登山を始めるきっかけで多いのが、「職場の仲間に誘われて」というパターン。仕事とプライベートを分けたいという人もいる一方、なぜ同僚たちと行くグループ登山が増えているのでしょうか。そこで、登山コミュニティをもつ企業の登山部員たちに、心身のリフレッシュだけではない、グループ登山の魅力を伺う「登山部インタビュー」連載をスタートしました。
第七回は、四大国際会計事務所の一つ、EYの日本におけるメンバーファームEY Japan(東京)さんです。プロジェクトごとに働くスタイルやコロナ禍で薄れてしまった社内コミュニケーションを再構築するために始まった、この登山部の取り組み。初心者から経験者まで楽しめる工夫や、業務外のつながりがもたらす職場への親近感など、その魅力について参加者の声を通じてご紹介します。
2025.01.27
YAMAP MAGAZINE 編集部
< 話を聞いた人 >
左から
梶浦 英亮さん:コンサルティング部門 パートナー(YAMAP-ID:2202363)
厨子 准哉さん:コンサルティング部門 マネージャー(YAMAP-ID:836025)
佐々木 桃子さん:人事部門 アシスタントディレクター
新井 尚子さん:人事部門 アシスタントディレクター
【EY Japan】
四大国際会計事務所の一つ、EYの日本におけるメンバーファームの総称。EY新日本有限責任監査法人、EY税理士法人、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社などに所属する公認会計士や税理士、弁護士、ビジネス・プロフェッショナル、エンジニアなど約10,000人が相互に連携し、企業のビジネスを支援しています。
Webサイト:https://www.ey.com/ja_jp
── みなさんが社内メンバーで登山をするようになったきっかけを教えてください。
梶浦さん:EY Japan内にはさまざまなビジネスを提供するチームが存在します。私が所属しているコンサルティング部門は、クライアント企業ごとにプロジェクトチームを作ってクライアント企業の従業員と一緒に働くというものです。
クライアント企業に出社し、クライアント企業のIDを持ち、クライアント企業の一員として働くようなスタイルですので、自社への帰属意識をどのように保つのかというのは古くからのテーマでした。
それに加えてコロナ禍で従業員のリモート勤務の割合も高まり、従業員が会社というコミュニティの中で孤立し、組織に対しての帰属意識を持てないケースも散見される状況になっていました。業務終了後の飲み会などでのコミュニケーションは、これまでに比べ参加する人も少なくなってきています。
そのため、せっかくであれば「登山」という場を作って、そこに参加する人たちでコミュニケーションを図れないかと思ったことがきっかけです。
2021年の発足当初は私の所属するコンサルティング部門だけで小さく始めたのですが、現在では他部門の方も多く参加しています。厨子さんは僕の部下で、立ち上げ当初から参加してくれているメンバーです。
── 参加される方は経験者の方が多いのですか。
厨子さん:現在40名ほどのメンバーがいますが、参加者の約8割以上は登山未経験か初心者です。きっかけは同じ部署やプロジェクトで一緒になった登山部メンバーから誘われるパターンがほとんどで、たまに入社時の自己紹介で「登山が趣味」という社員がいたら、すぐに声をかけていますね。特に大々的な宣伝はしておらず、運営に無理のない規模に留めています。
佐々木さん:私は梶浦さんや厨子さんとは異なるメンバーファームで人事の仕事をしているのですが、部署内に登山部に所属しているという方がいたんです。山にはとても興味があったのですが、機会がなく挑戦できていなかったという経緯もあり、自ら志願して参加させていただきました。
新井さん:私は梶浦さんから登山部の話を聞き、「EYのみなさんともっと関係性を深めたい!」という思いから参加を決めました。EY Japanには全体で10,000人以上の従業員がいますが、私はそのうえコロナ禍真っ只中のタイミングで中途入社したこともあり、同じ会社の方々との接点を全く持てずにいました。
もともと体を動かすことが好きでしたし、正直、同僚とのコミュニケーション手段としての飲み会に、少し飽きてきていたタイミングでもあったので、登山部の話を聞いたときには「登山、いいですね!」と素直に思いました。同僚のみなさんとリアルな場でお会いすることで、仕事もしやすくなるだろうと感じ、すぐに参加を希望しました。
── 社内メンバーとの交流方法として、なぜ「登山」を選ばれたのでしょうか?
梶浦さん:僕自身が「登山」が好きだったことは大きいですね。パートナーという立場上、現場のメンバーと直接話す機会をなかなか作ることができず悩んでいました。従業員が多いからこそ、人間関係の構築は不可欠だと思っていましたが、時代の変化に伴って部下や同僚とコミュニケーションを深めることが難しくなっていますよね。
でも「登山」なら、体を動かしながらコミュニケーションをとれるじゃないですか。これからの時代のコミュニケーションに適しているのではないかと思いつき、企画を始めました。
厨子さん:私の所属するチームでは、プロジェクトベースで仕事をするスタイルなので、関わるメンバーも入れ替わりが激しく、社内のネットワーク構築は働きやすさを考えるうえでとても重要です。登山部の活動は、自分たちが楽しみながら、結果的に親交を深めることもできるのでとても良い取り組みだと思っています。
── 登山部の活動頻度はどのくらいですか?
