いろいろな山を登るうちに、「いつかは山小屋に泊まってみたいな」「テントで縦走をしてみたい」と思う方は少なくないはず。「山に泊まる」ことは、日帰り登山では味わえない楽しみがたくさんありますが、必要な装備があるのも事実。ここでは、そのひとつである「シュラフ(寝袋)」について、役割や選び方をご紹介します。
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2023.05.18
YAMAP MAGAZINE 編集部
シュラフとはドイツ語のシュラフザック(Schlafsack)が語源で、日本語では寝袋、英語ではスリーピングバッグと呼ばれています。山での就寝時に体を保温し、快適な睡眠を支えてくれる大切なアイテムです。
保温性を維持する中綿はダウンや化繊を使用。携行性を考慮し、専用のスタッフバッグに収納するとコンパクトになるのが、登山用シュラフの特徴です。
シュラフとひとことで言っても、タイプはさまざま。登山用のものでも、夏用の薄手のものから厳冬期向けのハイスペックなものもあり、「どれを選んだらいいの?」と悩んでしまうこともあるでしょう。
本記事では、登山向けのシュラフにはどのようなタイプがあるか、また選ぶときのポイントについて解説していきたいと思います。
登山用のシュラフにバリエーションが多いのは、それぞれが対象としている季節や山行の目的が違うから。前述のように、夏に使うのか、冬に使うのかだけでも、保温力は大きく異なります。まずは多彩なシュラフの違いを理解するためのポイントを2つご紹介しましょう。
シュラフには、その保温力をわかりやすく伝えるための目安が記されています。「対応温度」とは、「〜5℃対応」や「〜マイナス10℃対応」というように、「この気温までなら快適に寝られる」という指標のひとつです。
モデルによっては、「夏の登山向け」「3シーズン対応」という表現もありますが、シュラフ選びでは、この数値がとても大切になります。
そこで、シュラフを選ぶ際に調べておきたいのが、行きたい山の気温。ちなみに、夏(7〜8月)の北アルプスの3,000m付近の最低気温は10℃ほど。一方で、紅葉登山で人気のある秋(9〜10月)の涸沢カール(標高約2,300m)はマイナス気温を記録することも珍しくありません。
ただ、全ての山に合わせてシュラフを買っていると、いくつあっても足りません。メインとなる山行のなかでの、最低気温に合わせていくのがおすすめです。
また、シュラフのなかには「快適使用温度」「最低使用温度」という表記があるものも(※メーカーによっては「下限温度」や「使用可能温度」などの表記もあります)。快適使用温度は、文字通り寒さを感じることなく、リラックした状態で快適に睡眠ができる、いわば推奨温度。一方、最低使用温度は、快適性は多少損なわれるが、寒さへの耐性に強い人や、丸まった状態なら寝られる、という温度。ダウンウェアを着たりシュラフカバーを使用したりすることで保温力をサポートすればOK。
もちろん筋肉量や男女の体格差など体感温度は人によって異なるため、自分が寒がりなのか、暑がりなのかなどを考慮して選ぶ必要があります。基本的には、快適使用温度を目安にするのがオススメです。
シュラフといえば、ガチョウ(グース)やアヒル(ダック)のダウン(羽毛)を使ったタイプが一般的ですが、近年は濡れに強く、軽量で保温性に優れる化繊(化学繊維)素材のものも増えてきています。それぞれにメリット、デメリットを見てみましょう。
ダウン:軽量で暖かい定番素材
大手ブランドではほとんどのシュラフがダウンを中綿に使っているといっても過言ではないほど、メジャーな素材です。メリットとしては、軽量で保温性に優れ、収納時にコンパクトになるという点。デメリットはダウンジャケットと同じく濡れに弱く、雨や汗で濡れてしまうと保温力がガクッと落ちてしまうという点です。
なお、ダウンには「フィルパワー(FP)」という指標があるのですが、これはダウン30g当たりのふくらみを立方インチ(2.54cm立方)で示したもの。ダウンを使用したシュラフは、500〜700FPのものが一般的。同じ重量でも、500立方インチまで膨らむか、700立方インチまで膨らむかの違いがあります。
同じ対応温度であれば700FPの方が優れたシュラフと言えるのですが、上質なフィルパワーの高いダウンは価格も跳ね上がってしまいます。予算との兼ね合いで選ぶとよいでしょう。
化繊素材:扱いやすい新素材
化繊素材のシュラフの特徴は、扱いやすさが格段に優れているということ。濡れてもロフト(嵩高)が落ちにくいので保温性が維持され、濡れても乾きやすいため、長期の山行や雨が多いエリアでの山行で活躍します。
かつての化繊素材のシュラフはダウンに比べて重く、コンパクトになりにくいのが欠点でしたが、近年は素材の進化もあり、ダウンを凌ぐほどのスペックをもった素材が登場してきています。
また、ダウンは自然素材の羽毛であるため、洗濯やケアがデリケート。一方で化繊素材のシュラフはそのまま洗濯できるものも多く、汚れたり匂いが気になったりしたら気軽に洗えるのも魅力のひとつです。
これから小屋泊やテント泊に挑戦したいという方には、「3シーズン用」と呼ばれるものがオススメ。3シーズンとは、厳冬期を除く春から夏、秋までのことで、シュラフの快適使用温度は5〜0℃前後、最低使用温度が0〜マイナス5℃程度。
メーカーによっても3シーズンにおける使用温度の差はありますが、3シーズンと呼ばれているものを選べば、春の低山ハイクから夏のアルプス縦走、秋の紅葉登山まで幅広く対応できます。
中綿の素材については、ダウンのものが無難。化繊素材のものはラインナップが少なく、またアルパインクライミングや長期遠征など、特殊な用途をターゲットにしているものも多く、初めてのシュラフとしてはオススメしにくいのが正直なところ。スペックやデザインのバリエーションが豊富なダウンを使用したシュラフから選ぶ方が、お気に入りのものを見つけやすいと思います。
「標高が100m上がるごとに、気温は0.6℃下がる」と言われています。もし宿泊しようと考えているキャンプ地の気温がわからない場合、周辺の山や山小屋の標高と予報の気温を知ることができれば、おおよそ予測することが可能です。
たとえば、標高が1,000mの麓の街の気温が20℃、キャンプ地が標高3,000mにあるとすれば、予測できる気温は8℃に。シーズンによって、同じ山でも気温は大きく変化します。行きたい山の気温をチェックし、ご自身のシュラフの快適温度で対応できるかどうか確認することも、快適で安全な山行のためには欠かせないポイントです。
初めて山の上で寝るときは不安もあるはずです。できれば、気温や温度変化をある程度把握している、行き慣れた山で試してみるのがオススメ。また、夏山以外であれば、気温があまり低くなりにくい低山のキャンプ地であればより安心です。
経験を積みながら、少しずつ標高を上げていったり、山域を広げていったりして、山の醍醐味を楽しんでいただければと思います。