今度の休日は子どもと山に行こう|親子登山をもっと楽しくするコツを紹介

「親子いっしょの山登り」。それは子どもを持つ登山者にとっての憧れです。でも現実は、登りたくないとごねられたり、果ては山頂で親子喧嘩なんてことも…。そこで、親子登山をするにあたっての基本を紹介。事前の心構えから、現地での楽しみ方、特有の注意点まで、親子登山マスターたちが自身の経験も踏まえて解説してくれました。

2023.08.30

森山 憲一

山岳ライター/編集者

INDEX

「親子登山」は、すべての親にとっての未体験ゾーン

山好きの人が登山から離れるきっかけとしてよく言われる「山ヤの三大北壁」。それが「就職」「結婚」「出産」。社会状況の変化にともなって、この3つも昔ほど大きな障害にならなくなってきてはいますが、それでも、これまでの自分の山登りを考え直さなければいけなくなる出来事であることに変わりはありません。

なかでも、子どもの誕生は三大北壁のラスボス。乗り越えるのが最も困難な壁といわれています。子どもを家においていくわけにもいかないし、かといって、連れていくとなると、それまでのように自分の好きな山に好きなペースで登ることもできない。

その一方で、これまで山登りなどやったことがなかった人が、家族ができたことをきっかけに、家族みんなで登山をしてみたくなったというケースもあります。でも山登り自体をしたことがなければ、どこに行っていいのかすらわからない。

すなわち、小さな子どもをつれた「親子登山」は、登山経験の有無にかかわらず、すべての親にとって未体験ゾーン。そのわりに親子登山についての情報は多くなく、多くの人が手探りで自分たちなりの登り方を模索しているのが実情です。

でも今回、親子登山マスターたちが、そんな未体験ゾーンの「道先案内人」になってくれました。ではさっそく、具体的なノウハウを順番にご紹介していきましょう。

<教えてくれる親子登山マスターのみなさん>

長谷部雅一さん(イラスト中央)
アウトドアプロデューサー/ネイチャーインタープリター。さまざまなアウトドアイベントの運営・企画を手がける株式会社ビーコン代表。ザ・ノース・フェイスの親子登山イベントで講師役も務める。

川添奈緒美さん(イラスト右)
ザ・ノース・フェイス キッズネイチャースクール 九州エリア校長。親子でアウトドアに出かけるさまざまなイベントを企画・運営している。大分のザ・ノース・フェイス・プラス トキハわさだ店スタッフ。

矢野真知子さん(イラスト左)
ザ・ノース・フェイスで、キッズ用の商品企画を担当。小学1年生の双子のお子さんを持つ母親として、普段から自身が親子登山を楽しんでいる。

親子で山を登ることによって得られるものとは?

子ども連れで外に出かけるのは、ただでさえ普段より手がかかるもの。それでも、そこを乗り越えてこそ、他では得られない体験を得ることができます。長谷部さんはそのメリットについて、だいたい以下の5つに分類できると言います。

  1. 親として嬉しい
    親子登山をする場合は、親が山好きである場合がほとんどなので、山に行くことができて単純に嬉しい。さらに、自分が好きな場所で子どもが楽しんでくれると嬉しさが倍に感じられる。
  2. 親子の会話が増える
    家族といえど、一日中会話があるわけではないのが普通。ところが山では、長い時間をいっしょに行動して同じ体験をすることになるため、自然とコミュニケーションが密になる。
  3. 子どもの感受性が豊かになる
    日常生活では得られない刺激を受けることで、五感が開放され、喜怒哀楽を素直に表す状態になれる。
  4. 経験の共有
    山というひとつの課題をいっしょに乗り越え、体験を共有することで、親子間の関係性がよくなる。
  5. 単純に楽しい
    文字通り!

キッズネイチャースクールで実際に多くの親子と接している川添さんは、「親子の会話が増える」という点を強調します。

山に行くと、「親でも知らなかった子どもの一面を発見した」という声をよく聞くのだそうです。逆に「ふだんヘラヘラしているお父さんが頼もしかった」という子ども側の声もあるといいます。

「親子間だけでなく、人間関係全般にいい影響を感じている」というのが矢野さん。矢野さんのお子さんはどちらかというと引っ込み思案な性格だったそうですが、山に行ってすれ違う人と「こんにちは」と挨拶を交わしているうちに、他の人とも気負いなく接することができるようになったそうです。

<親子登山 Q&A.1>

Q.山は疲れるから行きたくないと子どもが言います。どうすれば行く気になってもらえるでしょうか?
A.そういうときは無理に行かなくていいと思います。あるいは、目的を山じゃなくて違うものに設定するのはひとつの手です。たとえば「花を見に行こう」とか「虫を探しに行こう」とか「川で遊ぼう」とか。「山でラーメンを食べよう」でもいいと思います。行く場所は山なんですけど、そこに行く目的を少しズラしてあげれば、子どもも興味を持ってくれるケースはよくありますよ。(長谷部さん)

