YAMAP動画コンテスト2021で「Adobe賞」を受賞したフリーランスの映像クリエイター・Ryo Sumiさん。受賞作「忘れられない冒険が、そこにある」はドローンを使ったダイナミックな映像が印象的です。冒険が好きだと言うRyo Sumiさんに、ウルトラライトハイキング(UL)やロングトレイル、今後の展望などを伺いました。
2022.04.27
YAMAP MAGAZINE 編集部
―フリーランスの映像クリエイターをされているとのことですが、お仕事で山の映像を作ることはありますか?
いえ、仕事ではあまり山に関するものは作っていません。仕事では企業の広告や、行政の移住促進のための映像などを作っています。山の映像はプライベートで個人的に作っていますね。
―映像のお仕事は長いのでしょうか?
もともとは福祉の仕事をしていて、本業の傍ら映像制作を始めました。5年くらい副業として映像制作をやって、本業の収入と同じくらいになったので、フリーの映像クリエイターとして独立しました。
―副業だったんですね。映像を作りはじめたきっかけは?
今もなんですけど、バンドをやっている関係でミュージックビデオを撮る機会があって始めました。最初は目も当てられないような映像を作ってたんですけど(笑)、映像作家の人に頼んで現場に連れて行ってもらったりして、場数をたくさん踏んでいるうちに、お客さんに満足してもらえる映像を作れるようになりました。
―福祉の仕事にバンドに映像制作……とてもハードそうですね。
副業しながらのときは本当に忙しくて、睡眠時間を削っていろいろやっていました。
そんな中でも、大学生のときに始めた登山は続けていて。どんなに忙しくても、日帰りで奥多摩や丹沢に行ったり、年に一度は北アルプスに行ったりしていました。
―登山歴を教えてください。
大学3年生のときからなので、8年くらいです。大学の友達と「一度は行っておくか!」と富士山に登ったのが初登山。そのとき、ご来光の景色にものすごく感動しました。
僕は昔から冒険に憧れがあるんですね。登山を始める前は、バイクでいろんな場所に行っていました。だから富士登山で「山でも冒険ができるんだ!」と知り、それをきっかけに山にハマりました。
―それから、あちこちの山へ行くように?
はい。最初は人に連れていってもらって、道具も借りて。それから自分で道具を集めていきました。
ウルトラライトハイキング(UL)という、荷物を軽くしてより遠くへ歩く登山スタイルがあるんですが、僕が持っているのはほぼULの装備です。登山を始めてすぐの頃、「ハイカーズデポ」(※日本にULを広めた土屋智哉さんが経営するショップ)の存在を知り、行ってみました。ふつうはもっと定番の道具を揃えてからULにいくと思うんですが、僕は最初からULに出会えたので、そこは本当に幸運でしたね。
―一番好きな山はどちらでしょう?
一番は立山です。簡単に登れるのに特別な世界が広がっていて、なんだか心に残っています。
僕にとって登山をする理由は、景色もあるんですけど、登頂までのプロセスというか「冒険してる感」が楽しいから。何が起こるか、どんな出会いがあるか分からないワクワク感が好きです。
―立山よりも、もっと難易度の高い山のほうが「冒険してる感」がありそうですが……?
難しい場所も好きですが、僕は長い道のりを歩くのが好きなんですよ。ロングトレイルというか、旅するように山を移動するのが好き。長く山にいると、山がより「日常」に溶け込んでいくのがいいですね。
―今まで、どんなロングトレイルをしましたか?
最近はあまりできていませんが、北アルプスの表銀座と裏銀座を6泊7日で歩きました。あとは、南アルプスを一筆書きで歩こうとしたんですが、それは途中で台風が来たので断念。ほかは、雲ノ平を5泊で一周しました。
―6泊は長いですね! テント泊で6泊だと、荷物がかなり重くなりそうです。
でも、15㎏くらいに収まりましたよ。UL用の軽いテントを使っているし、1つで2つの役割を持った装備を集めているので。長い山旅がそのくらいの重量でできるのはULのいいところですね。今は映像の機材があるからもう少し重いかもしれないけど、映像を始める前は、写真しか撮っていなかったので機材もカメラと三脚だけでしたし。
―映像を始める前は写真を撮っていたんですね。
はい。山で星空を撮りたくて。
―今まで見た中で、印象に残っている星空は?
