日本百名山・那須岳から始まる関東の奇跡|山頂〜太平洋150km流浪旅【前編】

栃木と福島の県境にそびえる日本百名山、那須岳(1,915m)。その山麓から湧き出た一滴は東日本随一の清流、那珂川(なかがわ)へと姿を変え、150kmの旅を経て太平洋に注ぎます。

その途中に噂されるのは、紅葉で色づく里山を背景に、サケが遡上するという関東の奇跡。今回の旅のナビゲーターであるYAMAP専属ガイドのひげ隊長が、那須連山主峰の茶臼岳のピークをスタート地点に、山と川のつながりを感じる山頂から海までの楽しみ方を教えてくれます。

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2023.11.14

YAMAP MAGAZINE 編集部

INDEX

那須岳から海まで「下山する」魅力

那須岳を源流として、さまざまな支流と合流して太平洋に注ぐ那珂川

登山者にも人気の那須岳を源流とする那珂川は、「西の四万十川、東の那珂川」と称される清流。那須岳から始まる1滴が大河をつくりだし、太平洋へと注ぎます。

この山、川、海を一体として遊び尽くす旅こそ、関東のアウトドアの真骨頂ではなかろうか──。

そこでYAMAP MAGAZINE編集部がこの旅のナビゲーターとして白羽の矢を立てたのは、四半世紀にわたってアウトドアガイド経験のあるYAMAP専属ガイド、ひげ隊長。

「山登りとパックラフト(​軽量コンパクトに折りたためるカヤック)、キャンプまでできるアウトドアの楽園が北関東にあるらしい」とそそのかし、アウトドアの総合格闘技ともいえる企画を立ち上げ、昨年2022年11月に旅しました。

那須岳を源流とし、サケも遡上する関東の大清流・那珂川

那珂川は那須岳を源頭として、栃木県と福島県の県境から、茨城県の河口まで全長150kmにわたって流れる清流。源流部を除けば穏やかな流れが続き、人工物も少ないため、リバーガイドによるカヌーやSUPツアーも盛んに行われています。

那珂川でのサーモンウォッチングを楽しみにするひげ隊長

秋には「サーモンウォッチング」ができる関東の奇跡が。各学術調査によると、太平洋側では那珂川は千葉・銚子に流れる利根川の上流部、鬼怒川とともに、サケが大量遡上する川の南限域とされています。

サケというと、一般的には北海道や東北のイメージを持ちがち。実は都心から河口まで約100kmしか離れていない場所でサケが遡上しているという事実に、九州を拠点に活動するひげ隊長も驚きを隠せない様子。

那須岳からスタート地点のピークに向かうひげ隊長(左)とYAMAP MAGAZINE編集部の石田(右)

ひげ隊長:北海道もアラスカも、カヌーイストの野田知佑さん(*1)が愛した四万十川も、これまでいろんな川を漕いできたけど、那珂川は初めて。しかもサケが関東の川を遡上していたとは、全く知らなかったなあ。

野田さんの弟子であり、国内外の川を旅してきたひげ隊長。長年のアウトドア経験でたどりついた答えの一つは、山だけ、川だけとフィールドを限定せず、それぞれをつながりとして楽しむことで、日本の自然の豊かさをより多くのアウトドア好きに実感してほしいという思いでした。

その意味でも、今回の旅で選んだ那珂川はうってつけのフィールド。早速ひげ隊長は、今回のスタート地点となる「那須岳の山頂」を目指して出発しました。

(*1)野田知佑(のだともすけ)。カヌーイストで作家。国内外をカヌーで旅しながら、『日本の川を旅する』『ユーコン漂流』など、多くのノンフィクション作品を残し、その生き方と価値観は、多くのアウトドア好きに影響を与えた。2022年3月に逝去。

「源流のさらに源は山頂や!」スタート地点の山頂へ

強風のせいで、終始つらそうな表情のひげ隊長

ひげ隊長:今朝出発した鹿児島の家では短パンだったのに…。

11月の那須岳ロープウェイ山麓駅は氷点下。登山道に入る前から、みぞれ雪まじりの風速10m以上の風がひげ隊長の頬をたたき続けます。

那須岳は日本百名山のひとつですが、駐車場からロープウェイに乗って、9合目までアクセスできてしまいます。山が未経験の友人や同僚を連れていくにはちょうどよく、ピークまでのコースタイムは30分強です。

しかしながら、覚えておきたいのは、那須岳が「強風」で知られる山であること。那須岳は活火山。火山などの独立峰は山脈などと異なり、風を受けやすいのが特徴です。

那須岳の場合、特に寒い季節になってくると、北西に風をさえぎる高い山もなく、日本海からの北風が福島の会津を抜け、ダイレクトに那須の山に当たります。

修羅場をくぐってきたひげ隊長ならば余裕の行程と思いきや、過酷なスタートに……。

季節的には麓に紅葉が広がる時期でしたが、前と後ろに広がるのは真っ白な濃霧。雪もちらつきはじめます。

那須岳の火山活動については、栃木県によると、1960年代の小爆発が最後。一部で火山ガスの噴出などはあるものの、現在はおだやかな状態が続いています。一方、心穏やかでないのはひげ隊長。本来なら、火山ならではの火星的な砂礫の登山道を楽しめるはずのコースで、ぼやきはじめます。

ひげ隊長:体感はマイナス10℃。標高1,800mか。空気が薄い気も(笑)。だいぶ登ってきたけど、なんの眺望もないぞ。これ、登る意味ある!?

