡らせていると、なんと私たちYAMAPにも流行の最前線、ワーケーションのお誘いが来ました!
場所はどこ? 期待に胸が高鳴る中で聞こえてきた地名は、
…
……
宮崎県の奥地、九州脊梁の山々に抱かれた人口2,500人強の椎葉村。日本三大秘境のひとつにも数えられ、今も平家の落人伝説が伝わるちょっとミステリアスな村です。 日程は2月上旬の3泊4日とのこと。
秘境? 山奥? 村? ちょっと想像していたのと違います。でも、これはこれで面白そう。
YAMAPでは初の試みとなるワーケーション。参加者の座を巡って、社内では熾烈な争いが起こりましたが、その激戦を征し、6名のスタッフが今回のワーケーションに参加することになりました。参加者はいずれも30〜40代の男性。YAMAPアプリの開発に携わるエンジニアが3名とデザイナーが1名、セールス・企画1名とエディター(私)1名の編成です。
ワーケーションは個人単位で行うケースや複数名のグループで行うケースなど様々なパターンがあり、過ごし方も多様。滞在期間も短期の場合から、中には数週間に及ぶこともあるようです。今回のケースの場合、複数名でワーケーションを実施するのでいわば「グループワーケーション」ということになるかと思います。
滞在の予定は、2月5日(水)〜8日(土)。水曜日〜金曜日の半分を業務にあて、金曜日の残り半分と土曜日を休日にあてることにしました。とはいえ、始業前と終業後は自由! 平日でも各自たっぷりと椎葉を満喫するつもりで一路、九州自動車道を南に向かいます。滞在中のざっくりとした予定は以下です。
2月5日(水):(午前)移動 (午後)業務 (夜)村の方と懇親会
2月6日(木):(午前)業務 (午後)業務 (夜)自炊・村内探索
2月7日(金):(午前)観光 (午後)業務 (夜)自炊・懇親会
2月8日(土):(午前)登山 (午後)移動
初日は午前9時に福岡市内のオフィスを出発。「日本三大秘境」という先入観のため、かなりの移動時間を覚悟していたのですが、3時間弱であっさりと到着。意外と近いぞ! 日本三大秘境。
移動中の風景。途中で寄り道を挟みつつ、椎葉村に向かいます
椎葉村に到着し、まずは今回のワーケーションの取り組みについてお世話をしてくださる地域おこし協力隊の上野さんと落ち合います。上野さんは元々、東京の銀行で5年間お仕事をされ、その後椎葉村に移住されてきた方。村では、企業のサテライトオフィス誘致やワーケーション推進、農業による地域活性化に取り組んでいるそうです。
今回の我々のワーケーションも上野さんが手がける事業の一環です
上野さんと落ち合った後、我々は今回のワーケーションの舞台となる宿舎へと移動しましたが、なんとそこは国指定の「十根川伝統的建造物群保存地区」にある築100年以上の古民家! 昔ながらの囲炉裏や土間がある母屋と、建築家の方が入られて快適にリノベーションされたオフィス棟の2つからなる、何とも趣がある建物でした。
一同、この時点でテンションが上がります。
今回のワーケーションの舞台となる十根川集落には、椎葉村特有の横長の古民家「一列型平面形式民家」が並びます
玄関先には手作りの看板が。地元産の木材を使って手作りしてくれたそうです
今回の仕事の舞台となるオフィス棟
オフィス棟内はきれいにリノベーションされており、地元産の杉材のいい香りが。一同、さっそく仕事に着手します
母屋には囲炉裏や土間もありました。これは使えそう
気になる仕事の具合ですが、結論から言うと全く問題ありません!