雲ノ平で見た星空です。今まで肉眼で見た中で一番感動しました。秋の後半だったんですけど、雲一つなくて新月がでていて、満天の星空があまりに素晴らしくて……。しばらく言葉が出ませんでした。
―撮影と編集の作業は、どちらが好きですか?
どっちかというと撮影の方が好きです。
映像の編集ってパズルに近いんですよ。完成図のイメージはあるものの、バラバラの状態から始めて、どのピースをどう組み上げるべきか、手探りで進めなきゃいけない。やっているうちに全体像が見えてきて面白くなるんですが、そこに到達するまではけっこうしんどいものがあります(笑)。
撮影が好きなのは、山の素晴らしい瞬間を映像として切り取ることができるから。自分が感動した景色をうまく切り取ることができると、めちゃめちゃテンション上がりますね。
―たとえばどんな景色でしょう?
九重連山の大船山山頂から見た朝日は忘れられません。すべてが凍っていて、雪で真っ白になった世界に朝日が昇って、一面の白が赤く染まっていくんです。それがとても綺麗でした。
―こうして動画に残せるといいですよね。人にも見せられるし、自分で後から見返すこともできるし。
映像って、時間が経てば経つほど貴重になると思います。自分が見た景色を、そのときの感動ごと保存できるってすごいことですよね。それが映像の醍醐味だと思います。
―映像を他の人に見てほしい気持ちと、自分自身の思い出として残したい気持ち、どちらが大きいですか?
自分のために作っている割合の方が大きいかな。でも、YouTubeもだんだん見てくれる方が増えてきて、「自分のために作ったものが、結果的に誰かにとっての価値にもなり得るんだな」と思うようになりました。
すごく綺麗な景色を見たとき、その感動を誰かと共有することで楽しさが増幅すると思うんです。ソロ登山も気楽で好きだけど、共有も楽しみ方のひとつというか。共有したい欲求が、映像を作るモチベーションになっています。
―YouTubeのコメントがモチベーション維持につながることはありますか?
あります。YouTubeのコメントで「この動画を見て、山に行ってみたくなりました」と言われると嬉しいですね。誰かの行動のきっかけになったとしたら、それってとても意義のあることだから。
世界には素晴らしい場所がたくさんあるけど、一人の人間が生きていて見られる景色には限りがあるので、素晴らしい景色を自分の映像で伝えられたら嬉しいですね。
―今後、やっていきたいことは?
今年の秋くらいから、しばらくイギリスに行く予定です。YMSというビザを取得できたので、最長で2年間は滞在できます。どこまで資金が持つかわからないけど、なるべく長くイギリスにいたいですね。
―ある意味、人生の冒険ですね!
まさに。撮影の仕事は日本でしかできないし、クライアントさんも日本にいるし、収入は確実に減ると思うんです。帰国後、今と同じように仕事できる保証もないし……。だから正直リスクは大きいんですけど、YMSは年齢制限があるから今しかできないし、「やらないことの方がリスク」と判断しました。
―イギリスでやってみたいことは?
湖水地方に行きたいです。写真や動画でしか見たことがないんですが、景色がものすごく綺麗なんですよ。その場所に行って心が動いたら、その感動を作品にしたいですね。
あと、いつかはアメリカのロングトレイルを歩きたいです。長距離を歩きながら生活するってどんな体験なのか、未知すぎてやらないことには分からない。すごく不安だし勇気が必要だからこそ、その冒険をしてみたいです。それが今の夢ですね。
RyoさんのYouTubeチャンネル
文章:吉玉サキ
写真提供:Ryoさん
YAMAP MAGAZINE 編集部
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