厨子さん:春から晩秋にかけて月に1回程度のペースで山行を企画し、参加者を募って実行しています。たとえば、4月頃には年度の活動開始を兼ねて桜が見られる高尾山へ行きます。6月には標高1,000m~2,000m程度の初心者向けの山を選び、ベストシーズンの夏~秋にはアルプスや八ヶ岳、尾瀬など少し遠出をして、一泊二日の山行を計画しています。初心者でも段階的に登山の楽しさを味わえるように工夫しています。
── 一年でアルプスデビューや宿泊山行まで果たせるなんて、素晴らしい仕組みですね。
梶浦さん:そうなんです。低山と高山ではまったく別の体験ができるじゃないですか。低山は日常の延長のような感覚ですが、高山はまるで別世界。僕個人としても、アルプスのような高山に登るのが山の醍醐味だと思っていますし、ぜひメンバーにもその楽しさを体験してもらいたいという気持ちがあります。
── アルプスなどに行く際は交通手段などがネックになりがちですが、どのように対処していますか?
梶浦さん:住んでいる場所がバラバラなので、基本的には各自で移動手段を選んでいます。ただし、遠くに行くときは金曜日の夜のうちに移動することも多いです。
新井さん:前泊で同じ宿に泊まったり、みんなで食事に行ったりすることが多いですね。山に登る前から「修学旅行」みたいな雰囲気があって、まだ山には登っていないのに楽しい時間です。
佐々木さん:北八ヶ岳の白駒池に行った時にも、みんなでJR茅野駅の近くで前泊しましたよね。私はその回が初参加で、同僚とはいえ本当に知らない人たちと登るので不安だったのですが、前夜の飲み会があったおかげで自然に参加でき、みなさんと仲良くなれたこともすごく印象的でした。
厨子さん:「乗鞍岳(3,026m)」にみんなで行ったときは、15人くらい乗れるバスを貸切にしましたよね。実は梶浦さん、最近登山部の活動のためにバスを購入しようかと検討しているそうです(笑)。
── グループ活動で、気にかけていることや注意していることはありますか?
厨子さん:参加は完全に自由で、出欠や参加頻度を強制しないことを大切にしています。業務でのつながりがある人もいますが、あくまで趣味での関わりなので、業務を理由に参加を求めることはしません。だからこそ、純粋に「楽しそう!」と思ってもらえるような山行を企画しています。
たとえば、登山靴さえあれば気軽に参加できる山を選ぶことや、山行だけでなく下山後の温泉までセットにするなど、気軽に参加できる雰囲気作りを心がけています。また、初心者が大半なので、ペースは経験者が調整しながら歩くようにしています。
── 行き先の山選びで、特に意識していることはありますか?
厨子さん:東京からの電車でのアクセスはかなり気にしています。人数が多くなると参加者の住んでいる場所や個人の仕事・プライベートの都合に合わせて移動手段・タイミングを選べる電車が便利ですし、参加のハードルが下がると思っています。下山後に気兼ねなくお酒が飲めるのもいいですね。
あとは参加者のレベルに合わせた山選びという点では、最近はYAMAPのコース定数を参考にしています。コースタイム・歩行距離・累計標高で総合的に算出されているため、過去の山行のコース定数などと比較して、無理のない山選びを心がけています。
── これらを踏まえたおすすめの山はどこでしょうか?
厨子さん:これらの観点で選んできた山の中で、一番のおすすめは「大菩薩嶺(2,057m)」です。電車でのアクセスもよく、初心者向けにも関わらず非常に気持ちいい稜線歩きを楽しめます。途中に山小屋もあるため、トイレや食事の面でも安心。プライベートでもよく初心者を連れて訪れています。
── みなさんは一緒に登山をするようになって、関係性に変化などはありますか?
厨子さん:登山を通じて業務以外のつながりができたことで、以前よりも気軽に相談や報告がしやすくなったと感じています。また、社内で仕事以外の交流が生まれたことで、会社への親近感や一体感が増しました。コロナ禍では対面での交流が難しかった分、登山で生まれるつながりのありがたさを改めて実感しています。
新井さん:私たちも、登山部で仲良くなった同僚たちと、スピンオフ企画として女子会を開催することがあります。冬の間は登山部の活動がお休みになるので、その期間のつながりとして、異国料理を楽しみながら「世界一周」を目指したりと、街中で一緒に遊ぶ機会も増えました。
佐々木さん:登山中に歩きながら、お腹が空いてご飯の話になったんですよね。そこでメキシコ料理の話になり、盛り上がったのがきっかけで。女子会ですが年齢も20代〜50代と幅広く、登山が繋いでくれたありがたいご縁だと感じています。
── 最後に、社内登山の魅力とはなんでしょうか?
厨子さん:“会社”のグループでの登山の良いところは、新しい趣味に挑戦するハードルをぐっと下げてくれる点だと思います。
社会人になると、「新しい趣味を始めたくても、一人で始めるのは不安…」と感じる人は多いと思います。とはいえ、社会人サークルのような新しいコミュニティに飛び込むのも、新しい趣味だけでなく、新しい人間関係への挑戦も伴い、ハードルが高い。
でも、会社に登山部があれば、すでに所属しているコミュニティの中で気軽に新しい趣味に挑戦できるので、挑戦に対するハードルをかなり下げてくれると思います。これは社内に登山部があるひとつの意義だと思いますね。
もうひとつは、共通の趣味で繋がりをつくれることだと思います。同じ物事が好きという共通点があるからこそ、仕事や他の趣味の話もしやすく、良好な関係が築けているということは、メンバー全員が共通して抱いている社内登山の魅力だと思います。
自然の中でリフレッシュできるだけじゃなく、仲間との結束力も深まる「登山」。同じ景色を見て、同じ達成感を味わうことで生まれる一体感は、心の距離を縮め、信頼や絆を育んでくれます。仲間との絆が深まることで、日々の仕事にも思わぬ変化が生まれるかもしれません。
「次の週末は、会社の仲間や友人と一緒に登山をしてみようかな?」
そう思った方は、ぜひこちらの記事もご覧ください。