オフィス棟には、光回線のWi-Fi環境もしっかり整備されており、web会議も快適。2月初旬の古民家ということで、かなりの寒さを覚悟していたのですが、日当たりの良い建物内には大きなストーブも用意されており、半袖で作業するメンバーもいたほどです。
Wi-Fiの電波が室外にも届いていたため、庭で東京支社のメンバーとweb meeting
また、環境が変われば考え方も変わるもの。仕事に行き詰まったら縁側に座り日向ぼっこをしながらアイデアを熟考する、といったことも可能です。私は仕事で文章を書くことが多いのですが、静かな自然に囲まれた環境の中での原稿作成はいたって快適でした。
母屋の縁側で日の光を浴びながら、デザインを検討中
しかも目を上げればそこには山々の絶景が。優しい緑が目の疲れも癒してくれます。
宿舎周辺はこんなに山深いのに、スマホの電波が問題なく届いていました ※電波強度は、キャリアによって差があるようです
そして、ワーケーションにおいて仕事と並んで重要なのは、余暇の使い方。休日はもとより、平日の業務を除いた16時間も自由時間です。睡眠時間で8時間を確保するとしても、残りはたっぷり8時間。始業前・昼休み・終業後には椎葉村しっかりと満喫しました。
初日夜には、平家落人伝説の舞台となった重要文化財の鶴富屋敷で催された村の方々との交流会にお招きいただきました。重要文化財の中で囲炉裏にあたりながら、現地の方々とお酒を飲む。プライスレスな体験です
朝は、十根川集落周辺をランニング。爽やかな山の空気を胸いっぱいに吸い込みます
お昼休みには、庭の木に張ったスラックライン(綱渡り)に挑戦
2日目の夜は焚き火などもしつつ、ゆっくりとした時間を過ごします
2日目、3日目の夜は自炊。地元産のヤマメを串に刺して囲炉裏で焼きます。網の上に載っているのは、こちらも地元産のイノシシ肉
夕食後はカードゲームで真剣勝負
今回、私たちは金曜日の半分と土曜日を休日に当て、椎葉村を楽しむことにしましたが、感想をひと言で表現すると濃密。秘境と呼ばれる宮崎の山あいにひっそりと、しかし色濃く残る椎葉特有の文化はいずれも貴重なものばかりでした。
特に金曜日に訪れた「椎葉民俗芸能博物館」では、千年を超えて受け継がれる伝統的な焼畑農業や神代の物語を今に伝える椎葉神楽、民俗学者柳田国男が惚れ込み、椎葉の伝統文化を記したとされる「後狩詞記(のちのかりのことばのき)」の資料などが展示されており、秘境に守り継がれてきた山村文化を深く知ることができました。
博物館内の展示に見入るメンバー。全5フロアには、椎葉の歴史・文化が網羅されています。歴史好きには堪らない場所です
そして、我々YAMAPとして、絶対に外してはならないのが山。土曜日には、椎葉村南西にそびえる標高1,435mの「馬口岳(ばくち岳)」に登り、3泊4日の日程のフィナーレを飾りました。
どこまでも続く美しい展望。目の前には九州脊梁の山山山
標高が上がるにつれて周囲は雪景色に。大人の雪遊びを満喫します
濃密で、クリエイティブで、笑いが絶えず、そして何よりもメンバーや椎葉の人々との絆がしっかりと深まった今回のワーケーション。その感想を端的にまとめるのは難しいのですが、それでも表現すると「心の底から、本当に楽しかった」。
日々会社でPCに向かい、身近なメンバーとばかり話しているとついつい気づかないうちに発想の幅も狭まりがち。そして、それが続くといつしか仕事も退屈なものに…。ワーケーションはそんな日常に一石を投じ、コミュニケーションや発想の幅を広げてくれるいい機会になると思います。そして、仕事の進み具合もいたって良好。
みんなで働き、みんなで食事を作り、みんなで遊ぶ。これって最強の組織づくりだと思いませんか? ぜひ、皆さんもワーケーションに挑戦して見てください。 特に複数名で実施するグループワーケーションがオススメですよ。
椎葉村では、地域活性化の取り組みの一つとして、今後もワーケーションを推進していくとのことです。村内には我々が滞在した場所の他にも、ワーケーションに使用できる拠点が複数あり、人数や仕事のスタイルによって調整してもらえるとのこと。
実際、YAMAPの他にも椎葉村でのワーケーションの様子や、村の様子にフォーカスしたレポートを公開している会社さんもちらほら。
・株式会社キャスターさんのレポートはこちらから
・株式会社カヤックLivingさんのレポートはこちらから
また、村の中心地には、スーパーマーケットやパン屋さん、食事処なども揃っており、日常生活に困ることもありません。
役場そばにある中園本店さんは、老舗のパン屋さん。店内には美味しそうなパンが並びます。朝食にぴったりです
また、ワーケーションに適したIT環境が揃った交流拠点施設「カテリエ」も今年の夏に完成予定とのこと。施設内には通常の執務スペースのほか、最新鋭のものづくり拠点として、レーザーカッターや3Dプリンタ、UVプリンタやデジタルミシンなどを揃えた「ものづくりラボ」も設置されるそうです。クリエイティブ系の業務も一段と可能性が広がりそうです。
美しい清流沿いに建設中の「カテリエ」完成予想図。図書館やイベントキッチンスペースなども設置予定
椎葉村でのワーケーションに興味をもたれた方は、まずは役場に相談してみることをオススメします。きっと、素敵なワーケーションが実現できるはずですよ。