YAMAPフォトコンテスト2022で大賞(優秀賞)を受賞した奥田祥吾さん(岐阜在住)。父親の影響で小学生の頃から山に登っている奥田さんは、大学生のときにカメラを始め、さまざまな国を旅しては撮影をしてきたのだとか。受賞作の撮影エピソードはもちろん、今まで見た美しい景色や感性の磨き方について、お話を伺いました。
2023.05.08
吉玉サキ
ライター・エッセイスト
―今回、優秀賞を受賞した作品は、厳冬期の五竜岳で撮影されていますね。撮影時のお話を聞かせてください。
奥田祥吾さん(以下、奥田):撮影する前日に、遠見尾根から五竜岳(2,814 m)に登りました。その日は2月の末で、晴れの予報だったのに途中から風が強くなって、目の前がたまにホワイトアウトするような状態。
膝まである雪を漕いで、5時間くらいかけて西遠見山のテントを張ることができる場所へ行きました。テントを設営する場所も風が強くて、1時間くらいスコップで雪を掘りまくって、やっとテントが張れましたね。
―過酷な状況だったんですね。稜線にちょこんと立っている人影は奥田さんご本人だとか。
奥田:そうなんです。あの景色を見た瞬間、「あそこに人がいれば、めちゃくちゃかっこいい景色が撮れるな!」と思い浮かんで、セルフタイマーを使って自分を入れることにしました。
―あの写真はどうやって撮影したのでしょうか?
奥田:10秒おきにシャッターが切れるように設定した一眼レフを三脚に設置して、あのスポットまで急いで行きました。だから、パラパラ漫画みたいに自分がどんどん小さくなっていく写真がたくさん撮れて、その中で一番かっこいいと思った写真を応募しました。
―撮影時は朝ですよね?
奥田:はい。陽が当たりはじめたときは鹿島槍ヶ岳がピンクに染まって、とてもきれいでした。その光景を見られただけで前日の苦労も報われるというか、「この朝焼けを見るために頑張ってここまで来たんだなぁ」と実感しましたね。あの写真を撮影したのはそのすぐあとです。
―まさに、あそこに人影があることでより印象的な写真になっていると思います。現像で心がけたことなどはありますか?
奥田:現像ソフトはAdobe(アドビ)のLightroomを使っているんですが、あまり見た目を変えたくない気持ちがあって、「見たままの景色や色を再現する」ことを心がけています。
ほんの少し明るさを調整したり、レンズについたゴミを取ったりするくらいなので、Lightroomの作業は1枚につき5分もかかりません。星空や夜景となるとやや時間をかけてレタッチしますが、昼とか朝焼けとか、真っ暗じゃない写真はほとんど手を加えずに完成させます。
―登山を始めたきっかけを教えてください。
奥田:父親が山好きで、小学3年のときに石川県の白山(2,702m)に連れていかれたのが最初の登山です。年配の登山者の方たちから「小さいのにすごいね」とたくさん声をかけられたことを覚えています。山小屋に泊まって、早朝にご来光登山をしたんですけど、その朝焼けがめちゃくちゃ美しかったですね。
その後、小学4年になると北アルプスの槍ヶ岳(3,180m)に父と行きました。山頂の手前のはしごや鎖場が怖すぎたことを強烈に覚えています。
―小さい頃から登っているんですね。もともと自然は好きだったのでしょうか?
奥田:普通に好きだったんですけど、槍ヶ岳に登ったとき、上高地に行ったんです。そこで見た梓川の色が、ものすごくきれいなエメラルドブルーで……。それで、自然の魅力にハマりました。
―小学4年で川の美しさに気づくというのは、とても感受性が豊かですね。
奥田:友達からもよく「感受性豊かやな」って言われます(笑)。自然の美しさを前にしたとき、自然を初めて見て感動した少年のようにはしゃいでいるそうです。「そんなところに感動する!?」みたいな。そういうのが写真からもにじみ出てると言われますね。
―お父様と一緒ではない登山はいつ頃から?
奥田:大学生のとき、一人で立山(3,015m)に登ってからです。でも、今みたいに本格的な登山をするようになったのは社会人になってから。今は、天気さえよければ1~2週間に1回は山に行っています。
―どの辺りの山に行くことが多いのでしょう?
奥田:車を持っていないので、電車とバスで行ける上高地や新穂高から登ることが多いです。僕は同じ山に何回登っても飽きることがないんですよ。
だからあちこちの山に行くというよりは、気に入った山に繰り返し登っています。同じ山でも、季節や天気によって新しい発見がある。そういう自然の細かい変化に魅力を感じます。
―ご来光や雲海など、人によって好きな山の景色があると思いますが、奥田さんはどんな景色が好きですか?
