「山に登るから仕事のバランスが取れる」ミュージシャン藤巻亮太が、多忙の合間に山へ向かい続ける理由

仕事以外に趣味を持ちたいけれど、なかなか踏み出せない。そう思う社会人は多そうだ。ミュージシャン・藤巻亮太は20代を音楽活動に費やし、30代からは大きなターニングポイントを迎えた。

2012年にバンドは活動休止、ソロ活動を始めることになったのだ。その大きな決断を下したきっかけが「登山」との出会いだった。それから約10年、30代は国内外問わずさまざまな山を登って過ごした。そんな藤巻に国内外で登った山々と趣味を持つ醍醐味について聞いた。

2020.12.04

YAMAP MAGAZINE 編集部

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緊急事態宣言明け、どうしても山に登りたくなった

──忙しい合間に山に登るのって大変ではないですか?

20代は本当に音楽一色でバンド活動に勤しんでいたのですが、30代からはソロで活動することになったので、少し落ち着いた……というか、仕事のやり方がわかってきたんです。オンとオフの切替えをして、時間を確保できるようになりました。

──山のときは山のことだけを考えて。

そうですね。登山を始めたきっかけは精神的なものが大きかったので、険しい山や厳しいルートに挑むというよりも、気分転換の方が近いです。自分のバランスを取るために登っていたので、負荷はそれほど大きくなかったと思います。それでも30代は、国内外問わずいろんな山に行ってましたね。

最近は、東北で一番高い山、燧ヶ岳(ひうちがたけ)に行ってきました。燧ヶ岳は尾瀬にあるのですが、尾瀬沼の紅葉が綺麗でした。尾瀬沼って湿地なんですよね。山間に湿地があること自体に感動しましたし、そこから燧ヶ岳を望むパノラマがすごく美しかった。

30代後半ぐらいからは、行ったことがある山に季節違いで登ることが多くなりました。よく行くのは、御坂山塊。僕にとって里山的な存在で、幼い頃に登ったのをうっすら覚えています。太宰治が小説を書いた宿が旧御坂峠にあるんですけど、そこからの富士山の眺望が素晴らしいんです。まずはそこに泊まり、それから黒岳に登り、少し下りて釈迦ヶ岳へ向かうルートがお気に入りです。

緊急事態宣言明けに、山に登りたい気持ちが高まって、すぐに行きました。

──縦走もよくされるんですか?

八ヶ岳は縦走しましたね。天狗岳、硫黄岳、横岳、赤岳……10時間ぐらい時間をかけたタフな行程でした。山頂付近だと、立体的に地形がわかるんですよね。群馬に山梨に……すごく世界が広いことを立体的に感じられる。

山の良さって、樹林帯と尾根に出た時の感動だと思っていて、景観がいきなり開ける……あれはものすごく気持ちがいいです。

雲海・朝日・キリマンジャロ

──藤巻さんはヒマラヤに行ったり、海外の山も登られてますよね。

タンザニアにあるメルー山は本当に感動しました。登りはじめは、雨が降るジャングルの中をひたすら歩く。カメレオンがいるような場所から標高が上がっていくと、一面の青空が広がるんです。そこからは高山植物が生えている土壌になり、やがて岩と雪の景色に変わっていく……。

夜中の12時に山頂付近のキャンプからアタックを開始したのですが、だんだんと夜が明けて、頂上につくと、一面雲海なんです。

──山の下の方がジャングルだから。

そうです。あの雨雲はこんな風に広がっているのか、と。地平線まで続く雲海に圧倒されました。さらに雲海の向こうに一個だけ見える山があって。アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロですね。メルー山からキリマンジャロまでは100〜200kmぐらいあるのですが、キリマンジャロの向こうから朝日が登る様子は、この世のものとは思えない絶景でした。

そのあと4000mぐらいのところまで降りて、キリマンジャロビールで乾杯しました(笑)。

カメラを山に持っていく意味

──藤巻さんは山の景色をすごく覚えていますね。

ギアに入るのか微妙ですが、カメラはいつも持っていってます。標高5000mあたりまで登ると、流石にしんどくて今すぐ手放したい気持ちにもなるのですが(笑)。

登山って無意識に下を見てしまうので、山の思い出が「足元の思い出」になりがちだと思うんです。でも、カメラを持っていると、景色を撮ろうと思うので目線が自然とあがる。それだけでも良いと思います。それに、山は、季節とか気候とか雲とか、その瞬間ごとで表情を変えますよね。今見ている山の姿は、その瞬間しか撮れない。そういうところも魅力だと感じます。