親子登山をより楽しくするためのコツBest5

子どもから山に行きたい! と言い出すケースは少数派。多くは、親が行きたくて、それに子どもにもついてきてもらうという構図がほとんどです。

そのときに大切なのは、親のやりたいことばかりを押しつけないこと。同時に、子どもが楽しめること・興味を持ちそうなことを意識的に計画に組み込むこと。これがうまくできれば、「もう山なんか行かない!」と子どもが言いだすおそれは少なくなるはずです。

そのための具体的な方法を、再び長谷部さんに紹介してもらいましょう。

  1. 山登りを遊びの延長と考える
    コースタイムを意識して歩く必要はまったくなし。それよりも、道中で出会う風景や生き物に向かう興味を大切にして、「山を歩く」というよりも「山で遊ぶ」という心づもりで。
  2. 頂上をゴールにしない
    ゴールを設定してしまうと、そこに到達できそうにないときに、親がイライラしたり心の余裕がなくなったりしてしまう。いつでも引き返せるコースにして、頂上到達にこだわらないこと。
  3. 寄り道を楽しむ
    登山として効率のよいルートと、子どもにとって見どころが多いルートは同じではない。登山道から滝が見えるルートとか、川を渡るところがあるルートなど、変化に富んだコースを選び、場合によってはそこで時間をとるようにすると、子どもも楽しみやすい。
  4. 登山前と下山後も大切に
    出かける前に自宅で地図を見ながら作戦会議をすると、子どもも主体的に関わることができて興味を持ちやすい。下山後も、まっすぐ帰らず地元の食べ物屋さんに寄るなどの時間を持つと、家族のイベントとして思い出に残る旅になる。
  5. いつもの10倍笑顔で!
    親が不機嫌だったりイライラしていると、子どもは絶対に楽しめない。ふだんの10倍くらい笑顔を作るつもりで一日を過ごすと、きっと家族の楽しい一日になる!

大人の登山はどうしても頂上に到達することが唯一最大の目的となってしまいがちですが、子どもと行く場合は、むしろそこに至る過程をどれだけ楽しむことができるかがカギになるということです。

寄り道や変化に富んだコースの重要性は川添さんも口を揃えるところで、ロープウェイなどがある山は間違いなく子どもが喜ぶのでおすすめだといいます。また、キッズネイチャースクールでは、水鉄砲を持って歩いたこともあるとのこと。水鉄砲で撃ち合いをしながら歩くと退屈しないうえに熱中症対策にもなって一石二鳥だったそう。

<親子登山 Q&A.2>

Q.子どもが1歳半なのですが、この年齢でも行ける山はありますか?
A.その年齢で本格的な山にいきなり連れ出すのはリスクが大きいので、まずは近所の自然公園などに行ってみることをおすすめします。都市周辺でもトレイルがあるような公園ってけっこうあるんですよ。そういう場所に慣れてきたら、いわゆる里山のようなところに出かけるのもいいと思います。麓に田んぼがあって、1〜2時間で歩いてこられるような山がおすすめです。(長谷部さん)

これで安心! 親子登山の持ち物

親子登山とはいえそこは登山。身に付ける物はできれば登山用のものを用意したいところです。矢野さんによれば、特に重要になるのが、常に着ていることになるシャツとズボン、そして靴、レインウエアということです。

シャツを選ぶ際の注意点は速乾性。汗をかいたときにすぐに乾くことが必要で、ポリエステルなどの化繊のものがおすすめ。ズボンも化繊のものが理想で、さらにストレッチ性も重視したいところです。

靴はローカットとハイカット、どちらを選べばよいかよく迷うところ。まだ体重の軽い年齢なら動きやすいローカットでも問題なく、小学校高学年など体重が重くなってきた年齢ならば、ハイカットのもののほうが捻挫しにくかったりするので有利です。

レインウエアは登山用のものは高価なので、すぐにサイズアウトしてしまう子ども用を購入するのは躊躇するところですが、できればしっかりしたものを用意してほしいと矢野さんは言います。ビニール合羽などは安価ですが、まったく透湿しないので体が汗でビショ濡れになってしまうし、破れやすかったりもするので、結局、山で困ることが多いそうです。

他の必須装備としては、やはりバックパック。大人用ではなく、子どもの背中に合った大きさのものが必要になります。それから、日差しから頭を守るための帽子も重要。ヘッドランプと水筒も各自でひとつ持っておきたいもののひとつです。

なお、ザ・ノース・フェイスでは、キッズウエアは無償で修理を受け付けているほか、不要になったウエアとストアクーポンを交換してくれる「グリーンバトン」という仕組みを設けています。これらは、サイズアウトや破れなど、子ども用ウエア特有の問題をサポートしてくれるとてもいい試みではないかと思います。

以上はいわば必須装備。これらのほか、「遊びの道具」を持つようにすると、親子登山はより豊かになると長谷部さんは言います。これは趣味嗜好に応じてなんでもいいのですが、参考までに長谷部さんがいつも持ち歩いている道具を紹介します。

