怪獣のプロ・ガイガン山崎さんに「山の怪獣をつくってもらう」本企画。「YAMAPユーザーにとって人気があり、面白い特徴や伝説がある各地の山」をモチーフに、新・山の怪獣を紹介していきます。四体目の怪獣は高尾山。高尾山といえば...アレですよね。どうやらヒーロー的な怪獣らしいです。一体どんな怪獣が登場するのでしょうか。
山の怪獣を本気でつくりたい #05/連載一覧はこちら
2020.12.16
ガイガン山崎
怪獣博士
とある企画で藝大の教授と対談させてもらったことがあり、そのときに興味深い話をうかがった。美術の世界では、最初は均整を保っていた表現が、徐々に過剰なものになっていく流れがあるらしい。これをバロック化と呼ぶ。また、そうして行き着くところまで行くと、今度は海外の影響なども受けつつ、再びシンプルな原点へと立ち返っていくのだという。しかし、これって何も彫刻や絵画に限った話でもないよなと。そう。怪獣も、バロック化と原点回帰を繰り返してきたのである。
怪獣の元祖といえば、1933年に公開された『キング・コング』だ。すべてはここから始まった。コングは巨大なゴリラのモンスターだが、1950年代にはタコ、アリ、バッタ、ネズミ、トカゲ、クモ、ヘビ、人間と、ありあらゆる動物が巨大モンスターと化して暴れまわった。怪獣王ゴジラも、その系譜に連なる存在だ。さしずめ巨大恐竜といったところか。一部例外はあるものの、ラドン、モスラといった後続の怪獣たちも同様だ。ところが、1966年に放映された『ウルトラQ』及び『ウルトラマン』から少々風向きが変わる。これらの美術監督を務めた成田亨は、自らが傾倒するシュルレアリスムの手法を用いて怪獣をデザインしていった。具体的には、実在の生物をただ巨大化させたようなデザインを禁じ手にして、コウモリの顔とヒトデ(ペスター)、人間の目と犬の鼻と魚の口(ガラモン)のように、突拍子もないもの同士を掛け合わせて、誰も見たことのない生き物を創造していったのである。さらに一見すると生き物にも見えない、オブジェのような怪獣(ブルトン、ガヴァドンA)も生み出している。海外のモンスターとは一線を画する、日本独自といえる怪獣の基本パターンが、ここに出揃った。
やがて1970年代に入ると、今度は既存の怪獣と怪獣を掛け合わせたり、そこにまた別の要素を組み込んだりとデザインが複雑化していく。そう、バロック化だ。世はまさに空前の怪獣ブームであり、『仮面ライダー』を始めとする等身大ヒーローものも含めると、週に15本以上の特撮番組が放映されていた時期もあった。もっとも1980年代以降は番組数も落ち着き、怪獣たちはシンプルな姿を取り戻すのだが、一方で海外のSFXブームの影響もあり、より生物的でリアルな造形・デザインが好まれるようになる。ざっくりまとめてしまうと、70年代の怪獣はシルエットがゴチャゴチャしていて、80年代以降の怪獣はディテールがゴチャゴチャしているというわけだ。そして我々のつくる怪獣は、どっちもゴチャゴチャしている。ツノもトゲも色数も多い。前回のフィンドラスに関しては、まだシンプルに収まったほうだが、今度の新怪獣は過剰の極み! 気がつけば、全身がトゲトゲトゲトゲしていた。その名も……。
古くから地球に住み着いている宇宙人。インド神話のガルーダ、仏教の迦楼羅天、そして天狗の伝説など、彼らと地球人の関わり合いを裏付ける物的証拠は数知れず。高尾山をはじめ、天狗を祀っている山々で目撃されることも少なくない。
鉱山事故を遠因とする放射能汚染で滅んだ故郷を捨て、豊富な栄養源である怪獣がたくさん生息する地球にやってきた一団の末裔といわれており、ひとたび怪獣が出現すれば、何処からか飛来して襲いかかる。まさに生粋の怪獣ハンターといえよう。
天狗といえば、様々な神通力に通じているとされるが、ガルラ星人の多くも岩石や自らの身体を浮かせる念動力、一瞬にして怪獣を炎に包む自然発火能力などを持つ。また、特筆すべきは鬼のような装飾を施された戦闘服で、かつて遠隔操作されていると思しき面具からの攻撃のみで、敵対勢力のイーバ星人を殲滅したこともある。
高度な知性を有する存在ゆえに、人類に友好的かどうかは各人各様といったところだが、崖から転落した登山家や遭難したキャンパーを助けた記録がいくつも残されており、一部には彼らを山の守り神として神聖視する声もある。
「この企画が立ち上がった時点で、高尾山は天狗の怪獣で決まりだろうと考えていたのですが、いざ山の伝説について調べてみると、大抵の山には天狗の逸話が残されているんですね。山といえば天狗と言ってもいいぐらい。だったらシリーズを象徴するような存在というか、ヒーロー的な立ち位置のキャラクターにするのも面白いかなと。実際、『ウルトラマン』の前身企画である『科学特捜隊ベムラー』に登場予定だった正義の怪獣ベムラーには、烏天狗のようなデザインが用意されていたのです。しかも天狗のルーツとされる迦楼羅天は、龍を常食にしているんだとか。映画『プレデター』の宇宙人じゃないですが、怪獣を喰うためにやってきたハンターということにすれば、ストレートな正義の味方にもならず、“山の怪獣”らしくなるんじゃないかなと思いました。ちなみに天狗は、そもそも凶事を知らせる流星という意味を持つ言葉だったようです。宇宙人のモチーフにはピッタリですね」(山崎)
「戦闘服に関しては、当初よりバズラコングの鬼面・般若面とテイストを合わせるように言われており、山伏の格好を仏像の鎧っぽくアレンジしてみました。胸の珠は、首から下げているポンポン(梵天)のつもりです。あと、自分としてはそんな思惑で描いてなかったんですが、主宰の山崎の目には鎧部分が鬼の顔に見えたらしく、両肩からツノにあたる大きなトゲを生やすよう指示されました。烏天狗が面をつけると大天狗になる=大きなクチバシが長い鼻に見えるギミックやカラーリングも含めて、今回はほぼ言われるがままにまとめた感じでしょうか。一方、戦闘服を脱いだスッピンに関しては、自分のほうで好き勝手に描いてまして、中米の幻の鳥ケツァールを参考にカラーリングを決めました。まあ、烏天狗からは遠くなってしまいましたが、他にもいろんな色のガルラ星人がいるんだと思います」(入山)
いかがだったろうか。これまでとは少し趣向を変えて、ヒーロー型の怪獣を提示してみた。フィンドラスにせよバズラコングにせよ、これまでつくってきた怪獣は、ガルラ星人に退治というか捕食されたというイメージだ。ひょっとすると仲間のためにザイルを切った勇気ある登山家なんかと一体化して、いろんな山に登っては怪獣たちと戦うのかも知れない。
さて、次回は原点に立ち戻り、山の伝説ではなく、山そのものをモチーフにした怪獣をつくってみたい。2週間後、またお会いしましょう。
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※表紙の画像背景はJさんの活動日記より