山梨県内の様々なスポットを巡りながら「山」と「街」のつながりを感じる山麓旅。第2弾の今回も、漫画家の鈴木ともこさん、アウトドアスタイル・クリエイターの四角友里さんのおふたりが、山梨の「おいしい」「楽しい」「美しい」を求めて旅します。訪ねるのは「やまなし県央連携中枢都市圏」と呼ばれるエリアで、南アルプスにほど近いスポットを中心にご紹介します。
※第1弾の記事はこちら
※YAMAPでは、やまなし県央連携中枢都市圏の9市1町(甲府市・甲斐市・北杜市・韮崎市・南アルプス市・中央市・笛吹市・山梨市・甲州市・昭和町)にて、YAMAP×やまなし県央『山のぼり・まち歩き』キャンペーンを開催中。期間は2023年9月1日(金)から11月30日(木)まで。山や麓の観光スポットでデジタルバッジをゲットできるキャンペーンです。
2023.09.01
武石 綾子
ライター
「山梨の食材や水のおいしさを、パンを通じて届けたいんです」。スタッフさんがこう話してくれたのは、南アルプス市の「ベーカリー ルーブル」。
店内には、季節の野菜・フルーツで彩られた多様なパンがずらりと並びます。目を惹くのは、南アルプス市周辺の山名を冠した品々。なだらかな山容の櫛形山を模した「櫛形山あんぱん」をはじめ「北岳の杖(細長いライ麦パン)」、鳳凰三山をイメージした「山型食パン鳳凰」など、山好きであれば買わずにはいられないネーミングに、深い「南アルプス愛」を感じます。
バッグいっぱいのパンを持って、「ベーカリールーブル」からほど近い「櫛形総合公園」でコーヒー片手に休憩。「本当に同じ形しているね」と、公園の前の櫛形山を眺めながら「櫛形山あんぱん」をほおばります。
「たくさん買ったけど、あっという間に食べちゃう」と友里さん。「採れたての野菜が甘い!おかわりに買いに戻っていい?」と笑うともこさん。
パンを通じて感じる山の恵み、飾らない素材の味。櫛形山や南アルプスの山々を眺めながら、ご賞味あれ。
韮崎市で150年もの間「甲州伝統の味」を受け継いできた老舗が「井筒屋醬油(いつつやしょうゆ)」。
「先代も、今の社長も山が好きなんですよ。この商品名は、甲斐駒ヶ岳にも良く登っていた先代がつけたものなんです」
山好きの目を惹く「甲斐の白根」というお醤油を手に持ち、由来について、女将の山寺直美さんが教えてくれました。
店内には主に山梨県産の大豆と小麦を使用したお醤油に、麦みそ・赤みそ・白みそ、しょうゆこうじに塩こうじ。熟成度の異なる様々な商品に、思わず目移り。毎日味噌汁を欠かさず、「旅先では必ずその土地の味噌を買う」というともこさんも感激の品揃えです。
山梨県内における醤油の製造元は、昭和20年ごろに60軒ほどありましたが、現在は2軒にまで減少。しかも、昔ながらの製法を続けているのは唯一、井筒屋醬油さんのみだそう。「伝統」を受け継ぐことが如何に難しいことかを感じずにはいられません。
身近なお店でも購入できる味噌や醤油ですが、「山紫水明の地、山梨から醸造の灯を絶やさない」という蔵人の想いに触れる体験はとても貴重なもの。ご自宅やお土産にも、山でのキャンプ飯にもおすすめですよ。
グルメを満喫している今回の旅ですが、ここで特にランチにおすすめのお店をご紹介。
山梨市の地元常連客でにぎわう有名店「のんきばぁーば」でいただけるのが「一泊ほうとう」。「ほうとう」と言えば山梨の郷土料理として有名ですが、一晩寝かせて味が熟し、麺に味がしみたほうとうこそが地元の人に愛された味。そのままはもちろん、ごはんにかけて食べるのも絶品。そんな間違いなくおいしい「山梨の家庭の味」を楽しめるのがこちらのお店です。
さらに見逃せないのは、「ばぁーばこだわりの甘だれがたまらない」という手のひらサイズの特大からあげ(写真参照)。普段ならお腹いっぱい、となりそうなボリュームなのにぺろりといけます。
洋食が食べたい気分の時は、昭和町の「HungryGate」へ。期間限定のメニュー含む10種類ほどのハンバーグを中心に、お肉料理やアラカルトも人気。特にランチの時間帯は行列必至のため、事前予約がおすすめです。
山でも街でも、やっぱり旅に欠かせないのは温泉で疲れを癒す時間。今回おふたりが立ち寄ったのは、昭和町の市街にある「フカサワ温泉」。遠方まで足を運ばずとも気軽に立ち寄れるのが嬉しい街中の湯処です。