──どの機種を使っているのでしょうか。

ライカのM9を10年以上使ってます。レンズはズミルックス75ミリ。オーバースペックかなと思うのですが、知り合いのカメラマンにM9で撮影した写真を初めて見せてもらった時、衝撃を受けて、そのまま自分も同じものを揃えました。目で見たものと全然違うように見えるんですよ。人間の目の画角は50ミリと言われていますが、レンズだとやっぱり違うので。人間の目で見た世界がすべてじゃないと気付かされたカメラです。

──何かきっかけがあって、カメラを持ち歩くようになったんですか?

全都道府県ライブをやった時、せっかくなので現地で写真を撮影して、ライブの最後にその街景色を映そうという企画からハマり始めました。写真が楽しくなって、それに合わせて登山に夢中になっていった側面もあります。

──時を同じくして、音楽以外にやりたいことが出てきた。

そうですね。写真って正解がないんですよ。例えば登山写真で言うと、足元を撮っても山。山頂を撮っても山。「山とはかくあるべきだ」と決めつけているのは自分なんですよね。本当は、どんなものでもいいんです。

固定観念って、経験値とともについていくものだと思いますが、それに縛られる必要はないと思います。僕は独学で写真を楽しんでいるので、写真は自由に表現することを思い出させてくれた存在ですね。10年走り続けた音楽に対して、どこか閉塞感を覚えていた時に、開放感をくれました。

──仕事と違う趣味を持つ大切さ。

そうですね。山も写真も同じです。

僕にとって20代は、仕事を覚えたり、必死で仕事をしたりする時間でした。30代で出会った山とかカメラというツールを通すことで、自分の人生とか仕事を違った確度から捉える感覚をくれたような気がしています。

「無縄自縛」と「自縄自縛」という禅の言葉があるのですが、まさにこれが20代までの自分だと思います。

──順風満帆の活動の裏で。

ありがたいことにデビューしてから、勢いよく規模が大きくなっていったので。最初はただ音楽が好きという気持ちだけで、どこまでも走っていける気がしていたのですが、責任が生じることが増えていくにつれて、「存在しない縄」で自分を縛って苦しんでいました。でも、自分で自分を決めつけてしまうのって、裏を返せば、一生懸命生きてきた証だと思うんです。だからこそ、自分の中に縄ができてしまったものかもしれませんね。

山やカメラといった別のものに触れた30代で、自分の軸である音楽について自由に考えられるようになった気がします。「ああ、音楽性について自縄自縛になっていた」と気が付けるってことは、変えていけるわけですから。

お話を伺った人

藤巻亮太(ふじまき・りょうた)
独自の視点で日本の四季や風景から言葉を紡ぎ出す稀有なミュージシャン。
1980年生まれ。山梨県笛吹市出身。
2003年にレミオロメンの一員としてメジャーデビューし、「3月9日」「粉雪」など数々のヒット曲を世に送り出す。2012年、ソロ活動を開始。1stアルバム「オオカミ青年」を発表以降も、2ndアルバム「日日是好日」、3rdアルバム「北極星」、レミオロメン時代の曲をセルフカバーしたアルバム「RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010」をリリース。
2018年からは自身が主催する野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI」を地元・山梨で開催するなど精力的に活動を続けている。

【公演情報】
『THANK YOU LIVE 2021』
日時:2021年1月12日(火)、開場18:00/開演19:00
会場:東京都・中野サンプラザホール
出演:藤巻亮太(Gt.Vo.)
チケット料金:全席指定 3,900円(税込み)
お問い合わせ:サンライズプロモーション東京0570-00-3337(平日12:00-15:00)
Ryota Fujimaki『The Premium Concert ~Another Story~』
日時:2021年1月 16日(土)、開場15:00/開演16:00
会場:大阪府・サンケイホールブリーゼ
出演:藤巻亮太(Gt.Vo.)、桑原あい(Pf.)
チケット料金:全席指定 5,500円(税込み)
バルコニー席 5,500円(税込み) ※お席によっては演出やステージが見えにくい場合がございます。
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日・土曜 11:00-16:00)

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。

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