奥田:僕は、自然の厳しさを感じられる景色が好きです。強い風が吹いていたり、雪が舞っていたり、雲が流れていたり……。そういう、自然の躍動感を感じられる景色が好きですね。
―奥田さんにとって、登山の魅力とはなんでしょうか?
奥田:登ってるときは「なんでこんなしんどいことしてるんやろ?」と思うのですが、山頂で素晴らしい景色に出会うと、すべて報われるんですよね。それに、山の中にいるとすべてから解放されるんです。日々の仕事のストレスも、嫌なことも、その瞬間はすべて忘れられる。そこが山の魅力かなと思います。
―写真を始めたのはいつ頃でしょうか?
奥田:カメラを持ったのが大学1年なので、7~8年くらい前になります。石垣島に一人旅をすることになり、アルバイトで貯めたお金があったので、「せっかくならいいカメラを買おうかな」とノリで一眼レフを買ったんです。それで石垣島の写真を撮ったら、すごくきれいに写ったから楽しくなって。それがきっかけです。
―石垣島に行かれたとのことですが、登山以外の一人旅も好きなんでしょうか?
奥田:好きです。学生時代から、よく海外でバックパッカー旅をしていました。ボランティア活動でマレーシアに行ったり、野生動物の写真を撮りたくてケニアやタンザニアに行ったり……。
―とても活動的ですね!今まで旅してきた中で、もっとも心に残った景色は?
奥田:ワーキングホリデービザでカナダに滞在していたことがあるんですが、そのときに見たオーロラです。
農場を手伝う代わりにごはんと住む場所を提供してくれる「ファームステイ」というプログラムがあり、それを利用してカナダのユーコン準州に滞在していました。そこは天気とコンディションが悪くなければほぼ毎日オーロラが見られる場所なんですけど、オーロラってレベルがあって、レベルが低いと雲がもやもやしているように見えてあまり美しくないんですね。
だけど僕は2ヶ月間の滞在中に、3回も最上級レベルのオーロラを見ることができたんです!それってすごくラッキーなことなんですよ。そのときのオーロラはものすごく荘厳で美しくて、今も鮮明に覚えています。
―写真を始めてから、どのようにして上達してきたのでしょうか?
奥田:写真はほとんど独学です。大学生の頃は今以上にカメラにのめり込んでいたので、SNSで知り合ったカメラ友達と一緒に撮影に行ったり、技術を教えてもらったりしていました。それで、少しずつ上達できたのかなと思います。昔の写真を見ると、「今ならもうちょっとうまく撮れるのにな」と思いますね。
―構図の勉強もされたんですか?
奥田:いえ、構図は感覚ですね。ロジックというよりは感性で決めています。
―感性を磨くにはどうしたらいいのでしょうか?
奥田:今まで見たことがない景色や、いろんな人にたくさん出会うのが大切なのかな、と思います。被写体をどこからどの角度で撮ればもっとも美しく映るか、自然と考えるようになるので……。さまざまな国でいろんな人や景色と出会ってきたことが、今の自分の写真にも活きていると思います。
―奥田さんの写真の特徴はどういった点にあると思いますか?
奥田:あまり加工しないことも含めて、「見たまんま」っていうのが自分らしさなのかな、と。
誰でも撮れるような写真は心が動かないので、あまり他の人が撮っていないような一枚を撮りたいです。そんな景色と出会いたいですね。
―厳冬期の五竜岳も、誰もが行けるわけじゃないですもんね。今年、登りたい山はありますか?
奥田:この夏は、自分の限界に挑戦してみたいと思っています。友達が岐阜の新穂高から高瀬ダムまで、40㎞くらいのものすごい距離を1泊か2泊で歩いたんですよ。そういう、1日30km超えるような長距離の山行に挑戦したいですね。あえて過酷なことをしたいです。
―今後、撮影したい山はありますか?
奥田:今後は海外の山を撮影したいです。昨年末にネパールのエベレスト街道に行ったんですが、標高4,000mちょっとのところで高山病になって、動けなくなってしまったんです。それが悔しくて……。今年の年末、もう一度エベレスト街道に挑戦しようかなと思っています。
あとは、カナダの山も撮影しに行きたいです。カナダの山ってめちゃくちゃかっこいいんですよ。日本の山と違って、岩の層がくっきり見えて。あと、山の近くに湖があって、それが濃いエメラルドブルーでとても美しいんです。そういうところにすごく惹かれました。カナダにはワーホリで滞在していましたが、今ならもっといい写真が撮れると思うので、もう一度行って撮影したいです。
*(雪山初心者の方へ)雪山の撮影に行く場合には、ガイドや指導者の講習を受け、レベルに応じた山で経験を積んでから、ステップアップするようにしてください。