実は、「山岳天国」でもあり「温泉天国」でもある山梨県。様々な岩盤が入り組んだ複雑な地質構造であることから泉質も多様。特にここ、「フカサワ温泉」の泉質は美肌に良いとされる炭酸泉。
一般的に「ぬる湯」をイメージする炭酸泉ですが、こちらは45度の高温源泉かけながし。かつ植物が炭化した成分による褐色のモール泉が湧き出ています。炭酸泉×モール泉の組み合わせ、これはとても珍しい泉質なのだそう。
陽の光に当たると宝石のように美しく輝く湯舟は少し浸かるだけでぽかぽかに。近隣の方はもちろん、「筋肉痛がやわらぐ」と言いながら南アルプスや山梨百名山を下山した登山者がよく立ち寄るのだとか。多くの効能が期待でき、身も心もほぐしてくれる褐色の湯でほっとできるひと時をどうぞ。
都心の大型スーパーではなかなか目にすることのない大きさ、種類のキノコが並ぶのは甲斐市にある「とみや青果店」。「キノコ採り名人」と称されるご主人自ら県内の野山に入り、品質を見極めてキノコを収穫。
その珍しさと豊富さに、県内外から多くのお客さんが足を運ぶと言います。この日も、常連らしき旅館のご主人が「夕食に使わせてもらうんだよ。ここでしか買えないキノコがたくさんあるからね」と言いつつ、どっさりと手に持ってレジに向かう姿が。たしかに、この充実度合いは他ではなかなかお目にかかれないかも。
「希少なキノコがすごくお買い得!友達の分も買って帰らなきゃ…」と、さらにお土産が充実するともこさん。
「とみや」の皆さんが常に提供したいと考えるのは「旬の恵み」。思わずキノコの存在感に目を奪われてしまうものの、野菜や果物も大きくて新鮮そのもの、個性的な色や形にも驚かされます。
何より、明るく笑顔で迎えてくれるご主人の大森さんご一家のあたたかさが嬉しい。初めて訪れたにも関わらず、買い物が終わった後も山やキノコの話で盛り上がり、思わず長居してしまいます。
「こんなに大きくて新鮮なキノコ、どこの山で採れるの…?」と、気になった方はぜひお店を訪れて、直接ご主人に尋ねてみてくださいね。
「やっぱりすごく気持ちが良いところですね。ここ、ずっと来てみたかったんです!」
大きく深呼吸をしながら友里さんが声を弾ませるのは、北杜市にある「清春芸術村」。南に富士山、北に八ヶ岳、東に金峰山、西に南アルプスの山々と、四方を名峰に抱かれる芸術と文化の複合施設です。
すでに地図上には存在しない地名、「清春」。およそ40年前、小学校跡地であったこの美しい場所に惚れ込み、私財を投じて芸術村を拓いたのが日本を代表する画商であった吉井長三氏。「芸術家たちの国際交流の場を作りたい」。そんな想いのもと、40年以上の年月をかけ複数の施設が開かれ、現在につながっています。
門をくぐるとまず目に入るのは、清春芸術村最初の施設として1981年に建築された「ラ・リューシュ」。パリのエッフェル塔を設計したギュスターブ・エッフェルによる設計で、パリ万国博覧会のパビリオンで使用された記念建築を完全再現したもの。現在もアーティストが滞在して制作を行える場として活用されています(2023年8月現在は内覧不可)。
「ラ・リューシュ」の斜め向かいには「白樺派」ゆかりの展示や歴史的資料などが楽しめる「清春白樺美術館」。自然光のみで作品を鑑賞する安藤忠雄氏設計の「光の美術館」、藤森照信氏によるツリーハウスのような「茶室 徹」など、日本を代表する美術家や建築家の作品が一堂に会するこの場所はまさに芸術家の作品が集まる村のようです。
四方の山と空、雲や木々までもが一帯の作品・アートのようにさえも感じるほど。写生に訪れる人が後を絶たないという話にも頷けます。
自然に抱かれることでほぐされた感覚をゆっくり開いて、目の前の作品を味わったり、自分と向き合ったり。一つひとつの意味を考えすぎずに、自然体で。そこに流れている時間は、何にも捉われる必要のないことを教えてくれます。
もちろん過ごし方は訪れた人次第。ともこさん、友里さんのおふたりも芝生でのんびり。鑑賞ばかりを目的とせず、この場所に流れる空気を味わうだけでもOKですよ。そう、きっと芸術は自由なものなのです。
北杜市を訪れたら、芸術村と併せてぜひ立ち寄ってほしいのが、老舗和菓子店の「台ヶ原金精軒」。山梨を代表する銘酒「七賢」の酒蔵と通りを同じくするこちらは1902年(明治35年)創業。宿場町・旅籠の名残が趣きある店内には、大福やお団子などお散歩の途中で食べ歩きたいお菓子がずらりと並びます。
