近代登山発祥の地として、関西の登山者に広く愛されている六甲山。実は近年、六甲山でちょっと変わった取り組みが開催されているのをご存知でしょうか? その名は「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」。何やら六甲の自然美と現代アートが融合した素敵な取り組みなのだそうです。爽やかな秋風の中、散策しながらアートを楽しむ。今回は、そんな”Hike&Art”な山旅をご紹介します。
【後編】芸術に触れる山登り。”Hike&Art”で愉しむ「六甲ミーツ・アート芸術散歩2020」はこちら
2020.09.29
YAMAP MAGAZINE 編集部
「六甲ミーツ・アート 芸術散歩」とは、六甲山の山上施設で展開される現代アートの展覧会のこと。今年で11回目を迎えます。六甲山の自然、歴史、文化の特徴を取り入れた作品を展示することで、来場者に六甲山の魅力を再発見してもらうことが目的です。
アート好きな人は、自然を感じながら。観光や登山で訪れた人は美術館とはまた違った、開放的な山の中でアートを。この期間、山上が様々な人や文化の出会いの場となります。
大野光一《あなたを見つける、かなたが見つめる》/様々な仮面を被って生きなければならない現代。作者は、素顔こそが恐ろしく、また美しいと考える
期間中は、六甲山上施設の12会場で全44組の作品が展示されます。今年は有馬温泉や新神戸駅もサテライト会場として加わりました。
森の木々に触手を伸ばし増殖しているかのような作品や、静かな山荘風の建築物に投影される叙情的なアニメーション、森から抜け出した妖精のような彫刻など、それぞれの会場や自然の特質を取り入れた作品が並びます。
会場内に展示されている作品の一部。どれも表情豊かな意味深い作品ばかり。六甲の自然の中にたたずむ作品も多く、室内展示とはまた違ったアートの側面を楽しむことができる
会場全体MAPの詳細はこちら
その中でも今回は、特に2作品について、アーティストの方へのインタビューとともに紹介したいと思います。
六甲ガーデンテラスのショップ内に展示されていたのは、六甲山の風景や六甲の街角など100点を描いた田岡和也さんの作品《六甲景》。
登山道にある道標や山で遭遇したキジ、帰りに立ち寄った温泉や登山用品店など、山に登りながら目に入ったもの全てを描いたのではと思えるような絵が、壁一面に展示されています。山と街の両方が描かれているところが、自然と人の暮らしが近い六甲らしさを感じます。
折り紙と水性マーカーを繰り返し使用して層が重ねられて、描かれているものは自然やどこか懐かしい街角の風景なのに、作品はポップアートのように現代的です。
作者の田岡さんと展示作品。会場には「六甲景」の他、兵庫の日常風景100点を描いた《兵庫景》の一部も展示されている
六甲山で遭遇したキジ。好きな作品にいいねシールを貼り、「アナログいいね」で鑑賞者も参加できる
仕事の関係で福岡に単身赴任していた田岡さんは、そこで登山と出会います。初登山は福岡県の宝満山。それ以来、毎週のように山に登ってはひと山ごとに小冊子を作り、山で拾ったものや写真を貼ったり、スケッチしたりして、その数は2年間で50冊を超えるまでに。
単身赴任を終え、兵庫県に帰ってきた田岡さんは、地元をより魅力的に感じたそうです。それまでは、家から歩いて行ける高取山にも行ったことがなかったし、須磨アルプスも知らなかった田岡さん。
「色々なことが制限されますよね。山って。それが創作活動にも影響しているような気がします。前は油絵を描いていたけれど、今はもっと身近なもので、どこでも手に入るような道具で作品を作りたいと思うようになりました。トラックで搬入していた展示会も、今は山に登る感覚で、リュックサックに作品を詰めて電車に乗って会場に運んでいます」と語ります。
話を聞いていると、ふいに山に登りたくなったのでした。
会場には、田岡さんが山に登るたびに制作した山の小冊子がモビールのように吊るされ展示されている
もう一つの作品は、自然体感展望台 六甲枝垂れの中に展示されている上坂直さんの作品《六甲景鏡》。
展望所の窓際に配置されたドールハウスのような作品は、六甲山上にある施設の中から5ケ所の空間を選び、縮小し精巧に再現したもの。それらは、椅子が少しずれていたり、マスクが落ちていたり、どこかに人の気配を感じます。
「縮尺を加えることで、それぞれの経験や記憶に立ち戻る時間を作ることができ、人の気配を感じさせることで、単なるミニチュアではなく、現実を表現することができる」と上坂さんは語ります。
山荘の一室と思しきベッドの上に転がるマスクは、作品搬入時に現場で制作し追加したもの。「アートは時代を映すものでもあると思うので、コロナ感染拡大の状況も作品に取り込んでみたんです」と話す上坂さん。展望デッキを再現した作品の双眼鏡の横にはソーシャルディスタンスの貼り紙が。上坂さんは、今回の公募大賞グランプリを受賞しました。
山の展望所からは、パノラマに切り取られた六甲山の北側の景色が望める。上坂さんは、ここを訪れた時からこの場所に作品を展示したいと考えていたそうだ
展示会場内にはカフェやレストランが併設されている場所も多く、どこでランチにしようか悩むほど。神戸や大阪の街を見下ろせる店もあり、ちょっと早めの夕食をとれば夜景も楽しめるかも。テイクアウト可能な店舗もあるので、景色のいい場所を見つけて外でのランチもおすすめです。
グラニットカフェ
六甲ガーデンテラス内にあるグラニットカフェは、旬の食材を使った料理や手作りのデザートが自慢。展望抜群の店内では、神戸や大阪の街を眺めながら食事を楽しる。晴れていれば外のテラス席も利用可能。写真はグラニットランチ(メインディッシュ、スープ、サラダ、小鉢、ライス、プチデザート、ドリンク)¥1,870。営業時間11:00~21:00(ラストオーダー 平日:食事・喫茶共に20:00/土日祝:食事20:00、喫茶20:30) 。定休日は木曜日
多くの登山者に愛される六甲山を舞台に期間限定で開催される六甲ミーツ・アート。全44組のアーティストの共演により彩られた六甲山は、いつもと違った表情を見せてくれます。きっと登り慣れた風景とは一味違った、期間限定の六甲山に出会えるはずです。
後編では、六甲山の自然を楽しむハイキングと芸術作品の両方を楽しむコースプランをご紹介します。ぜひ、こちらもご覧ください!
TOP写真:林和音《アミツナグ》 六甲オルゴールミュージアムにて