ルーペ(虫眼鏡) 虫や花を観察するためのもの。一点に集中して物を観察することを、大人以上に子どもは好む傾向があるそうです。さまざまな倍率のものを用意しておくとより楽しめます。
双眼鏡/単眼鏡 遠くにいる鳥や生き物を観察できて楽しい。
小型ナイフ 木の実を割って中を観察したりするときに便利。
観察ケース 透明のプラスチックでできたもの。これに虫などを入れて観察すると、あらゆる方向から見ることができて楽しい。虫をつぶしにくい竹製ピンセットを合わせて持っておくと便利。

 

 

親子登山のトラブル対処法

子どもと山に行くにあたって、最も気になることが「なにかあったらどうしよう」ということではないでしょうか。軽いことでは子どもが「もう歩きたくない」と言い出したらどうするか、そして重大なことではケガをしてしまったらどうしようということまで…。

長谷部さんによれば、経験的に最も多く見られるトラブルは以下のようなものだそうです。

  1. 親子喧嘩
    意外なことにこれがいちばん多いといいます。思うようにいかない子どもの行動に親がイライラし、つまらない山歩きに付き合わされている子どももイライラ。その結果、山中でケンカが始まってしまうのだそうです。これを防ぐには、上で説明した「親子登山を楽しくする5つのコツ」を実行すること!
  2. ケガ
    擦り傷や切り傷、捻挫などがよく見られるそうです。これらの対処法は大人と同じで、ファーストエイドキットで応急処置をしてできるだけ早く下山することが第一。もし捻挫などで歩けないような場合は、バックパックを利用すると、比較的ラクに子どもを背負うことができるので、方法を知っておくことをおすすめします。
  3. トイレ問題
    子どもはトイレを我慢できません。一方で、熱中症や脱水症状を防ぐためにも、飲みものはたっぷり飲ませたいところ。どこでもトイレができるように、携帯トイレを持ち歩くことをおすすめします。
  4. もう歩きたくない
    やはりこれ。子どもは突然言い出します。そうならないように、子どもの状態をよく観察して、疲労状態や機嫌を把握しておくことが大切。それでもどうしても歩けなくなってしまったら、背負って下りるしかないでしょう。

この4つのトラブル、まったくそのとおりだと首が折れんばかりにうなずく矢野さん。矢野さんによれば、親子喧嘩のみならず、夫婦喧嘩もよくあるとのこと!(ご注意を)

<親子登山 Q&A.3>

Q.標高の高い山に子どもを連れて行っても大丈夫でしょうか?
A.一概にいえない部分が大きいのですが、高度障害の出やすさは子どもも大人も差はないといわれています。ただし個人差が大きいので、少しずつ標高を上げて、自分の子どもはどこまでだったら問題ないのか、把握することが大切ですね。ですから、たとえば富士山(3,776m)に登りたいならいきなり行くのではなくて、1,000mの山、2,000mの山を先に登って、段階を踏むことをおすすめします。(長谷部さん)

ザ・ノース・フェイスが運営するキッズネイチャースクールとは?

親子登山の基本を説明してきましたが、登山の経験がまったくない親の場合は、やはりどうしても不安が先立ってしまうもの。その初めのきっかけ作りとサポートのために、ザ・ノース・フェイスでは、キッズ対象のアウトドアプログラム「キッズネイチャースクール」を開催しています。

2022年12月に行われた六甲山での親子トレッキングの様子は、こちらの動画からご覧いただけます。

アーカイブ動画、公開中

この記事はYAMAPの動画配信イベント「Young Explorers 〜子どもと登山を楽しむコツ、教えます〜 presented by THE NORTH FACE」の内容を元に作成されました。YAMAP公式YouTubeチャンネルでは、そのアーカイブ動画をフル視聴できます。ぜひご覧ください!


※本編は9分20秒より始まります。

原稿:森山憲一
イラスト:すすき荘
会場提供・協力:株式会社ゴールドウイン

森山 憲一

山岳ライター/編集者

森山 憲一

山岳ライター/編集者

1967年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒。大学時代に探検部に在籍し、在学中4回計10カ月アフリカに通う。大学卒業後、山と溪谷社に入社。2年間スキー・スノーボードビデオの制作に携わった後、1996年から雑誌編集部へ。「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとなり、登山と ...(続きを読む

1967年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学教育学部(地理歴史専修)卒。大学時代に探検部に在籍し、在学中4回計10カ月アフリカに通う。大学卒業後、山と溪谷社に入社。2年間スキー・スノーボードビデオの制作に携わった後、1996年から雑誌編集部へ。「山と渓谷」編集部、「ROCK&SNOW」編集部を経て、2008年に枻出版社へ移籍。雑誌『PEAKS』の創刊に携わる。2013年からフリーランスとなり、登山とクライミングをメインテーマに様々なアウトドア系雑誌などに寄稿し、写真撮影も手がける。ブログ「森山編集所」(moriyamakenichi.com)には根強い読者がいる。