中でもやっぱり食べてほしいのは工場直売の「生(なま)信玄餅」。山梨の銘菓として知られる信玄餅ですが、驚くのは「赤ちゃんのほっぺ」とお店の方が表現するほどもっちりとした食感。
きなこや蜜の後にじんわりと口に広がる甘みの秘密は「梨北米(りほくまい)」と呼ばれる県内産のお米の風味。製造に使用されているお水は甲斐駒ヶ岳の伏流水「南アルプスの天然水」です。新鮮な素材ばかりを使っている為、ぜひ店頭で、地元のお米と水による「生」のおいしさを味わってください。
お腹ペコペコで下山する登山者も、昔なじみのご近所さんも、懐深く笑顔で迎えてくれるのが居酒屋「丸さん」。前述の「ベーカリールーブル」のご近所で、櫛形山を見上げる南アルプス市街にお店を構えています。
のれんをくぐったらカウンターへ。とびきりの笑顔で迎えてくれるのは、お店を切り盛りする中丸さんご夫妻。メニューを拝見すると、おさしみや焼き魚などの一品料理、とんかつやラーメンなどのがっつり系まで、食いしん坊ハイカーのニーズと空腹を満たすラインナップに「わかってる!」と膝を打ちたくなります。迷いながらも、まずは特におすすめと言う「もつ煮」と「丸さん餃子」をオーダーするおふたり。
「ん-!もつがとろとろに煮込まれてる!おかわりしちゃおうかな」「餃子も今まで食べた中でも最高クラスかも!」と箸が止まらないおふたり。どのメニューも店主である中丸立巳さんと奥様の牧子さんのこだわりがつまった一品。
特にもつ煮は、開店前に数時間かけて何度も煮こぼし、とろけるような柔らかさと味わいを引き出すのだそう。そして何よりの隠し味は中丸夫妻の笑顔と愛情でしょう。
「おいしいでしょ?奥さんが作る玉子焼きや、納豆もおすすめだよ」と後ろから声をかけてくれるのはほろ酔いで上機嫌の常連さん。地元で愛されているお店であることが、その表情からじんわりと伝わります。
「今日食べられなかったお料理は、次回来たときに食べよう!」「そうだね。次は山の帰りかなー。お腹を空かせて帰ってこよう!」そう盛り上がる友里さんとともこさん。最高の「おいしい」で旅を締めくくります。
アートにお土産、やっぱりグルメと、情報が充実していた第2弾。多くの場所を訪れましたが、改めて感じたのは山梨の皆さんが山と共に生きていること。そして山麓のまち歩きは、山を知るための最高のフィールドワークだということ。
夏が過ぎ、少しずつ涼しくなるこれからの季節。山と街のつながりを感じるやまなし山麓旅に、ぜひお出かけください。
*今回の「やまなし県央の山旅」で2人が訪れたスポットはこちら
YAMAPでは期間限定で、YAMAP×やまなし県央『山のぼり・まち歩き』キャンペーンを実施中。
これは、やまなし県央連携中枢都市圏の「9市1町」(甲府市、韮崎市、南アルプス市、甲斐市、笛吹市、北杜市、山梨市、甲州市、中央市、昭和町)にある指定のランドマークを訪れることで、YAMAPアプリの期間限定デジタルバッジ(5種類)を獲得でき、さらにデジタルバッジを3つ以上集めた方は、指定の配布場所で特製コラボ手ぬぐいがもらえるという大好評のキャンペーンです。実施期間は、2023年9月1日(金)〜11月30日(木)まで。
詳細は以下の記事(甲府市×YAMAP|甲府の山を登って、まちを歩いて限定手ぬぐいを手に入れよう)をご確認ください。
【旅をしたひと】
四角友里|Yuri YOSUMI
アウトドアスタイル・クリエイター。 「自然に触れる喜びを多くの女性たちに感じてもらいたい」との想いから執筆、講演、アウトドアウェア・ギアの企画開発を手掛ける。2023年秋、自身のオリジナルブランドを立ち上げ予定。著書に『一歩ずつの山歩き入門』、『山登り12 ヵ月』など。
鈴木ともこ|Tomoko SUZUKI
漫画家。自身の山登り体験を描いたコミックエッセイ『山登りはじめました』(KADOKAWA)シリーズがロングセラーに。近著は『山とハワイ』(新潮社)。山好きが高じて東京から長野県松本市に移住。、松本市観光大使も務める。
原稿:武石綾子
撮影:根本絵梨子
モデル・イラスト:鈴木ともこ(Instagram:suzutomo1101/)
モデル:四角友里(Instagram:yuri_yosumi)
協力:甲府市(やまなし県央連携中枢都市圏)