ひげ隊長「この雪が山から海へと注いでいくんだな!」

サケが遡上する那珂川のはじまりの一滴をたたえる場所。いつもの登山であれば「登頂」が目的ですが、今回はスタート地点として頂に立つことに大きな意味があります。

暴風と季節外れの雪でスタッフの前髪やまゆげも凍るなか、なんとかロープウェイの山頂駅から30分強で那須岳の主峰、茶臼岳に登頂。

ひげ隊長:この今降っている雪が山にしみて、川になっていくわけね。

散々ぼやいていたひげ隊長もしみじみ。

しかし、それも一瞬。這々の体(ほうほうのてい)でロープウェイの山頂駅へと逃げ帰る、ひげ隊長とYAMAP撮影班の一行。那須岳は、防寒、防風対策が必須の山であり、万が一を考えた服装の重要性をあらためて実感したのでした。

前髪や眉も凍ってしまうほどの強風

帰りのロープウェイが来るまでの間、展望台から望遠鏡で太平洋側を望むひげ隊長。すると、みるみるうちに雲が晴れ、景色が開け、山からつながる谷の地形がくっきりと見えてきたではありませんか。

普段の登山ならば、きれいな紅葉の景色に感動し、あとは下山するだけ。しかし、今回の下山旅では、山肌に刻まれた谷に流れる水が那珂川へと合流し、太平洋へと注ぐことを想像する楽しみがあります。そしてこれから実際に、山から流れ下る水と同じように移動していく高揚感を、ひげ隊長も隠しきれません。

ひげ隊長:登山はもう数え切れないほどしてきたけど、やがて川となるその源が、自分の立っている足元にあると意識して登ると、まったく山の見え方が違う。ふだんは山頂しか考えないけれど、ここに雨や雪が降って、それが土に染み込んで川になって流れていく──。景色を目の前にしながら思いを馳せるのはとても新鮮。これからまた山麓に移動して、川でパックラフトで下っていくと思うとワクワクするね。

ここから旅は、山から川へ──。

コンパクトに持ち運べる、カヤックに似た形状の一人乗りボート、パックラフトで、那珂川を下っていきます。

那珂川の源流にある古の記憶

那珂川源流の石碑(きんさんの活動日記より

国土交通省によると、厳密な那珂川の源流は、那須岳を構成する朝日岳(1,896m)の北西斜面にあるとされています。那須岳の主峰である茶臼岳の山頂から、太平洋のある東側にすぐ流れるわけではなく、反時計回りに迂回して海へと注いでいるのです。

今回は、多忙なひげ隊長のスケジュールの都合で訪れることが叶わなかったのですが、那須岳西側の山麓には、標高約1,100mの場所に那珂川の源流を示す石碑が存在しています。1990年に栃木県黒磯市(現在の那須塩原市)が水源の印として、市政20周年を記念して建てたとされています。

沼ッ原調整池の駐車場からアクセスできる三斗小屋宿跡

源流の石碑の近くには、かつて江戸の元禄期に会津藩が設置した三斗小屋宿跡もあります。ここに行くには、同じく那須岳の西端にある沼ッ原湿原(約1,200m、トイレ・駐車場あり)から、北にある麦飯坂を下って、約1時間半の距離。深山ダム方面からもアクセスでき、林道の終点から約1時間。編集部は再訪を試みるも、いずれもアクセスできる道路が冬季通行止めで、かないませんでした。

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YAMAPの那須岳の拡大地図

サケを追いかける物語は後編へ!

那須岳をあとにし、サケが遡上する那珂川の中流域を目指して車で移動。しかし、編集部がひげ隊長に伝えなければいけなかったのは、ある不穏なニュース……。

今回の旅のメインである「サーモンウォッチング」を楽しみにしていたひげ隊長ですが、前年に過去にない不漁が起きていることを知らされます。

ひげ隊長:サケ・イクラ丼を夢見てここまで来たというのに……、というのは冗談で、今年(2022年)はまだわからないでしょ。川の環境変化は日本各地で起こっていることだし、現状を確かめるという意味でもサケを探しに行く価値はあるはず!

日本の山々から流れる川はどうなってしまっているのか。サケは本当に遡上しているのか。すべてが人力ではないとはいえ、そもそも1泊2日で太平洋までたどりつけたのでしょうか。後編に続きます。

今回訪れた那須岳とおすすめのモデルコース

▼那須ロープウェイ山頂駅〜茶臼岳 往復コース|未経験・初級者おすすめ

体力度:1(5段階中)
タイム:01:20
距離:2.0km
上り:234m
下り:234m

那須ロープウェイの山頂駅から、日本百名山の那須岳(なすだけ)の一座、茶臼岳を往復するコース。登山の初心者でも、火口跡の凹部が残る、荒涼とした異世界のような光景を手軽に楽しめます。秋季でも冬型の気圧配置になったときなどは、強風や雪に注意する必要がありますので、ロープウェイ山頂駅に到着した時点で無理な山行になりそうな場合は引き返しましょう。

コースの詳細:YAMAPのモデルコース

▼那須ロープウェイ山頂駅〜那須岳〜朝日岳 縦走コース|やや健脚者におすすめ

体力度:2(5段階中)
タイム:03:24
距離:6.1km
上り:478m
下り:778m

那須ロープウェイの山頂駅から、那珂川の源流があるとされる朝日岳とを縦走するコース。南北へと往復するようなルートを描いて縦走します。途中でエスケープもしやすいので、時間や天候などの様子を見ながら進みましょう。

コースの詳細:YAMAPのモデルコース

写真・文=小林昂祐

YAMAP MAGAZINE 編集部

YAMAP MAGAZINE 編集部

登山アプリYAMAP運営のWebメディア「YAMAP MAGAZINE」編集部。365日、寝ても覚めても山のことばかり。日帰り登山にテント泊縦走、雪山、クライミング、トレラン…山や自然を楽しむアウトドア・アクティビティを日々堪能しつつ、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと奮闘中。